タラップから降りる。


そこはもう日本ではない。


全てのしがらみから逃れられるはずの異国。


ここでやり直すのだ。別の名前と別の肉体を持って。




SR外伝

「ドイツにて−2010−」

Written by かつ丸



「ごめんなさ〜い、遅くなっちゃって。道路が混んでたのよ〜」

場違いな日本語があたりに響く。なにごとかと皆が振り返る。
それを気にすることも無く、彼女は笑いながらこちらに駆け寄って来た。

「いいえ、いいのよ、気にしないで」

そう答えながらも目は笑っていなかったかもしれない、実際かなり頭にきていた。
初めてこの国に来た10歳の少女を空港のロビーに一人放置しておくことは、どう考えても常識はずれだろう。
決して治安がいいわけではないのだから。

「ほんと、ごめんね、えっと、レヰちゃんだっけ。・・・はじめまして。私は葛城ミサト、ゲヒルンの、あら、今はネルフだったけ、とにかく、そこのドイツ支部の監察部にいるの」

「ええ、綾波レヰです、よろしく。日本から来ました」

「そうなんだってね、見た感じそうじゃないみたいだけど。私もこのあいだまで日本に帰ってたんだけどね、知り合いのお母さんの葬式だのなんだのでな〜んにもできなかったわ。レヰちゃんは日本のどこからきたの?」

言いながらミサトがレヰの荷物をその手に掴んだ。小さなスーツケース、それでも子供の身体にはかなり大きい。

「・・・・箱根からよ」

機嫌の悪さが表にでたような、無愛想な声で答える。
敬語を使ったほうがいいのかもしれない、しかしかつて何度も話したことのある彼女相手だけに、そうすることに抵抗があった。
特にミサトに気にした様子はないが。
今のレヰは一見して10歳というよりもっと幼く見える、だから言葉づかいがおかしくてもさほど変に思わないのだろう。

「なんだ、じゃあ、ホントにすぐ近くにいたのね。司令の関係者だから別に不思議じゃないか。 そうよね、だから私が派遣されたんだもの」

自分の言葉に納得したのだろう、うなずくとミサトは歩きだした。
いくら下っぱだとはいえ、ただの子供を空港に迎えに来るなど任務ともよべない、そのことにきっと不満を持っていたのに違いない。
ドイツ支部としては、レヰが総司令であるゲンドウの直接の口添えで来ている以上むげにもできず、同じ日本人のミサトに白羽の矢を立てただけだろうが。


空港の駐車場へ抜ける通路をミサトと連れ立って歩く。軍用ではない民間用の空港のためロビーのあちこちには毛布を持ってたむろする人たちの姿があった。場違いな子供の姿もある。みすぼらしい格好で通りかかる客を窺っている。
それを見ているレヰの視線にきづいたのだろう、いいわけするようにミサトが言った。

「やっぱり日本に比べてこっちは物騒だわ。まあアメリカや東欧に比べたら、まだましなんだけど」

「・・・・でも、ここには四季があるから」

セカンドインパクトで日本から失われたもの、それがこの国ではまだ残されているはずだ。地軸のゆがみの影響からかつてのものとは違っているとしても。

「ええ、そうよ。レヰちゃんは日本育ちなんでしょ? だったら冬がくれば雪が見られるわよ。私もこっちにきてから10年ぶりに見たもの」

「そうね、楽しみだわ」

雪が見たい、それがここに来た目的だったのかもしれない。

セカンドインパクトの混乱が収まってから10年近く、レヰはジオフロントの地下深くに籠もっていた。
その間は季節のことなど気にしたこともなかったけれど。

寝食を忘れてマギとエヴァの開発に没頭していたのは、忘れたかったからだろう、世界が変わってしまったことを。
レヰが、いや、赤木ナオコがその若き日を生きた場所が、ほとんど失われてしまったことを。







普通の墓地だった。

今の世界から考えれば、それはきっと幸せなのだろう。ちゃんとこの下には眠っているのだから、死んだ本人が。

セカンドインパクトの後、低地を襲った大洪水で失われた人たちは、そのほとんどが死体すら見つからなかった。
碑銘だけの墓標、それだけが死者が生きていた証となっていることも多い。
それに比べれば、まだ浮かばれる気がする。

惣流・キョウコ・ツェッペリン。

レヰが東京で教鞭をとっていたころの教え子であり、ドイツE計画の責任者。

エヴァとの接触実験で精神を汚染し、後に自ら生命を断った彼女を、最初にゲヒルンに入るように勧めたのはレヰ自身だ。

彼女の墓参をする、それがドイツに着き住むところをあてがわれてから、レヰが最初に決めたことだった。

キョウコが逝ってからもう2年がたつ。まだ新しい墓は、誰かに手入れされているようだった。小さな花も供えられている。

その上に、レヰも持って来た花束を置いた。


キョウコはとびぬけて優秀な科学者だった。

だから20代の若さでドイツでの研究部門を総括するほどになったのだ。世界から粋を集められたゲヒルンという組織、アダム研究という意味では日本よりむしろドイツが中心だったのだから。

