白い天井。

薄暗い部屋。

・・・ここは・・・。

ゆっくりと意識が形を作っていく。

全身がだるい。首を動かそうとしても、体が言うことをきかない。

目だけを使って辺りを見る。

点滴。左腕とつながっている。

・・・病院・・・。なぜか納得した気になり、再び意識が混濁していく。

 


ANOTHER MIND

Written by かつ丸


 

 

人の気配を感じて目を覚ました。まぶしい。部屋の明りがついているようだ。

先程よりも身体は軽くなっている。

 

「目が覚めたようね」

声のする方に視線を向けると、そこには女の人が立っていた。

逆光のせいか、焦点がなかなか合わない。

・・・誰だろう。

たぶん、惚けたような様な顔をしていたのだろう。その女性はこちらを覗き込むようにして、さらに言葉を続ける。

「・・・どう?。身体の具合は」

白衣を着ている。

お医者さんかな。病院だもんな。

でも金髪のお医者さんていうのも珍しい。外人のようには見えないし。

「・・・私の声が聞こえてるわよね。神経パルスにもおかしなところは無かったし・・」

後半はほとんどつぶやきになっている。

 

左目の下にほくろ。なぜだか黒い眉毛。

目の焦点はもう合っている。でも、頭の中のピントがずれている。

言葉の意味は分かっても、どう反応したらいいのか分からない。 

 

ぼんやり彼女を眺めていると、その表情が段々と厳しくなっていくのがわかる。

「まだ意識がはっきりしないようね。・・・それとも、まさか・・」

「え・・・」

どういう意味なのか聞こうとしたその時、入り口が突然開いた。

 

「シンジくん、目が覚めたんだってえ」

大きな声とともに、女の人が飛び込んできた。

白衣の女性を無視してかぶりつくようにこちらに向かってくる。

「静かにしなさい。ここがどこだか分かってんでしょ」

「いいじゃない。他に誰も入院なんかしてないわよ」

「目の前に入院してる人がいるでしょうに」

「別に病気ってわけじゃないでしょ。ねっ、シンちゃん」

嬉しそうに笑いかけてくる。思わず愛想笑いを返してしまう。

ちょっと引きつっていたかもしれないけど。

 

「どしたの、シンちゃん。ぼけぼけっとした顔しちゃって」

「・・・・・ねえ、私たちの名前・・・分かる?」

その言葉に、後から来た女性の表情が変わり、白衣の女性を問い詰める。

「ちょっと、どういうことよ」

「・・・記憶が無い可能性があるのよ」

「だって精神汚染の兆候は無かったんでしょう。・・ショックによる記憶喪失ってこと?」

「・・・精神パルスが正常だった以上、記憶喪失ではないわね」

「だったらなに」

「最初から記憶を持っていない可能性があるということ。あなたも知っているでしょう。この子がどういう状態だったのか。どうやって帰ってきたのか」

「そんな・・・」

彼女は怯えたような伺うような様子でこちらを見る。はっきり言って居心地が悪い。

 

「えっと・・・どういう意味ですか?」

しかし、その問いに答える気はないようだ。

口を結んでこちらを向いている、心配そうな表情。

かなり深刻と思える状況とはうらはらに、冷静に彼女を観察している自分が不思議だ。

そう、まるで現実感が無い。

 

「・・・シンジくん」

沈黙に耐えきれないように彼女がつぶやいた。

 

・・・何て答えたらいいんだろう。黙ったままでいるのはなにかまずい気がする。

混乱しながら言葉をさがしたその時、頭の中で誰かが一つの名前を囁いた。

そう、この人は・・・。

 

 

「ミサトさん・・・」

突然、周りから緊張感が消えた。

「もう、おどかさないでよぉ。冗談きついわよ、シンジくん」

へなへなとその場に座り込んでいる。別に冗談を言ったつもりは無いんだけど。

「記憶が無いのは言葉だって知らないってことですものね。さっきシンジくんが喋った時点でその可能性は消えてたわよ」

「あんたが言いだしたんでしょうが。せっかく久しぶりにシンジくんと話せると思ったのに」

「どちらにしてもまだ長話をするのは無理のようね。どうせ当分は検査でここに居続けることになるから、今日は顔見せだけにしておきましょう」

「そうねぇ、アスカやレイにも教えたげなくちゃいけないしね」

もう立ち直ったみたいだ。屈託のない笑顔。思わず微笑い返す。

「なによ、アスカやレイの名前にはすぐ反応するのね」

そう言うと両手で僕の頬を優しくはさんだ。

「ありがとう・・・シンジくん」

少し目が潤んでいる。・・・どういう意味だろう。

 

「行くわよ。ミサト」

「うん・・・じゃーね、シンジくん。また後で来るから」

「ゆっくり休みなさい。お邪魔したわね」

そういって二人が出ていく。部屋がまた暗くなった。

・・・ミサトさん・・・か。  ・・・そういえば、あの白衣の人は誰だったんだろう・・・。

また睡魔が襲ってきた。

 

 

 

 

 

誰かが頭の中で囁く。さっきと同じ声。

 

『自分の名前がわかるかい?』

 

僕は・・・シンジ、そう呼ばれていた。・・・ミサトさんに・・・。 

 

『そう、君はシンジ。イカリ シンジ、それが君の名前』

 

・・・イカリ シンジ・・・、それが僕の名前・・・。 

 

