見えない明日で

第6章 第8話

Written by かつ丸







 瓦礫がばらばらと降ってくるのが見えた。
 吹き抜けをふさぐ遮断壁の残骸だと、遠目にもわかった。
 もう、初号機は地上についたころだろうか。

 LCLはまだ波打っている。軍艦が上下にうねる。
 その一部を染めていた赤い液体はもうかなり広がり薄まっている。
 潰されたカヲルの残骸は、あの底に沈んでいるのだろう。

 十字架の下、かつてリリスであったものは、ほぼ崩れきり、その肉体を二つの白い小山と変えてしまっている。
 割れた巨大な仮面は、一端だけをわずかに出し、それぞれ小山の中に埋まっている。
 ゆっくりと、山は低くなっていくように見えた。
 LCLに溶けていっているのか、それとも自然に消えようというのか。

 弐号機はもう動かない。あれは、コアが完全に死んでいる。
 もはやどうやっても、再生させることはできないだろう。

 この本部に残ったエヴァは初号機一体だけだ。
 エントリープラグが外された、本来、動くはずの無い機体。
 だが、無限のエネルギーを持つS2機関と、あの少年の、秘められた意志により動かされている。

 神の分身。

 あれはもう、誰にもコントロールなどできまい。


「…リツコさん、あの、いったい…」


 いつのまにか近づいていたシンジが、不安そうに問いかける。
 その言葉に、リツコもようやく我に返った。


「…シンジくん、身体に痛みや異状は無い?」

「え、ええ、別に」

「そう…」


 嘘ではないだろう。
 姿勢がいいとはいえないが、特に痛みを耐えているような様子は無かった。
 プラグスーツではなく、中学校の制服姿なのは、着替える暇も無く出撃したからだろうか。
 頭に装着されたヘッドセットだけが、パイロットの証だった。
 泣いていたように、目が赤い。だが表情はむしろ虚脱しているようだった。


 振り向き、レイのところに戻る。息はあるが、目は閉じたままだ。
 うめき声はもうだしていないが、それは気を失ったせいなのだろう。
 容態は安定している、そう言っていい。予断は許さないが。

 脱ぎ捨てたままだった白衣をはおり、靴を履いた。
 数分と経っていないが、いっとき体を濡らしていたLCLはもう乾いている。だから不快ではなかった。


「あ、あの…」

「とりあえず、上に戻りましょう。手伝ってもらえる?」

「え、それって」

「彼女よ。ここに置いていくわけにはいかないでしょう」


 そう言って、シンジに倒れているレイを指し示した。
 依頼ではなく、言葉には命令の響きを含ませてある。
 それでも、彼は戸惑っているようだ。


「あ、え、で、でも…」

「照れてる場合じゃないわ。一応男の子なんだから、あなたの役目よ。…さあ、向こうをむいて、そこにしゃがんでちょうだい」

「は、はい」


 レイの体を抱え上げ、シンジの背に乗せ、腕を肩からまわす。レイは意識の無いままで力も入ってはいないが、脚を持ったシンジが前傾姿勢さえきちんと取っていれば、ずれおちることはないだろうと思う。
 促すと、ふらつきながらも、彼は立ち上がった。

 大丈夫かと、そう尋ねると、思ったよりも重くない、そうシンジは答えた。
 レイだからだろう、筋肉などほとんどついていないシンジのやせた腕では、透き通るように細い彼女以外の誰も、抱き上げることなどできないような気がする。
 リツコも含めて。


「…じゃあ、行きましょう。向こうにエレベーターがあるわ」


 先導するように、歩き出す。
 シンジがついてきているのは、気配で分かった。


 いつのまにか、通路の照明は通常状態に戻っている。戦闘配置はまだ解除されていないようだが、地下にはもう敵がいないのだから警戒はしていないということか。
 ならば、ここにリツコたちがいるのも、おそらく発令所からは探知できているだろう。

 保安部あたりが来るかもしれない。
 だがそれも、すぐに、ではないはずだ。
 カヲルが使徒だっただけではなく、弐号機とリリスの破壊、そしてロンギヌスの槍を手にした初号機の暴走、今現在リツコに関わることなど不可能なほど上が混乱しているであろうことは、容易に想像できた。


