Written by かつ丸
そして結局何が変わったのか、それはリツコにはまだわからない。
シンジのように別の「未来」を体験したものならば、何が同じで、何が違うのか、行なったことの意味は何か、全てわかるのかもしれないが。
自分が操られるマリオネットでしかない、そんな無力感が消えない。
これまでもゲンドウの操り人形だった、だからそれも今さらの想いだろうか。
仕事を無理やりに一段落させ、リツコは研究室を出た。
帰り支度はしていない、白衣のままだ。
夕刻を過ぎただけなのに、本部内は人が少ない。
今日はみな早く帰ったからだろうか。地上があれでは、それも無理はないと思った。
使徒を巻き込んだ、零号機の自爆。
侵食され融合したあの状態では、他に取るべき有効な手段は存在しなかっただろう。
シンジがかつての戦闘力を持って、そして最初から出撃していれば、あるいは撃破も可能だったのかもしれない。
だが、それはありえない可能性だ。考えることに意味は無い。
多くの建物が破壊され、巻き込まれたくさんの人々が亡くなった。市民の大部分はあらかじめ避難していた、それでも死傷者の数は二ケタでは収まらなかった。
人類の滅亡をさけるための、止むを得ない犠牲。そう言われれば彼らや遺族は納得する、そんなものでもあるまい。
様ざまなものを代償に、ネルフは使徒を撃破してきた。
残る使徒はひとつ、それを倒せば終わる、いや、始まるのだ。
人類補完計画。
時間を遡ってまでシンジが避けようとした、人類の滅びは、やはり止めようも無く近づいてきている。
これでよかったのだろうか、これでいいのだろうか、本当に。
最深部に向かうエレベーターの一つ、その前につく。
ここから先は一般職員は使えない。ターミナルドグマに入ることができるのは、選ばれたものだけだ。技術部職員がメンテナンスに入るときも基本的に保安部の監視がつけられる、そう定められていた。
もちろん、リツコは拘束されてはいない。いつものようにスロットにIDカードを通す。しかし、ドアが開く代わりにエラーを告げるランプが灯り、警告音が鳴った。
背中に押し付けられる、何か。
「ムダよ。使えなくしてるから」
「……加持くんの仕業、ね」
ミサトの声に、全てを理解した。
識別装置のデータを書き換えたのだろう。ミサトのスキルの範囲ではない、手順は加持からつたえられたに違いない。過去に何度か加持は潜入している。自分が入るのも、誰かを入れなくするのも、技術的にそれほど大きな違いは無い。
銃を向けてくるミサトの息遣いは静かだ。本気だと分かる。おそらく、冷たい目をしているだろう。
リツコが来るのを、物陰で待っていたのだろうか。気配を全く感じなかったのは、彼女が相手ならしかたあるまい。
望みは分かっている。ここまで性急な行動を起こさなくてはならないほど、ある意味ミサトも追い込まれているのだ。
『その時』が近いことを、感じているからかもしれない。もはや余裕はないと。
「…あなたの隠してる秘密、教えてもらうわよ」
銃をつきつけていても、ミサトの言葉は脅迫ではなく、懇願としかリツコには取れなかった。
だから、頷いた。
皮肉な笑みを浮かべていたことは、後ろにいるミサトには分からなかったろう。
知りたければついてこいと、そうミサトに言った。
エレベーターで施設の奥深くまで降り、そこからさらに歩く。
リツコの目的の場所には直接行かず遠回りした、ミサトに内部を見せるためだ。
レイが育った場所。
エヴァの墓場。
ここが人工進化研究所と呼ばれていたはるか昔の痕跡がここにはある。
ゲンドウたちの原点とも言えるところだ。
簡単な説明をしながら、ゆっくりと進んだ。ミサトは拳銃を手に持ったままついてくる。
緊張した表情は変わらない。
だが、彼女の興味はここにはないらしい、リツコに対して時おり苛立つような様子を見せていた。