将来は研究部門全体の長となることも可能だったろう。超一流の研究者、その名声を得るために、キョウコは前に進んでいたようにも思える。

だが、彼女が選んだエヴァとのシンクロ実験は彼女の精神を壊し、結果、彼女の生命すら奪ってしまった。
何をそんなに急いでいたのか、日本でのユイの実験結果のことは、彼女も聞いていたはずなのに。


それともそれゆえだろうか。

日本での実験こそが、彼女を急がせる原因となったのだろうか。

キョウコは気づいていたのかもしれない。

ユイの実験が失敗したのではなく、完全に成功していたことに。



「会ったことは無かったはずなのに。・・・それでもライバル視するのはしょうがないわね。同じモノを造ろうとしてたんだから」


アダムから造るエヴァとリリスから造るエヴァ。目的は違うとはいえ、その原理は同じだ。
ユイがエヴァの中に消えたことの本当の意味、エヴァとの同一化、それを求めたのだろう、キョウコも。
ゲンドウは知らなかったようだが、ナオコもユイの目的には気づいていた。
止めなかったのも、ゲンドウに告げなかったのも、望んでいたからだ、ユイが消えることを。

人がその心を乗せて滅びの時を超えるための方舟。永遠の生命をユイが得たように、同じことをキョウコもしようとしたのか。

キョウコがその道を選んだ理由はわからない。ユイのような使命感では無いようにも思える。
ただの対抗心かもしれない。同年代で共に天才と呼ばれた二人だったから。
昔から自分が一番にならないと気が済まない、そんなところがあった。

キョウコだけが失敗して不完全な形でこの世に残ったのは運だろうか、それとも誰かの意志だろうか。

ともあれ、直接人が繋がるという実験はそれ以降行なわれていない。
彼女たちが歩んだ道に続くに必要なほど、世界が逼迫しているわけではなかったから。
少なくとも、まだ。

「・・・使徒でもくれば別でしょうけどね」

目に見える形で兆候が現れない限り、誰も信じようとはしないだろう。
この世界が滅びに瀕していることなど。

そしてたとえそうなっても、人の形を捨ててまで生き延びようと思う者がどれほどいるだろうか。

キョウコは思い切れなかったのかもしれない、人を捨てることを。この世への執着が、結果彼女を向こう側へ行かせなかったのかもしれない。

死んでもなお別の身体を求めたレヰの魂のように。

「用済み」だとゲンドウから言われた以上、日本にいてもすることはない。未練たらしく彼のそばにいるのは嫌だった。
自ら殺した少女の身体を奪い、憎んでいた女性と同じ顔を新たに得て生きる、そのことが自分でもあまりに浅ましく感じられたから。

だからこの国に来た。実際日本で無ければどこでもよかったのだ。

ゲンドウから離れられれば。








「あんた、誰? そこでなにしてんのよ」

「えっ?!」

思考の底に沈んでいたレヰを現実に引き上げるように、静寂をかきけす声がした。

振り向くと、そこには一人の少女がいた。小学生くらいだろうか。

こちらを睨んでいる。厳しい表情。

「ママのお墓になんの用なのよ。いたずらするつもりじゃないでしょうね」

「・・・お墓参りよ」

「・・・・あんたが?」

うろんな目でこちらを見ている。栗色の長い髪、青い瞳。勝気そうなその顔だちは、確かにキョウコに似ているのかもしれない。

「ええ。おかしいかしら?」

「・・・・うそじゃないみたいね。ごめんなさい」

供えた花束に気づいたのだろう。少女の表情がゆるみ、安心したようにレヰに微笑みかけた。

「気にしないで。あなたはいつも来てるの?」

少女の手には小さな花が何本か握られている。墓の上にあったものと同じ物だった。

「うん・・・私だけだから、ママのこと覚えてるのは」

少女の顔が曇る。そういえばキョウコの夫は後妻を娶ったはずだ。
一瞬言葉を失ったレヰに気づいたのか、打ち消すように少女が言った。

「だからありがとう。・・・・でも、あんたみない顔だけどどこから来たの? ママのこと知ってるの?」

「・・・日本よ」

「ふ〜ん、ママの生まれた国ね。最近来たの?」

興味を持ったように少女は目を輝かせた。母親のことを話す相手がずっといなかったのだろう。家では義母に遠慮しているに違いない。

「ええ、つい最近よ」

「そのわりにドイツ語上手ね。・・・でも、今日はどうして? ママが日本にいたのなんて私が生まれる前なのに」

たぶんレヰのことを自分よりも年下だと思っているのだろう。2年前に死んだキョウコを知っているといっても説得力はあるまい。

「頼まれたの・・・・キョウコさんの知り合いから。かわりに花をあげて欲しいって」

「知り合いって?」

「先生だったそうよ、大学時代の。私の親戚の女の人」

その人の墓は日本にある。魂だけが別の身体に入り、こうしてここにいるが。

「そうなんだ。じゃあ、あんたがママを知ってるわけじゃないのね。そりゃあそうよね」

納得したような、がっかりしたような顔をして、少女は頷いた。
しばらく押し黙り、気を取り直したように顔を上げる。

「今日はホントにありがとう。今度日本のこと聞かせてよ」

「ええ、いいわよ」

「約束だからね」

そう言った少女の顔はなぜかとても寂しそうな様子にレヰには想えた。








「惣流博士? そりゃあここでは有名な人だから少しは知ってるけど、でもどうして?」

「・・・遠縁の親戚なの」

嘘だったが、分かりはしないだろう。セカンドインパクト以降戸籍に意味など無い。
キョウコの名を出したときミサトが怪訝な顔をしたのは、彼女がすでにここでは過去の人となっている証なのかもしれない。