 しばらく進みエレベーターに乗る。
 その間シンジもリツコもひとこともしゃべっていない。
 シンジがもっと動転しているのではとも思ったが、取り乱した様子は無かった。

 少し横目で見たが、顔を赤くしている。
 レイを背負っていることで意識が別のところに飛んでいるだけのようだ。


 十数秒が経過しエレベーターが止まる。
 まだドグマの深部だが、リツコの目的地はこの階にあった。


 薄暗い通路を、シンジを引き連れて歩く。
 やはり体力が無いのか、後ろで彼が何度か体勢を整えているのがわかる。

 しかし、声はかけない。シンジも何も言わない。
 お互いに無言だった。


 目的地でもある広い空間に出たところで、リツコは白衣からリモコンを取り出し、スイッチを押した。
 つい数時間前カヲルをここに連れて来た、その時と同じように壁面を埋める水槽に灯りがともる。
 部屋がオレンジ色に染まる。

 けれど、さきほどとは、様子が違っていた。


「リ、リツコさん、ここは?…この部屋はなんなんですか?」


 シンジの声に、リツコは応えることができなかった。
 水槽の中から、いたはずのモノたちが消えている。
 綾波レイのクローン、ダミープラグのもと。

 いや、消えているのではない。オレンジ色の液体のところどころには、何かが漂っていた。

 目を凝らして、そしてわかった。

 崩れて、溶けたのだと。
 そう、あの地下のリリスと同じように。

 リリスから生まれたとはいっても、ここにいるレイたちは魂をもたない、ただの肉塊だった。
 ヒトの形作っていた力は、その元となるリリスが滅んだことで、同時に失われたのではないだろうか。


「…別に、気にしなくていいわ、シンジくん。さあ、レイをこっちに」

「は、はい…」


 部屋の隅にある簡易ベッドにシンジを導いた。もう少し先にあるレイの育った場所と同じように、彼女をメンテナンスするだけの設備がここにはある。
 ダミーシステム作製時にはほとんどここに滞在していたのだ。薬品や検査器具の類も、十分にあった。

 シンジの背からレイを下ろし、二人がかりでベッドに寝かせる。


「向こうをむいて座ってなさい」


 そう言って、リツコはレイの制服を脱がし始めた。あわててシンジが従う。
 3メートルほど離れたところで、うずくまるようにしていた。


 体温、血圧、心電図、脳波、それぞれを測定するためのコードをレイにつなぎ、機器を動かす。
 リツコがそうしている間も、シンジはただ黙って、なにも言わなかった。

 レイはやはり目覚めていない。昏睡に近いのかもしれない。
 彼女が他のレイのように崩れないのは、独自の魂を持っているからだろう。魂無き人形たちとは違い、彼女独自の自我境界線が存在して、それが綾波レイの肉体を保っている。

 だが、それもいつまでもつか。


 一段落したところで、後は様子を見ることにし、リツコはシンジのほうを向いた。
 いいつけどおり静かにしている。
 その表情は、ここからは見えない。

 3歩、彼のほうに近づいた。


「…何も訊かないの? シンジくん」


 びくっと、彼の肩が震えたのがわかった。
 もう2歩。座っているシンジの真後ろに立つ。
 気配は感じているはずだが、振り向くそぶりはみせない。
 かまわずに、リツコは言葉を続けた。


「じゃあ、私から尋ねるわ。…出撃して、さっき目を覚ますまでの間のこと、あなたは、どこまで覚えているの?」

「どこまでって…知らないうちにああなってたから…」

「エヴァに乗った記憶もない? そんなはずはないわよね」


 まさか乗る前から意識がなかったわけがあるまい。
 カヲルのことを知って搭乗拒否でもすれば、気絶させて強制的に乗せることもあるかもしれないが、今の様子を見る限り、違うように思えた。


「…急に警報がなったんです。葛城さんにすぐに初号機に乗るように言われて、本部の中に敵が、使徒がいるって言われて…、でも、出撃したあとのことは、本当にあまり覚えてないんです。ていうか、起動してまわりが暗くなって、気づいたら、リツコさんが僕を呼んでいて…」