「…リツコ、私はこんなことが聞きたいわけじゃないんだけど。いったい、どこに行くつもり?」
「もう少し先よ。…ねえ、ミサト、なぜ突然こんな真似をしようと思ったの?」
「別に、突然じゃないわ。あんたの、いえ、あんたとシンジくんの行動は、以前から不審な点が多かったし、それに…昨日のこともあるし」
「なるほどね。…さあ、着いたわよ」
天井に何本ものチューブが張り巡らされた広い空間。中心には一本の管が淡く光っている。中はLCLが詰められているだけで、他には何も入っていなかった。
ミサトをここにつれて来たのは半ば勢いだったが、目的地は最初からここだった。
ゲンドウは出張中だ、冬月はほとんどここには来ない、すぐに咎められることはないはずだ。
だから、ここで待ち合わせることにしたのだ。
予想していた通り、彼女は、すでにそこに立っていた。
「待たせてしまったみたいね」
「………レイ?」
ミサトが唖然としている。それを無視して、こちらを見ている蒼い髪の少女に近づいた。
制服を来たいつもの姿で、けれど、少し驚いた顔をしているのかもしれない。一緒に来たミサトが原因であることも、リツコにはよくわかっていた。
第三者を同席させてもできるような話をするために、レイはここに来たわけではないからだ。
もの問いたげにリツコに視線を向けてくる。それには答えずに、リツコはミサトのほうを向いた。
「…それで、何が知りたいのあなたは」
一瞬絶句したミサトは、リツコとレイを交互に見ている。
無理やりに落ち着こうとしている、そのことがわかった。
「……マヤから聞いたわ。零号機の脱出装置を改造したのは使徒戦の直前だったって。まさか、偶然だなんて、そんなことないわよね?」
「…偶然、とは考えないの?」
「誰も信じないわよ、そんな都合のいい展開」
単独で出撃した零号機は、使徒に捕まり、その侵食を受けた。
体内に入り込んだ使徒にほとんど有効な反撃ができないまま、みるみるうちに零号機は侵されていった。
弐号機は出撃するまでも無く起動できず、初号機は封印中。郊外の林だったため、兵装ビルからの援護射撃も射程外だった。もちろん、仮に撃てても零号機を避けて狙うのは不可能だったろう。
発令所にいる者たちにはなす術も無い。
スピーカー越しにの苦悶の声を聞いているしかなかった。
みな、蒼ざめた顔をしていた。
ただ一人、リツコを除いて。
初号機の封印解除をゲンドウが指示したのは、彼もやはり焦っていたからなのだろうか。
委員会の支持を仰ぐこともせず、独断で、彼は決めた。
初号機までもが侵食される可能性がある、先の使徒戦でアスカが襲われていた時はそれを盾に出さなかった、だのに今回は出した。
レイを、助けるために。
だから、リツコも決めた。
未来を変えることを。
レイを思いやってではない。
初号機をも失うリスクを冒してでもレイを救いたいとゲンドウが願った。
ならばそれもいいだろう。
彼の愛人であった自分にとって、なんのゆがみも無い選択だ。
そう思った。
シンジの言葉に従ったからではないのだ、断じて。
不定形で動きも早くATフィールドすら通用しない使徒は、初陣のシンジにとってあまりに厳しすぎる相手だった。
やる気がなかった訳ではあるまい、訓練を行なううちにこのような日を覚悟していたのか、少なくとも出撃時には嫌がる素振りは見せてはいなかった。レイが危険なことを、当然彼も分かっている、ワガママを言えるような状況ではないことも。
それでも、無理だった、荷が重すぎたのだ。
ライフルを構え、零号機に近づこうとした初号機は、一瞬で使徒に武器を弾き飛ばされた。
もともと銃器の使用には無理がある状態だ、戦闘経験があれば、すぐさまプラグナイフを取り出し接近戦を狙ったかもしれないが、たちまちにシンジは逃げ腰になっていた。