「ああ、そうなの」

「彼女に娘がいるって聞いたんだけど・・・」

「え〜と、どうだっかしら。・・・確か養成所にいる子がそうだったはずだけど」

名前くらい分かるかと思ったが期待外れのようだ。
ミサトがドイツに来たのはキョウコの死よりも後だ。事情に詳しくなくてもしかたないだろう。

「養成所?」

「ええ、あなたもそこに入る手筈になってるわ。かなり厳しいところみたいだから、覚悟しときなさいよね」

「それは初耳ね。何の養成なのかしら」

「・・・さあ? 言われてみれば聞いたことないわね。まさか軍人ってことないでしょうし」

本当にあてにならない。
レヰは思わず溜め息をついた。リツコがよく愚痴をいっていた気持ちがわかるような気がする。

「まあいいわ。資料はどこかにあるんでしょう? 自分で調べてみるわ」

「そう? どっちにしろすぐに呼び出しがあると思うけど、明日にでも」

一日あれば充分だろう。
調べてから考えればいい。
暇つぶしになるのなら学校もいいかもしれないが、おかしな所にいれられるのはぞっとしなかった。

ゲヒルン、今はネルフという名のこの組織は決して聖人君子が集まって作られているわけではない。人体実験くらいは平気でするだろう。
たとえ子供相手でも。
それをレヰはよく知っていた。






セキュリティは無いも同然だった。

あくまでレヰにとっては、だが。

自室に持ち込んだ端末から支部のマザーコンピューターに侵入し、施設内部のデータを盗む。もともと本部含め全ての支部の情報設備は総括者である赤木ナオコの管理下にあったのだ。
死んで間もない現在、さほど大きな改変は加えられていない。むしろ膨大なネットワークを把握するのに腐心している段階だろう。
だからハッキングというよりは自分の庭を歩くようにレヰは情報を手にした。

マギがここにも配置され本格稼働すれば、そう簡単に手は出せなくなるだろうが。

「・・・エヴァの操縦者の育成、ね。まだ完成もしていないのに、手回しがいいのね」

ユイとキョウコ、二人の犠牲者を出したことが、おそらく研究者に恐れを生じさせたのだろう。
自ら破滅への実験台になろうという大人はもういまい。
子供の頃からデータを取ることで精神汚染の危険を回避しようというのだろうか。

ていのいいモルモットだ。やはり遠慮したほうがいいのかもしれない。それに自分でも得体の知れない今の身体が、格好の研究対象にされることは充分予想できた。

レヰ自身のことはいいだろう。いざとなればどうにでもなる。

気になっていたのは、あの寂しそうな目をした少女のことだった。

モニターに写る名簿を見る。

両手に満たない人数、みな同年代、日本でいえば小学校の低学年くらいのようだ。そこに惣流という名字を持つ者が確かにいた。

「・・・なぜキョウコの子供が?」

アスカ。それが彼女の名前だった。
キョウコから直接聞いたこともあるかもしれない。他人の子供にさほど興味は無かった、だから覚えていなかったのだろう。

いくつかの選抜過程を超えて集められたに違いない養成所の子供たち、その一人にキョウコの娘アスカがいる。そのことにどこか違和感があった。
それが何故かは自分でも分からなかったが。

人造人間エヴァンゲリオン。未来を失った人類の方舟、最後の希望、そして神のひな型。

ゲンドウが推進する人類補完計画の要として、それは日本とドイツで開発が進められていた。日本では人類の母リリスを元に、そしてここドイツではセカンドインパクトの元凶、アダムを元として。

まだ完成はしていない。日本ではユイ、ドイツではキョウコ、研究の中心となっていたそれぞれの科学者を失い、ここ数年開発は停滞していたはずだ。
唯一彼女たちに匹敵する頭脳を持つナオコはマギの開発に専念していた。現行のスーパーコンピューターではエヴァ研究のサポート力があまりにも弱い、それが明確だったからだ。
逆に言えばマギが完成した今、エヴァの開発も飛躍的に進捗するだろう、日本にはリツコもいる。

ドイツはどうなのだろう。

完成したばかりのマギ、将来はネルフの主要各支部に同等のものを配置する計画もあったが、まだほとんど白紙だったはずだ。
競争のように本部に対抗してドイツE計画を進めていたこの支部が、本部の先行を黙って見ているとも思えない。
開発しようとしているかもしれない、マギのようなものを。
マギは自分にしかつくれないという自負もあったが、ドイツでしていることについて、少し興味もでてきた。