「そう…」

「あの、ここは本部の中、なんですよね。さっきの、プールみたいなところも…」

「ええ、そうよ。使徒は、もう殲滅されたわ…」

「カヲルくんが…、弐号機が、使徒を倒したんですか?」


 初めて、シンジが振り向いた。
 首だけ回し、リツコを見上げている。
 意識を失っていながらも、彼は、何か異変を感じたのだろうか。その表情は緊迫感を漂わせている。


「…いいえ、違うわ。倒したのは、初号機よ」

「……僕が?」

「いいえ、あなたには意識は無かったんでしょう? 初号機がやったのよ。あなたの、知らないうちに」


 そうだ、このシンジではない。リツコは確信していた。
 カヲルがつぶされた前後、リツコが目を離していた時に響いた大きな水音は、カヲルではなく、初号機のプラグがLCLに落とされたためのものなのだろうと。
 おそらく、カヲルを殺す前に、エントリープラグを切り離したのだ。

 そのずっと以前、吹き抜けを降下している時から、すでに初号機を動かしているのはパイロットとは別の存在だった。
 弐号機と戦ったのも、このシンジの力ではなかった。

 シンクロ率400%という数値とともに、暴走したエヴァの中にシンジが溶けたあの後、今のシンジと入れ替わり帰ってこなかった彼、未来から来た碇シンジ、あの少年がやったことなのだ、間違いなく。

 もちろん、すべてを納得できたわけでも説明づけられるわけでもない、しかし、リリスを滅した初号機を見てそこに確かに彼の意志を、彼の瞳に宿っていた光が持っていた力と同じ意志を、はっきりと感じ取ることができた。


「…初号機が。…でも、じゃあカヲルくんは、カヲルくんはどうなったんですか?」

「彼は、…死んだわ、おそらく」

「そんな……そんな……」


 いつのまにか完全にリツコの方に向き直ったシンジは、半腰で立ち上がっている。興奮したのか、コブシを何度も固めなおし、強張った顔は今にも泣き出しそうだ。


「…カヲルくんは使徒に、使徒にやられたんですか? 僕が気絶なんかしてたから…」

「あなたのせいではないわ。たとえ目を覚ましていたとしても、おそらくあなたには勝てなかったでしょう」

「でも、でも…」


 なぜなら、カヲル自身が使徒だったからだと、そう話すのは今は止めておいた。弐号機を操り中空に浮かぶ彼の姿を見たわけでもないなら、信じられるものではないだろう。
 しかし、その時リツコは大きな矛盾に気づいた。


「…ねえ、シンジくん、あなたはどうして渚くんに何かあったとわかったの?」


 そこがおかしい。
 シンジは、吹き抜けの下で倒されていた弐号機には気づかなかったようだ。気づいていればその時に騒いでいただろう。
 あの時はまだ混乱していたろうから無理も無いと思うが、ならばなぜカヲルに異変があったと分かるのか、出撃時にも敵が彼だとは聞かされていなかったというのに。

 リツコの言葉に、シンジは虚を衝かれたように驚いた顔をした。


「え、でも、だって……」

「渚くんが死んだのは、あなたが気絶している間のことよ。どうして、わかったの?」

「それは……そう…そうだ……あの時、僕は聞いたんだ。誰かが、ごめんって言うのと、そして……カヲルくんが…カヲルくんが……」


 シンジが、みるみる涙を流しだした。
 彼自身は自分が泣いているとは気づいていないようだ。


「…カヲルくんが、僕に、…さよならを……言うのを……、そうだ、だから…カヲルくんに…何かあったって……」


 唇を噛み締めながら、シンジが嗚咽を漏らす。
 ずっと意識が無かった彼だが、カヲルの声を聞いた、そのことを確信しているようだ。
 夢や錯覚だとは、リツコにも思えなかった。
 カヲルが告げた別れを、シンジは受け入れている。
 たとえ見ていなくとも、彼の死を心の深いところでは知っていた。プラグに乗っていたため初号機と微かにでもシンクロしていた、だからかもしれない。

