大きな顔が描かれた縄文土器が出土 大桑村の大野遺跡
【長野県】人の顔をデザインした縄文時代中期中葉(約四千五百年前)の土器が十四日までに、長野県木曽郡大桑村の大野遺跡で出土した。丸い顔に、虚空を見つめる目。小さく口を開け、小首をかしげて何か言いたげだ。渦巻き状の耳や髪も表現されている。人間や動物をデフォルメしたような文様のある土器は東日本を中心に複数の出土例があるが、顔だけを独立して大きく表現した土器は全国でも初めての出土。縄文人の精神文化研究にとって貴重という。
人面装飾付土器は、高さ約四十センチ、胴部の直径約三十センチ。胴部には直径二十センチ余の素朴な丸い顔が描かれている。昨年十月末、同遺跡の環状列石遺構(ストーンサークル)内で出土し、同県埋蔵文化財センターで復元された。
土器は口縁部の外周に鍔(つば)状の平らな縁を付け、縁に沿って小さな穴を連続して開けている。この特徴から「有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)」と呼ばれる。胴部に人間や動物の姿を描いた例が多く、同県上伊那郡南箕輪村の久保上ノ平遺跡ではドクロのような人物を描いた土器が出土。山梨県櫛形町の鋳物師屋遺跡では人体を表現した土器が出土し、土偶などとともに重要文化財に指定されている。
有孔鍔付土器は、その特殊な形状から▽ヤマブドウなどを発酵させて酒を造った容器▽縄文時代のシャーマン(神に仕え、祈とうや神下ろしをする人)が、縁に皮を張って使った祭祀(し)用の太鼓▽種もみを貯蔵した容器−などの諸説がある。しかし、正確な用途は不明だ。
国学院大文学部の小林達雄教授(考古学)の話 山や川、木々など自然界の諸事物に精霊が宿っていると考える縄文のアニミズム(自然崇拝の原始信仰)。本格的に農耕が始まる前の人々の精神文化を、この土器に感じる。土器は単なる道具としてではなく、神聖な祭りに使った数少ない楽器の中の一つ(太鼓)ではなかったか。胴部に描かれた顔は人間の顔ではなく、精霊の顔だ。これだけ大きく顔をあしらった土器を初めて見る。造形的にも素晴らしく、縄文人の思いが表れていると思う。
▽大野遺跡 木曽川東部の尾根状台地で確認された遺跡。大桑村教育委員会が昨年九−十一月に調査した結果、縄文中期としては東日本で最古級となる直径二十メートルのストーンサークルや延長十二メートルの直線状列石遺構、集落跡などが見つかった。
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