ドイツ支部が本部と対等な、いや凌駕する力を持とうとしている。それはつまりゲンドウを超える力を持つ、ということだ。
それを自分のものにできれば、今度は彼もレヰを無視できないのではないだろうか。







「何してるの、あんた?」

やはり子供の姿だと目立つのだろうか。データを元に施設内を探索していたレヰに声をかける者がいた。

振り向けば見知った顔、ミサトが怪訝そうに見おろしている。

「どんなところだか調べようと思って」

なるたけ無邪気に聞こえるように答えた。初めての場所を子供が探検するのはあたりまえのことだ。

「ああ、そうなの。・・・でも、よくここまで入って来れたわね。まだカードも持ってないし、あなたのレベルじゃどのみち入れないのに」

最深部へ入れるだけのIDカードはすでに偽造している。ミサトがいるということはまだここはたいして重要な場所ではないのだ。
キョウコのいた研究施設はずっと奥まったところにある。まるでその存在を隠すかのように。

「よくわからないわ。でも、開いてたわよ、ドア」

「ふ〜ん、まあいいわ。・・・とりあえずでましょう。ここは子供の来るところじゃないのよ」

そう言って手をこちらに指しだす。つれだそうということか。しかしそれに従うわけにはいかなかった。

「やだ!!」

叫ぶと同時に走る。不意をつかれたミサトは反応できなかったようだ。

「ま、待ちなさい、レヰ!!」

背後の声を聞き流し。通路を曲がる。迷路のようにいりくんだ廊下を小さな歩幅で駆けていく。
後ろからはミサトの叫び声、追って来ているのだ。

体力ならあきらかに彼女が上だ。追いつかれる? そう思いスピードを上げる。

身体が軽い。

この身体になってから、いや、そうなる前からも、走ったことなどずっとなかった。
リツコがまだ子供だった頃、一緒に遊んだ時以来ではないだろうか、あの時はこちらが追いかける側だったが。

失われた年月。もう戻ることはないと思っていた。だが、今のこの身体は、あの頃のリツコと同じくらい生命に満ちあふれている。中に入った魂がくたびれていることなど、まるで嘘のように。

「待ちなさい!!」

「やだよ!」

「いいかげんにしなさい!!」

ミサトの声に怒りが含まれて来たようだ。なぶられていると思ったのかもしれない。
人通りのほとんどない通路、時折通りかかる人はみな何事かと驚いて見ている。傍からみれば遊んでいるようにしか見えないだろう。実際レヰは遊んでいた。

目的を忘れたわけではないが。


いくつかの階段を降り、通路を通りすぎ、レヰは一つのドアの前に来た。ミサトはまだ追いついてきていない。背後に誰もいないのを確かめ、カードでロックを外す。

「レヰ、どこなの!!」

「こっちだよ〜!」

こちらを見失ったミサトに、あえて聞こえるように言った。案の定声につられてやってくる、顔を赤く染めて。
半開きにしたドアから顔をだし、挑発するように舌を出す。そしてドアをあけ放ったままでまた後ろに駆けた。

「こら!! ふざけてんじゃないわよ!!」

いままで以上に必死で走る。
ミサトの追ってくる声がした。完全にキレている、そのうち銃でも撃つか知れない。目的の場所はあと本の先だ、もう完全にまいてもいい頃合いだろう。

頭に入っている通路の見取り図を思い描きながら、レヰは通路を曲がった。





そのブロックに人の気配はなかった。

ミサトが追ってくる気配はもうない。まいた上にあれからさらにもう一つセキュリティがかかったドアを通りすぎたのだ、彼女のレベルではもう入ってこれないだろう。
だからといってレヰに残された時間が多くあるわけはないが。


第1研究室と書かれたドアをあける。
部屋の中にはいくつかの平机とイス、そして書棚。机の上にはなにも残っていない。
キョウコが死んだのは2年前だ、それ以来ここはそのままになっていたのだろうか。
あまりつかわれている様子はなかった。

コンピューター上に残された研究データはここに来るまでに全て写し取っていた。
解析する時間はほとんど無かったが、エヴァ開発に関するものがほとんどだったようだ。それに数字だけをみていても分からないことはある。
レヰ自身マギの裏コードはデータ化せずに紙に書いてマギ内部に張りつけていたのだ。ハッキングを防ぐにはそれが一番よかった。
既に失われたかもしれないが、キョウコが研究していた場所には同じようななにかがあるのではないか、そう思いここに来た。

だが、無駄足だったかもしれない。

メモの類は全て処分されているようだ。書棚には普通の専門書ばかり、日記など当然ない。
さがせば挟まれた紙切れでも見つかるかもしれないが、その時間も無かった。

ならば実験設備を見てみよう。何をしているかを知るにはそのほうが早い。そう思い、レヰは奥のドアを開けた。

暗いホールのような場所、スイッチを探し明りを点ける。


そこに『彼ら』はいた。



壁一面に広がる水槽。
オレンジ色の光。
そこをただよう・・・・同じ顔をした少年たち。

銀色の髪、紅い瞳。年頃は今のレヰとそう変わらないだろう。

レヰはよく知っていた。彼らは同じなのだ。レヰと、そしてレイと。

これと同じものが日本にもある。ターミナルドグマの奥にこれと同じような水槽があり、そこには蒼い髪の少女たちが泳いでいた。

神からサルベージされた、魂の入れ物。人が造りしヒト。

日本でゲンドウたちがリリスからこの身体を作ったように、ドイツではアダムから作っていたのだろう。

ゲンドウがレイを作ったのはリリスの制御のためだ。それをユイの似姿にしたのは彼の趣味だが、それを許せずにナオコはレイを殺してしまった。
その後身を投げた時に抜け出したナオコの魂が、死んだレイの中に入った、そう思っている。
研究室のベッドで目覚めた後も、ゲンドウは何も説明してくれなかったが。