しっかりしろと、ミサトの怒号が響く。かつてのネルフの守護神の名残は、もはやどこにもない。最初の戦いから見せた天才的な動きなど、かけらもあらわせていない。期待していた発令所の面々に、失望の色が濃くなっている。レイの乗る零号機への侵食は、なおも進んでいく。
その時、リツコはレイに指示を出した。使徒ごと零号機を自爆させよと。
何を言うのかと色めき立つミサトたちを無視し、リツコは後ろを振り向き頭上のゲンドウを見上げて言った。爆破直前でプラグを排出する、そうするしか使徒を殲滅しつつレイを助ける方法はない、そのことを。
しばらく逡巡した後、ゲンドウは頷いた。
零号機を捨てることは、彼にとっても軽いことではないはずだ。しかし、このままでは零号機はかつての参号機と同じになってしまう。レイを乗せたまま「目標」になるよりはマシだ、選択するしかないはずだった。
内向きのATフィールドで使徒を取り込む、そしてエネルギーシステムの制御を外し、コアに負荷を集中させる。その手順が終わるのを待って、発令所からの信号でプラグを射出させた。機体をぶち破るようにして、エントリープラグが飛び出し、遥か遠方に飛んでいく。
ATフィールドはまだ消えない、あらかじめダミーシステムを組み込んで置き、切り替えたのだ。自爆の瞬間まで、使徒を縛り付けるために。
強制脱出機構の強化と、ダミーの設置、これが、リツコが仕掛けていた魔術のタネだった。
ダミープラグとの親和性は、零号機が最も高い。暴走する心配は無く、機体が閃光に包まれたその時まで、何も変わらないように動きつづけた。初号機を避難させるゆとりすらあったほどだ。
第三新東京市と零号機、その二つと引き換えにして、使徒は倒した。
あまりにも都合が良すぎる、ミサトでなくてもそう感じるだろう。
何も言われてはいないが、ゲンドウや冬月もそうだったにちがいない。
「ダミーにしてもそうだわ。あんた、どうして前もって準備ができたのよ?」
「…なんだかレイが助かったのが不満みたいね。あのまま乗っ取られていたほうが良かった? それとも彼女ごと自爆させろとでもいうのあなた」
「そんなことじゃないわよ! はぐらかさないで!」
叫ぶミサトを無視し、レイに近づいた。
彼女も、何事も起こってなどいないかのようにリツコを見ている。
プラグの着地点が爆心地から遠かったため、彼女自身に被害は無かった。回収後精密検査を受けたが、炎症すら起こしてはいなかった。三人目などではない、もとのままの綾波レイがここにいる。
このことを、「シンジ」はどう思うだろうか。
願いは叶えた。
それで何が変わるというのだろうか。
「待ちなさいよ!」
詰め寄ってきたミサトが、リツコの腕を掴んだ。
部屋は中央のカプセルからの淡い光だけで照らされているだけだ。怒りで興奮したのかミサトは息を荒げている。
「…落ち着きなさい。ちゃんと説明するわ」
「………」
「ミサト、あなたには話さなかったけど、零号機の自爆というのはもともと考えうる手段の一つではあったの」
「…なによそれ、どういうこと?」
ミサトが掴んだ手を離す。レイはやはり何も言わず見ている。
白衣のポケット両手を入れたまま、リツコは言葉を続けた。
「今回の戦闘、他の2機のエヴァがあてにならない以上、零号機が単独で使徒を倒さなければならなかった、それはわかるわよね。つまり、零号機が使用可能なあらゆる手段を用いて使徒殲滅を行えるよう準備した、私がしたのはそれだけのことよ」
「……最初からピンチになれば相討ちさせるつもりだった、そういいたいの?」
「別におかしいことじゃないわ。以前マギが使徒に乗っ取られた時、マギごと爆破しろとあなたもいったじゃないの。同じことよ」
「マギは機械でしょう? エヴァだけならまだしも、ひとつ間違えばレイも巻き添えになるかもしれなかったのよ? プラグが射出されなかったら、あんたどうするつもりだったのよ!?」