 それを察知したから、初号機はプラグをエジェクトしたのだろうか。

 詳しいことを訊こうともせず、ただ俯いて泣いているシンジは、もしかしたら分かっているのかもしれない、カヲルが使徒だったと、初号機がカヲルを殺したと。

 シンジ自身、触れることもできない自我の奥底で。


「そう…、…渚くんは言っていたわ、ここに来て、あなたに、シンジくんに会えてよかったって…」

「でも…でも…僕はなにも、なにもできなかった…。カヲルくんに、何も言えなかった…」


 あのシンジのような覚悟は、彼には無い。流されるままここにいるだけの、ただの子ども、ぬけがらのようなものだとリツコは思っていた。
 しかし、カヲルを想って泣くシンジのその姿は、いつかのようなただ無垢な己の不幸を嘆いていただけのものとは違う。無力な彼自身へと向かっている自責の念は、かつてリツコの前で何度も涙を流していた、未来から罪を償いに来た少年と重なるような気がした。

 もちろん、その傷の深さは、とうてい比べるべくも無いが。


 かつてのシンジも、同じようにカヲルと心を通わせたのかもしれない。
 そんな相手を自分の手で殺したのだとしたら、それはどれほど大きな傷痕となるか、リツコには想像もつかない。

 だがそれは、目の前で泣いているこのシンジの気持ちには、関係の無いことだろう。


「…あのヒト自身が死を望んだのよ、だから不幸ではないわ」


 そう言ったのは、リツコではない。
 思わず振り向いた。シンジも顔を上げる。
 いつのまにかレイが身を起こしていた。下着姿で、コードをつないだまま。


「レイ、目が覚めたの?」

「あの、それは…」

「私にも、聞こえていたから…、あのヒトの声が」


 静かな表情でそう言った。嘘をついているわけもない。
 リツコには聞こえなかった。しかしレイには届いていたのか。
 カヲルが話していたというのはこのシンジへの呼びかけか、それとも初号機にだろうか。
 だが、そう話すレイの様子からは、いつもより優れないのがはっきりとわかる。
 詳しく聞きたいとも思ったが、無理はさせられないだろう。


「…やはり、体調が悪そうね。休んでいなさい、レイ」

「あの、カヲルくんは、カヲルくんはなんと…」

「シンジくん」

「…あなたが聞いていたとおり…。ありがとうと、最後にそう言ったわ」


 興奮気味に問いかけるシンジと対照的に、落ち着いた声でレイが答える。
 それで冷静になったのか、シンは肩を落とし、その時ようやくレイの姿に気づいたようにあわてて目をそらしていた。
 リツコは、レイを見ていた。具合が悪そうなだけではなく、かすかに感じる違和感。
 LCLの水槽が暗いオレンジ色に染めるこの部屋で、レイの体も薄灯りに照らされている。
 しかしそれだけではなく、レイの体もまた淡く光っているように見える。
 その色白さゆえの錯覚、そうだろうか。

 振り払うように、軽く首を振った。
 ここで時間を潰している場合ではない。リツコにはするべきことがある。

 計測器の数値を見、大きな異状が無いのを確かめると、コードを外し再びレイを寝かせ、リツコは彼女にシーツを掛けた。


「…シンジくん、私は、発令所に行くわ。あなたは…、そうね、ここでしばらく彼女の様子を見ていてあげて、そのうち人が来ると思うから」

「えっ…」

「あなたも、落ち着くまでここにいたほうがいいわ。今、みんなのところに行けば、きっと大変だと思うから。なにしろ、あなたは初号機に乗ってないわけだし…」

「あ、…そうか、そうですよね…」


 今はじめてそのことに気づいたかのように、シンジが驚いた顔をした。それで納得したのだろう。
 静かに床に座る。
 レイは何も言わず目を閉じている。寝たのかどうかは確認しなかった。先ほどの様子から判断してもう急速に悪化するとは思えない。

 そうして、リツコはその場を後にした。
 肉片だけの水槽を見ながら、この場所に来ることはもうないかもしれないと、なんとなく考えていた。








「先輩! 先輩、どうしてたんですか!」


 予想通り、最初に迎えたのはマヤの叫び声だった。リツコは一度研究室に戻り、着替えも済ませている。それで時間を食ったことが、よけいに彼女を焦れさせたようだ。
 日向と青葉は、そんなマヤを見て苦笑しているだけで何も言わない。
 ミサトは、腕を組んだまま厳しい目でリツコを睨んでいる。それも、想像していたとおりだ。