この『少年』たちは、ではなんのために作られたのだろうか。

セカンドインパクトによってアダムは胎児に戻っている。レイと同じ、アダムの制御が理由とは思えない。

それとも入れようとしたのだろうか、アダムの魂をここに。

水槽の中では『少年』たちが笑いながらこちらを見ている。水槽のプレートには「KAWORU」と書かれている。彼らの名前なのかもしれない。

感情の感じられない笑顔を見ながら、レヰは今は死んでしまったかつての教え子のことを考えていた。

とびぬけて優秀で、皆から慕われて、けれどいつも満たされていないように前に走りつづけていた彼女のことを。

日本から遠く離れたこの地で、キョウコは何をしようとしていたのだろうか。









研究室を後にし、もと来た道を帰る。

しかし頭からはさきほど見た映像が離れない。自然足取りも重かった。


「ようやく捕まえたわよ」


その声と共に、レヰは襟足を捕まえられた。誰かは分かっている。

「ホントに、どこいってたのよアンタ。さんざん探したんだから」

見おろすミサトの目は笑っていない。

「・・・迷子になってたの。良かったあ、見つけてくれて」

「あれだけ走り回っといてよく言うわ。お仕置きしてやろうかしら。さあ、帰るわよ」

基本的にお人好しなのだろう。子供には弱いようだ。レヰの言葉に毒気をぬかれたように、ミサトは呆れ顔になった。だが、まだ自分の状況には気づいていないみたいだ。

「何してる、そこで!!」

「えっ?」

「動くな!!」

するどい叫び声と共に数人の男が走り寄ってくる。ミサトは何が起こったのか分からないように呆然としている。

「な、何なの?」

「両手を上げろ。抵抗すると射殺する」

言葉通り男たちの手には銃が握られていた。
両手を上げながらミサトが答える。

「わ、私はここの職員よ。怪しい者じゃないわ」

「所属と名前は?」

「監察部三尉の葛城よ」

うろんそうにミサトを見つめ、男の一人が彼女の懐からカードを取った。

「・・・・嘘ではないようだな。この子どもは?」

「今日付けで本部から送られて来た綾波レヰちゃんよ。司令の知り合いみたいだから気をつけた方がいいわよ」

「司令って、碇司令のことか?」

少し強張った顔で男たちはレヰの方を見た。ゲンドウの悪名はすでに轟いているようだ。
気配を察したのだろう、ミサトの表情に力が戻って来た。

「そうよ。この子の案内をしていたの」

「・・・・どのみち貴様にここに入る権限はないだろう。どうやって入った?」

「えっ? どうやってって・・・普通にだけど」

「普通に? そんなわけがあるか。ここは一般職員は立ち入り禁止だ」

「だ、だってホントなんだもの・・・・」

しどろもどろにミサトが答える。実際彼女には事態が把握できていないだろう。レヰを追いかけて来ただけなのだから。

「取りあえず連行する。スパイの可能性もあるからな」

「ス、スパイって、そんなわけないじゃない。レ、レヰ、あなたもなんとか言いなさいよ」

「私、よくわからない」

「子供のせいにする気か、ますます怪しいやつだな」

「だから違うって! 私はこの子追いかけてただけなんだから」

「言い訳はいいから早く来い!!」

追い立てられるミサトと共に、レヰも連れられて行った。施設の上部へと。
ミサトはともかくレヰのことは疑われてはいないようだった。さきほどのミサトの言葉もあるのだろう。
乱暴な様子はない。気をつかっているようにさえ見える。
実際、レヰに何かあっても、ゲンドウが動くとは考えにくかったが。


「葛城三尉、貴様は今から訊問を受けて貰う、処分はその後決める」

部屋の前で止まり、男の一人が言った。

「処分・・・トホホ。なんにもしてないのに」

「私は?」

「君は・・・・そうだな、事情を聞かないといけないから、暫くの間おとなしく待っていてくれ。案内する」

「レヰ、ちゃんと話してよ」

ミサトがすがるようにこちらを見ている。実際レヰの言葉一つで彼女の処遇は決まるのかも知れない。そう思うと少し可哀相になった。

「分かってるわ、ミサトちゃん。心配しないでいいから」

微笑みながら言う。その口調は年上に対するものではなかった。





「で、どうして君はあそこにいたのかね?」

小さな会議室。椅子は大人用のものだ、今のレヰには大きすぎる。だから座りにくかった。
何度も姿勢を直すその様子があどけなく写ったのだろうか、問いかける男の声は優しかった。