「同じよ。そのまま自爆させたわ。使徒を倒すために必要だったならば」
「リツコ……」
目を見開いてミサトが絶句している。
もう一度、リツコはレイに向き直った。月のように薄蒼い光が、少女の髪を銀に変えている。
お互いに、無表情のまま、しばらく対峙していた。
「…あなたを助けて欲しい。それがシンジくんの残した言葉よ」
「………そうですか」
「あなたの正体を、あの子は知っていたわ、それでも、死なせるなと言った。その意味がわかる?」
「……………いいえ」
「…そう、私にも、わからないわ。でも、さほど遠くない未来に知ることになるのかもしれないわね、その理由を」
「………」
シンジの名を出した時、レイにとまどいの色が浮んでいた。いつもリツコに見せることの無い、人間らしい表情だった。
「…レイ、あなたはシンジくんの何を知っているの?」
「……何も。…結局、何も教えてはもらえませんでした」
「そう、そうでしょうね」
どんな使徒が来るのか、レイが知っていた様子は無かった。手紙を託されたのも、彼女ならば約束をたがえずにリツコに渡してくれると、シンジが知っていたからだけなのかもしれない。
そして、もう一度話を聞くためにリツコはレイを助けざるをえない、そのことを予想していたのかもしれない。
だが、それは誤りだ。リツコの心を軽く考えすぎている。昨日、本当に最後の一瞬まで、リツコは迷っていたのだ。
わけがわからないといった顔で話を聞いていたミサトが口を開いた。
「いったい、どういうことなの? シンジくんがどうしたって言うのよ」
「何でもない、そう言っても信じないでしょうね。…レイごと自爆させても同じだったのよ。彼女が、綾波レイが死ぬことはなかったわ。この娘には代わりがいるから」
「それって…」
ポケットからリモコンを取り出し、リツコはスイッチを押した。
部屋の明かりが灯り、壁がオレンジ色に染まる。
埋め尽くされた水槽と、そこに泳ぐ、数十の綾波レイ、それが露わになる。
「リ、リツコ!?」
「これがダミープラグの正体。そのコアとなるもの。ここにいるレイたちはみなサルベージされたもの、魂の入っていないただの人形よ。ガフの部屋はからっぽだったから。魂を持ったものは、ひとつしか、つくれなかったから」
「じゃ、じゃあレイは」
「そう、人によって造られた者。けれど彼女は生きている、ちゃんと魂が入っているわ、同じ器の中に。だからもし死ぬことがあってもなんの心配もいらないの。ここには替えがいくらでもあるんだから」
「…何よそれ。司令も、あんたも、一体何を、何を考えてるのよ!」
ミサトが叫ぶ。レイは何も言わずミサトとリツコを見ている。
リモコンを持ったまま、リツコは小さく笑った。
「これが、ネルフの、あなたの所属する組織の正体よ、ミサト。使徒を倒す、その目的のために必要なことならばタブーなどない。そうじゃなくて?」
「狂ってる、狂ってるわよ、あんた!」
拳銃を向け、ミサトが叫んだ。撃たれるかもしれない、それでも別に良かった。
レイはやはりなんの感情も持てないように、黙っている。秘密を知られて、ショックを受けた様子はない。
「…ミサト、これはあなたが知りたいと言った真実の、そのほんの一部よ。耐えられないなら逃げればいい。許せないなら私を殺してみればいいわ。そんなことで何ひとつ止められはしないでしょうけど」
「リツコ…」
「もうひとつ、教えてあげるわ。預言書の言葉を信じるならば、残った使徒はあと一体のはずよ。次に現れる最後の使徒が倒されればあなたの復讐は終わる。その後どうするか、考えておくことね」
「……次が、最後?」
「じゃあ、私は帰るわ。…レイ、話の続きはまた、機会がある時にしましょう」