 予想と違ったのは、発令塔の最上層が無人だったということだ。ゲンドウと冬月の姿が無い。もちろん、この中層部にもいない。使徒戦の体制ならいるはずなのだが。

 詫びるようにマヤの肩に手を置き、二度叩く。そうしてリツコは、無言のまま仁王立ちしているミサトのほうに近づいた。


「…今、どうなってるの?」

「……あのとおりよ」


 険のある顔でそう言って、ミサトはあごを動かした。
 その先にあるのは大モニター。映しているのは本部の外観風景のようだ。

 いや、それだけではない。うずくまるように座っている紫の巨人、槍を握ったままに動きを止めている初号機の姿がそこにはあった。


「…動力、停止しているの?」

「いえ、戦闘中ほど強力ではありませんが、初号機はATフィールド展開しています。こちらからの全ての連絡を絶ったまま、なおも活動中です」

「ああやってすでに数十分、じっとしたままよ。どうなってるのか、こっちが訊きたいわ、リツコ。あんた、地下に、ドグマにいたんでしょう?」

「まあね…」

「だったら、だったらアレはなに。渚くんはどうなったの! 初号機は何をしたの! なぜ槍が帰って来たの! シンジくんはどうなっちゃったのよ!」


 ミサトが詰め寄る。そう言われながらリツコはオペレータたちの席にあるモニターをチェックしていた。
 ひとつの画面にはドグマ最深部で破壊された弐号機が映っている。
 別の画面には崩れきったリリスの姿とLCLに浮く空のエントリープラグ。


「…ここから、見えてたんじゃないの?」

「モニターが回復したのは初号機が地上に出てくる直前です。強力な結界でずっと遮断されていました」

「リツコ、あんたは知ってるんでしょ!?」

「…渚くんは初号機が殲滅したわ。彼が操っていた弐号機も同様。槍のことや今の初号機の状況は、私にもよくわからないわね」


 腕を掴んで問いただしてきたミサトを、いなすように淡々とリツコは答えた。
 周囲にあまり驚いた様子は無い。状況から予想していたのだろう。


「…あの巨人は?」

「あれも初号機のしわざ、理由は訊かないで、私にもわからないわ」

「じゃあ、シンジくんは?」

「プラグの中で気絶していたから私が保護して、…今は休んでいるわ。初号機には誰も乗っていない、そのことくらいは分かってるんでしょう?」


 リツコの言葉にマヤがうなずいた。
 掴んでいた手を、ミサトが離す。
 そうして、唇をかむように顔を歪めて答えた。


「発進後すぐ、初号機とコンタクト不能になったのよ。ここからの信号もすべて通じなくなって…、じゃあ、あれはシンジくんの仕業じゃないというの?」

「違うわね、あれも暴走よ、おそらく。…今も」


 もう一度、正面の大画面を見た。
 初号機はまったく動く様子を見せない。のどかともいえる青い空と草木の風景の中に、溶け込もうとするかのように静かに止まっている。
 何をしているのだろうか、何かを、誰かを、待っているのか。


「…司令と副司令は?」

「初号機が上に来てすぐに、二人ともどこかに行ったわ。戦闘態勢を第二警戒態勢に移行と、そういい残してね」

「そう……」


 彼らが事態をどこまで把握しているのか、それはリツコにもわからない。
 善後策を考えているのか、それとも委員会に、彼らが裏切ろうとしていたゼーレに相談でもしているのか。


「…ねえ、リツコ、彼が、あの渚くんが最後の使徒だったの?」

「ええ、そうよ。でも、これですべてが終わるわけじゃないわ」

「それって…」


 リツコのその言葉が合図でもあったかのように、その時警報が響いた。


「どうしたの!」


 ミサトが叫ぶ。
 画面の初号機に動きは無いままだ。
 だが、すでにリツコには原因は分かっていた。


「…これは、マギへの攻撃だな」

「副司令…」


 いつのまにそこにいたのか、背後に立っていた冬月が他人事のようにつぶやく。
 うなずいたリツコも、いかほどの問題も無いと言うように、小さく微笑んでいた。







 







〜つづく〜












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katu@osaka.104.net



解説



次回はゲンドウでるかな
二人きりの地下でシンジとレイが何かするかどうかは秘密だ。














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