「・・・・」

「おじさんたちはこわくなんかないよ。正直に答えてくれたらいい。あのお姉さんにつれていかれたのかい?」

「・・・・・」

黙ってしまったレヰを怯えていると思ったのだろう。彼らに苛立つ様子はない。
普通の子供なら怯えて当然だろうから。
向かいあった3人の男たちはみな静かにレヰが話すのを待っている。もっとも小学校低学年の少女相手に拷問をするような大人などそうはいないが。

「・・・知りたかったの。彼女は関係ないわ」

「何をだね? 葛城三尉は君を追いかけて来たと言っていたが」

「そうよ、ミサトちゃんは捲き込まれただけ。私が探してたのは、惣流・キョウコ・ツェッペリンの遺したもの。彼女の研究室の中のね」


沈黙。

男たちの笑顔が凍りついた。それに向かいレヰが妖しく微笑む。


「あなたたちがここの機密について詳しいならいいんだけど、そうでないならそれなりの人を連れて来なさい。私は碇所長、いえ、今は司令だったわね、彼の紹介でこの施設に来た。この意味が分かるでしょう?」


固まっていた男たちが顔を見合わせる。ゲンドウの名が効いたのだろう、あからさまに青ざめた表情をしていた。

「し、しばらくお待ちください」

そう言って一人がでていく。残った二人の男たちがレヰをみる視線も、すでに子供を見るそれではなかった。





「君が綾波レヰくんだね。私がここの責任者だ」

どれくらい待っただろうか。しばらくして入って来た男にレヰは見覚えがあった。
キョウコの夫だった男。彼女の結婚式には出席したので、そのときにふたこと三言言葉は交わしたはずだ。 当然向こうは今のレヰなど知らないだろうが。

「はじめまして、お会い出来て光栄ですわ」

「どのみち明日には挨拶をするつもりだったのだけれどね。君は司令の肝入りでここに来たのだから」

皮肉な口調で話す。子供相手ではなく、レヰの背後にいるゲンドウに向かって話しているのかもしれない。

「・・・・それで、君が知ろうとしたことはいったいなんだ。キョウコのことを調べていたそうだが」

すでに人払いは済ませてある、ここには彼とレヰしかいない。

「ええ、ここで最高の科学者だった人ですから。今日はなかなか興味深いものを見させていただきましたわ、立派な水槽ですわね」

「まさか、アレを見たのか・・・・いくら司令の関係者とはいえ、あれはここの重大機密だ。見過ごしにはできんぞ」

「アダムから造りしもの、だからですか? でも、まだ完成はしてないんでしょう?」

「き、君は・・・」

レヰを見つめるその瞳に、明らかな動揺が見て取れた。

「あの人形達には魂が入っていなかった。それとももうどこかにいるのかしら、アダムの魂を持った少年が」

「・・・・完成させる前にキョウコは逝ってしまった。今の我々の技術力ではあそこを維持するだけで精一杯だ」

「でしょうね。・・・じゃあエヴァ開発も止まっているのね。日本のデータ待ちってこと?」

「その代わり槍の研究はこちらで行なっている。わざわざ日本と同じことをする必要は無い」

苦虫をかみ砕いたような顔が答える。

「でも、あの『少年』たちは日本に内緒なんじゃないの? それに養成所をつくってエヴァの操縦者まで育成を・・・・・そう、そういうことね」

そこまで言って初めてレヰは思いあたった、地下の『少年』たちの存在理由を、キョウコがしようとしていたことを。

「あの『少年』たちこそが本当のエヴァの操縦者なのね。アダムから造られたヒトならば、アダムから造られたエヴァと完全にシンクロする。たとえ魂を持たなくても、人と同じ脳神経を持っていれば外部からでもコントロールはできる。そういうことなの?」

「・・・・・・」

「マギクラスのコンピューターさえあれば、そんなに難しいことではないですものね。データの蓄積に時間はかかるかもしれないけど。・・・・でも、じゃあ何のために養成所をつくったの?」