シンジのことを話す。そのためにリツコは電話をしてレイを呼び出していた。レイにもそう言った。彼女も異存はなかったようだ、同じ気持ちだったのだろう。レイはレイなりに疑問を持っているようだったから、それはあたりまえだと思う。
ミサトの乱入は、イレギュラーだった。けれどリツコの気持ちを冷静にするにはかえって良かったかもしれない。二人きりで会っていたら、もっと違った形になったかもしれない、たとえば、彼女を殺し、ダミーシステムをも壊す、とか。
それも今は仮定の話、選ばれなかった選択肢だ。
レイが何も知らない、少なくとも「シンジ」の正体は知らない、その確認ができれば、今はそれでよかったのだと思える。
「待ってリツコ」
「…行くわよ、ミサト。今のあなたは、まだするべきことがあるわ。このまま、アスカをほうっておくつもりなの?」
「……余計なお世話よ、あんたに言われたくないわ」
銃を降ろし、苦々しげにミサトが顔を背けた。ミサトがそうであるように、リツコもシンジを放置している、確かに人のことは言えない。
自嘲気味に微笑み、リモコンのスイッチを押して灯りを消すと、リツコは歩き出した。ミサトも無言で後に続く。
レイはそのまま残っていた。ついてこいと言わなかった、だからだろう。どうでもよいことだ。
来た道とは違い、地上に直行する経路を通った。
ずっと何も話さなかったが、途中、ミサトが一度だけ口を開いた。
「次の使徒が最後、そう言ったわね」
「ええ」
「もしかしたら分かってたの? どんな使徒が来るのか」
「……いいえ、ただ使徒の数だけよ。だから確実なことじゃないわ」
「…そう」
納得した口調ではなかった。予言されていると、そう言ったほうが都合が良かったかもしれない。
シンジのことを、隠すには。
けれど、それもいつまでも気にする必要は無いのかもしれない。残った使徒はあと一体、もう時間はわずかしかない。
リツコは思い出していた、シンジが残した手紙に書かれていた言葉を。
”世界を滅ぼした僕と彼女の、そしてなにより、熱で崩れた綾波たちの前で泣き伏していた、あなたの運命を変える、そのために。”
運命は、変わったのだろうか。
ただ一つ言えるのは、ここから先は「シンジ」も知らない、そのことだけだろう。
けれど――
―― けれど、ミサトに詰問された時から、リツコはこのことを予想していたのかもしれない。
委員会からの審問通知がリツコのところに届いたのは、レイの秘密をミサトに明かしたその翌日だった。
ゲンドウや冬月からの連絡ではなく、特殊監査部の部員を名乗る黒服の男がリツコのもとに訪れたのだ。
有無を言わせぬ、慇懃だがそんな雰囲気を漂わせたその見知らぬ男に連れられ、リツコは黒塗りの車に乗せられた。スモークドガラスで外は見えない、目的地らしき場所につくまでは運転手も含めみな無言だった。
もちろんリツコも何も言わずに黙っていた。技術部の部下達に仕事を引き継ぐヒマが無かったので、戻った後、残した業務の段取りをどう行なうか、そんなことを漠然と考えていた。
ゲンドウはこのことを知っているだろう。
冬月の拉致事件以降、本部のセキュリティレベルはあがっている。彼の了解、もしくは大きな混乱も無しに、いかな委員会といえどもこんな真似ができるはずはない。
前回手引きをしていた加持も、もういないのだから。
帰れないのではないか、とは、あまり考えなかった。
恐怖も無い。
この先にあるものが自分に対する悪意であると分かってはいたが、突然すぎてそのことに実感が湧かないのだろうか。
来たことのない建物、照明が薄く落とされた暗い部屋、リツコの周りには最初に現れた男と同じような黒服たちが数人、並んでいる。
その中の、おそらくリーダーにあたる男が、リツコに近づいて、審問の開始を告げた。
低く、感情の篭らない声で。
着ている服を脱げ、それが最初の指示だった。