イエローストーンの動物たち(2002年9月16日)

3.クマ

 YSNにはグリズリ−が約250頭、ブラックベアが約500頭いると推測されています。エルクやバイソンに比べて、圧倒的に少ないのですが、個体密度や繁殖率が低いので、これからも爆発的に増えることは考えられません。

 YSNではクマの交尾期は6〜7月で、出産は1月の冬ごもりの最中に行われます。その間妊娠しているか、というとそうではなく、前にも述べましたが、「着床遅延」という体のメカニズムをクマは持っています。受精後、受精卵はすぐに着床せず、そのままメスの子宮内を浮遊しています。冬眠前に蓄えたエネルギーが不十分だと受精卵はそのまま着床しません。つまり、母グマの栄養状態を見極めてから、産むか産まないかを選択するのです。栄養が不十分のまま産んでも、子供にミルクをあげられないため、結局死なすことになったり、自身の生命に関わるので、このような身体のメカニズムに進化したのだ、と言われています。

 実際に着床するのは10〜11月頃なので、妊娠期間は約2ヶ月ということになります。冬眠中、母グマはミルクを子供にあげ続け、春を待ちます。ちなみにYSNでは一回の出産で平均2.5頭の子供が生まれますが、その半数は次の夏までに死んでしまいます。

 また冬眠中のクマは心拍数を下げることもわかっています。夏の就寝中は約40〜50回/分であるのに対して、冬眠中は8〜10回/分に減ります。また体温も37℃から32〜35℃へと下げます。

 排尿、排便、水の補給はどうかというと、これも一切しません。これは脂肪を新陳代謝させて尿素合成を減らし、膀胱から尿を再吸収するという循環で窒素排気物質の蓄積を回避しているからです。これも進化の結果でしょうか。

 一般的に冬眠穴に入のはオスがもっとも遅く、春になると一番早く穴から出ます(YSNでは3月下旬から4月上旬)。逆に妊娠しているメスがもっとも早く穴に入り、出るのも一番遅いと言われています(同4月下旬から5月上旬)。冬眠穴から出るとクマの体重は15〜40%減っています。しかし、春先の食べ物で太ることはめったになく、冬眠中に始まった体重の減少は夏から秋にかかるまで続くそうです。したがって、クマは年中腹を減らしているということになります。これは食べ物を急速に消化し、カロリーと栄養を吸収して、あとはウンコとして出し、また食べられるようになっている単純な消化器官と関係があるのではないでしょうか。

 クマの食べ物は半分以上が植物、30%がアリやハチなどの昆虫やその幼虫、哺乳類やげっ歯動物は2割にも満たないのです。それだけ捕食は難しいのでしょう。クマはエルクやシカなどの有蹄類が好物ですが、子供は産まれて2〜3日すればクマから逃れられるようになるので、クマにすればその2〜3日が勝負です。しかし、普通は病気や怪我で死んだ動物を食べることが多いようです。

 YSNではグリズリー1頭の行動範囲は約100平方キロと言われています。つまり、これだけ動き回らなければ、充分な食料が得られないのです。これに対して、日本の知床にいるヒグマの行動範囲は約4平方キロ。これはYSNの25倍の豊富な食料に恵まれていることを意味します。

 グリズリーとブラックベアを見分ける方法はいくつかありますが、毛の色や身体の大きさで判断しない方がいい、とよく言われます。茶色いブラックベアや小さなグリズリーもいるからですが、ほとんどの場合、大きさと体毛の色で見分けがつくと、個人的には思います。

 さて、見分けるポイントですが、鼻、耳、そして肩のコブが代表的です。鼻筋が真っ直ぐなのがブラックベア、窪んでいるのがグリズリー。耳はブラックベアは高く尖っており、グリズリーは短く丸い。そして、一番わかりやすいのが肩のコブです。グリズリーには肩のコブがあり、ブラックベアはありません。ただし、ブラックベアも歩き方によってはコブがあるように見えることがあります。他にも前爪や足跡でも見分けがつきやすいですが、クマと出会って、爪や足跡を見る余裕はないでしょう。

 オスとメスの見分けはほとんど無理と言われています。子供を連れているのがメスと判断する程度で精一杯です。

 グリズリーもブラックベアもほとんどの場合、人間に気付いたら逃げ出します。ただし、いくつか例外もあります。

1)近すぎる距離で突然遭遇し、クマが脅威を感じた時
2)子供連れの母親が防衛本能で襲う時
3)食事中で獲物をめぐり、競合すると思った時
4)自然の収穫物が不作の時
5)病気や怪我(狂犬病、せん毛虫病)の時

このうち1)〜3)はグリズリーに多いようです。さらに危険なのは人間や人間の食べ物に慣れてしまったクマです。これらは学習を重ねていくうちに人間への恐怖心が失われ、襲撃や捕食へとエスカレートしていきます。特に捕食目的のクマは人間を獲物としてみるので、死亡事故につながりやすいのです。しかし、こういうクマは人間の犠牲と言っていいでしょう。人間の不適切な食料や生ゴミの管理が人馴れしたクマをつくる主要因になっているからです。

 YSNでクマを見るにはラマー・ヴァレーが最も適しているでしょう。しかし、夏は見ることが難しいので、春・秋の朝夕がオススメです。他にはブラックベアだったら、タワー滝周辺、グリズリーだったらオブシディアン・クリフ(マンモス〜ノリス間)やレイクビレッジ、フィッシングビレッジ周辺で見れるかもしれません。見れたらかなりラッキーですよ。