消耗品の操縦者がいるのだ、わざわざ生身の人間を使う必要はないだろう。目的がエヴァの操縦だけならば。

「・・・データ取得が主たる目的だ。それに未完成のものに頼るわけにはいかん」

「そう・・・・完成させてあげましょうか?」

「・・・・どういう意味だ?」

呆気に取られた彼に微笑みながら言う。

「私なら、アレを完成させてあげられるわ。ついでに言うならエヴァも、ね。とりあえずはこっちにもマギシステムを構築する必要があるけど」

「・・・・そんなことが子供に出来るわけがない!!」

「普通ならね。でも、普通の子供を碇司令が送りつけると思う? 私にはできるわ、きっとキョウコよりも完璧にね」

「き、君はいったい・・・・」

こちらを見る表情は、すでに恐怖で歪んでいた。一見して小学生にしか見えない少女、だがその中に別の何かをみたのかもしれない。

「私は綾波レヰ、それ以外の誰でも無い。でも、何も知らない少女ではないわ。あなたと同じくらいは知っている。補完計画のことも、ネルフのしようとしていることもね」

「な、何のことだ・・・・」

立ち上がり、ゆっくりと男の所に歩く。顔を青くしている彼の耳元に口びるを近づけ、ささやくようにレヰは言った。他の誰にも聞こえないように。

「白き月の報い、それがセカンドインパクトの真実、そうでしょう?」

「ど、どうして・・・・・」

目を剥いたまま、彼はレヰの方を見た。かまわずにささやきを続ける。

「別に私は司令の子飼いじゃないわ。今はまだ敵にまわる気はないけど。日本に内緒にしたいならそれでもいいわよ、そのほうが都合がいいし」

「・・・・・・・・分かった。本当に君にそれができるんだな、キョウコと同じことが」

「すぐに、とは言えないけど、それでもあなたたちがするよりずっと早いでしょうね。必要なら試してみてもいいわよ、私の能力がどれくらいか」

「・・・・いや、自分の力で最機密のあの場所に入ったというなら、その必要はないさ。そんなことはうちの誰にも不可能だからな」

諦めたのか、それとも開き直ったのか、キョウコの夫だった男は苦笑しながらレヰにそう言った。

「それで、いったい何をすればいいのかね。君には養成所に入って貰うつもりだったんだが。ここで子供がいるのはあそこしかないからね」

「・・・とりあえず私にキョウコの使ってたあの部屋をいただけないかしら? あそこが一番便利そうだから、それと正式なIDもね」

「分かった。技術部長のほうには伝えておこう。・・・きっと驚くだろうがね」

そう言って肩をすくめる。なかなかこたえない性格のようだ。だからキョウコが死んで1年もたたないうちに再婚ができたのだろう。

「ねえ、一つだけ教えてくれない?」

「何かね?」

立ち上がり部屋のドアを開けようとする彼を見上げながら、レヰは問いかけた。

「どうしてアスカが養成所にいるの?」

「・・・・エヴァの操縦ができる可能性が高いからだ」

そう答えた彼の視線は、レヰのほうを見てはいなかった。










「どうしてあんたがここにいるの?」

一夜があけた。すでにレヰの元に新しいIDカードは届いている。
自分のものとなった研究室に向かう道すがら、施設の通路で出会ったのは栗色の髪の少女だった。

「あら、え〜と」

「アスカよ。惣流・アスカ・ラングレー」

「私は綾波レヰ、よろしくね」

「自己紹介はいいわ。それでどうしてあんたがここにいるのよ。ここは普通の子供は入れないはずよ」

詰問するように問いかけてくる。昨日墓地で話した時のような和やかな雰囲気はそこには無かった。

「今日からここに通うことになったの」

「ここに? じゃああんたも養成所に入るの? 私がいるんだから人を増やす必要なんかないのに」

「養成所? いいえ、違うわよ」

「じゃあ何よ」

「ここの研究施設に研修に来たの。欧州では一番施設が整ってるそうだから」

「研修に? ふ〜ん、子供の癖に、あんた見かけによらず優秀なのね」

養成所に入るのではないと知ったので安心したのだろうか。アスカの口調からは刺々しさが消えた。

「そんなことないけど。でも、アスカちゃんはどうしてここに? 養成所ってとこにいるの?」

「なによ、その『アスカちゃん』ってのは、子供じゃないんだから・・・まあいいわ。いい、ホントは内緒なんだけどあんたにだけ特別に教えて上げる」

瞳をきらめかせて彼女は声をひそめた。

「養成所ではね、世界を守るためのパイロットを養成してるのよ。サードインパクトを起こそうとするモノから人類を守るエリート戦士をね」

「へえ、凄いんだ」

「そうよ、すっごいんだから。まだ肝心の兵器が出来てないんだけど、私がもっともっと大きくなる頃には完成して、そしてそれにあたしが乗るの。2年前から選ばれてるんだから」

「養成所には他にだれもいないの?」

レヰの質問にアスカは少し嫌な顔をしたが、すぐに自慢げに答えた。

「いないことはないけど、いないも同然よ。だってあたしがダントツで一番なんだから。レヰだっけ、いずれあんたもあたしが守ってあげるわ。人類の美しき守護天使、アスカ様がね」

「うん、お願いね、アスカちゃん」

「ちゃんづけはやめてって、アスカでいいわよ。じゃあね、レヰ。あ、そうだ、もう時間無いけど、今度はアドレス教えてよ。あんたとはなかなか話が合いそうだわ」

「わかったわ。それじゃあ」

「またね〜」

手を振ってアスカが駆けていく。その後ろ姿をレヰは見ていた。
エヴァの操縦者になる、そのことになんの疑いもみせないアスカの笑顔を思い出しながら。

世界を守る戦士など、幼い少女が持つ夢ではない。戦う事など誰も望まないだろう、普通ならば。

けれどもキョウコを失い、父も新たな生活を持とうとする今、この世界には彼女の居場所はなくなろうとしていたのかもしれない。
養成所に入りエリートと呼ばれる事で、その空白を埋めようとしているのだろうか。
身を危険にさらし兵士となることと引き換えに、居場所をつくろうというのだろう、この世界に。

大人の心を持つ自分なら、これからアスカが大きくなればそんなものでなくてもいくらでも居場所をつくることなどできる、そう思える。
けれど子供の彼女は、それしかないと、そう思いつめてしまっているのかもしれない。

レヰがこれからドイツですることは、せっかくできた彼女の居場所を失わせることなのだろうか。


日本にいるリツコを想う。レヰのただ一人の娘のことを。

赤木ナオコが綾波レヰとして生きていることをリツコは知らない、今はまだ教えるつもりはない。

自ら生命を断った母を、彼女はどう思っただろうか。

ほとんど放任して育てて来た娘だが、背中を追うように科学者になり、ゲヒルンへと入って来た。
ナオコの近くに居場所を求めていたリツコを、自分は裏切ってしまったのだろうか。
今頃リツコもアスカのように空白を埋めるためにもがいているのだろうか、あの暗い施設の中で。

それでも、強く生きて欲しいと思う。ナオコの幻影になどまどわされず、自分の人生を自分の足で。
勝手な想いかもしれないが。

キョウコもきっとアスカにたいして同じ想いを持っているだろう。

自分がかかわってきたもののために、娘が戦いに捲き込まれ歪んだ人生を歩むことなどきっと望まない。
「カヲル」の開発はキョウコの遺志でもあるのだ。アスカがパイロットになっても、きっとキョウコは喜ばないだろう。
最終的に12機作られる予定のエヴァ、本当の用途は補完計画の実現だ。
そこにあの少女の夢など入る余地はないのだ。たとえ使徒が来ても、来なくても。
ならば早いうちにここから離れさせることが、結果幸せに繋がるのではないだろうか。
残された時間は少ないのだから。


「・・・・・全部言い訳ね。ごめんなさい、アスカちゃん」

そう、いくらアスカのためだといっても、結局はゲンドウに行き着くための自分のエゴから来ていることを、レヰは自覚していた。
再び彼の前に立つ、今度は無視できない力を持った存在として。
そうしないと、この新たな生に意味など無いような気が、レヰにはしていた。

それもただの思い込みかもしれなかったが。



「あ〜!! レヰ、やっと見つけたわよ!!」

通路に声が響く。ミサトだ。

彼女のことはお咎めと無しにすると聞いていたが、それでもだいぶ絞られたのだろう。肩をいからせてこちらに向かってくる。

「あら、ミサトちゃん、元気だった?」

「何がミサトちゃんよ何が!! アンタのせいで昨日は酷い目にあったんだから、今日はマジでお仕置きさせて貰うからね!」

「ふふふ、捕まえられたらね」

そう言って駆けだす。そして振り向いてレヰは言った。

「どうしたの? 追いかけて来ないの?」

「ふ、ふざけんじゃないわよ。もうその手には乗らないわよ!! このくそガキ!!」

地団駄を踏みながらミサトが怒鳴っている。笑いながらレヰは速度を上げた。
通りがかる人たちが振り返る。蒼い髪の活発な少女の姿に。

人々の間を駆けぬけながら、自分が走って出来た風をレヰは感じていた。

新しい身体、そして新しい暮らし。

今はまだ楽しめばいいかもしれない。世界の終わりは始まっているけれど、顕在化するその時はまだ遠い。

赤木ナオコから綾波レヰになって、自ら生命を捨てて、多くのモノを失った。

親も、娘も、地位も、知り合いも、愛した人も。

それでも取り戻せる何かはあるはずだ、新しく手に出来るものも。


だから今は走ろう。

その先にあるものだけを見つめて。

いつかまたもう一度あの人に会う、その時までここで生きていこう。

なぜ生きているのか、なぜこうしてまた生きているのか。

分かる日がきっとくる、そのことを信じて。







〜fin〜








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解説:

表題のとおり、SRの外伝です。
最低でも「新月の少女」を先に読まないと意味不明だと思います。

なぜセカンドチルドレンが綾波レヰなのか、本編中でも一通り説明はしていますが、物語の根幹にかかわる部分なだけに、機会があれば書きたいなと思ってた部分です。
この話の時点ではまだエヴァも出来ていないし、チルドレンの選抜も行なわれていないですけどね。

今回初めてアスカがセリフつきで出てきました。
悩まなくても言葉がでてくるから書き易いキャラではあるのかな、よくわかりませんが。
この続きがあるとすれば、彼女が主役の話になる可能性が高いと思います。
そうなってもLASにはなりませんけどね、シンジが絶対出て来ないから(笑)。
だからといってLAKになるわけでも、他のボーイフレンド出すつもりもない・・・・・と思うけど。

自分なりにアスカというキャラの掘り下げをしていくと、いろいろと考えることはありますね。
彼女の境遇とかなんとか。
別に嫌いじゃないですよ。マジで(^^;;。


補足ね。
キョウコの没年については2005年となっていて最初はだから5年前としてかいてたんだけど、「Death」での時系列を優先させて、途中で2年前に変更しました。
別にどっちでもよかったんだけどその時点でのアスカの年齢、4才よりは7才のほうがリアリティあるかなと。


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