『2001年6月6日生まれ、14才、第三新東京市立第壱中学校2年A組出席番号3番。住所はコンフォート17マンション 11−A−2号室。同居人は葛城ミサト』

 

葛城ミサト・・・、ミサトさんのことだね。

青いルノー。缶ビール。赤い軍服。タンクトップ。十字架のペンダント・・・・・

ミサトさんのイメージが頭を埋める。

 

『そして惣流・アスカ・ラングレー』

 

惣流・アスカ・ラングレー・・・。ミサトさんが言ってたアスカって人のことかな。

 

『そうだよ。エヴァンゲリオン弐号機パイロット。セカンドチルドレン』

 

栗色の髪。青い瞳。ワンピース。ユニゾン。平手打ち。水着。キス。赤いプラグスーツ・・・

・・・この女の子がアスカ・・・。

 

『そう、その二人と一緒に暮らしている』

 

うん。僕はもう、その二人のことを知っている。

 

 

『あまり時間が無い。君に伝えることはまだまだある』

 

時間?

 

『これから、自分のするべきことがわかるかい」

 

・・・わからない。でも、生きていけと誰かに言われた気がする。 

 

『そのための知識は僕が持っている。君は生きなくちゃならない。それが望みだから』

 

・・・誰の? 

 

『母さんの』

 

母さん・・・。

(生きていこうとすれば、どこだって天国になる) 

それが母さんの言葉・・・。

 

 

『さあ、僕の記憶を君にあげよう・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

長い夢から目が覚める。

 

白衣の女性・・リツコさんが言った通り、目覚めてからはまさに検査漬けといった状態だっ た。

でも特に異常は無かったようだ。

遅い時間の昼食−−目覚めてから二度目の食事−−が終わったころ、ミサトさんが入ってきた。

 

「シンジくん。どう、調子は」

相変わらず元気がいい。

「ええ、もう大丈夫だと思いますよ・・・、ていうか、僕どこが悪いんですか?」

「別にどこも悪く無いものね。すぐ退院できるわよ・・・家の用事も溜まってるし・・・」

・・・なにか嫌な予感がする。

「退院したらすぐ大掃除なんて勘弁してくださいよ」

「・・・・たぶん大丈夫よ。私はほとんどこっちに詰めてたし。散らかすほど家に帰ってないから」

「・・・アスカはどうしてるんですか?」

ミサトさんが一瞬口ごもる。

「学校にはちゃんと行っているみたいよ。シンクロテストの時はこっちにも来るし。あの子も自分の身の回りぐらいちゃんとできるでしょ」

ミサトさんが言っても説得力は無い。記憶の中の彼女達は家事能力とは無縁に思える。

でも、アスカのことはあまり気にならなかった。

「そうですね・・・」

「本当はほとんど顔見てないんだけどね。ほんと保護者失格よね」

少し寂しそうな顔。あまりアスカの話はしたくないのかな。

 

話題を変えよう。知りたいこともあるし。

「ミサトさん、僕はどうしてたんですか」

「・・・シンジくんは、どこまで覚えてるの?」

「父さんにエヴァに乗せてくれるように頼んで・・・、もう一度エヴァに乗って・・・、使徒と一緒に地上に出て・・・、内部電源が切れて・・・、それから・・・」

「それから?」

そこまでが彼の記憶。

「それからは・・・あまり覚えていません。ただ、どこか海の中を・・・光に向かって泳いでいたようなイメージがあります」

そこからが僕の記憶。

「・・・その間。あなたはエヴァに取り込まれていたのよ」

「エヴァに・・・ですか?」

「ええ、使徒からの攻撃を受けていた時、エネルギー切れで動くはずの無い初号機が動いた。そのおかげで使徒は殲滅できたけど、エヴァとの高シンクロのせいであなたの身体はLCLと同化してしまっていたの」

「LCLと同化って・・・」

「詳しい理屈は私にもよく分からないわ。なんだったらリツコにでも聞いたら詳しく教えてくれるかもね。・・・とにかく、あなたの肉体と魂は1箇月もエントリープラグの中でLCLと一緒に漂ってたってわけ」

「そんな・・・馬鹿なことが」

「私もそう思ったけどね。でも事実よ。そしてリツコがあなたをエヴァからサルベージしたの。3日前にね」

「リツコさんが・・・」

「最初は失敗したかと思ったわよ。エントリープラグからはLCLがあふれてジャバジャバ出てきちゃうしねぇ」

「・・・それって失敗じゃなかったんですか」

「リツコもそう言ってたけどね。失敗したならシンジくんがここにいるわけ無いじゃない。ちゃんと成功したのよ。・・・ただあなたが出てきたところがね・・・」

「どこなんです?」

「エヴァのコアからいきなり出てきたように見えたから。まあLCLじゃなくて、エヴァに直接取り込まれてたってことかもしんないって、リツコは言ってたけどね」

何か言ってることが矛盾している気がする。

「僕・・・大丈夫なんですかね?」

「検査結果にはなーんにも問題無かったって。あなたは間違いなく碇シンジくんよ。遺伝子レベルで100%一致してんだから間違いないわよ」

 

僕は思わず微笑んだ。・・・間違ってますよ、きっと。

 

「あら、もう行かないと。仕事たまってんのよね。・・・また来るわ、シンジくん」

病室のドアの前まで歩いたところで彼女は突然立ち止まり、振り向いた。

「そうだ一つ言い忘れてたけど、鈴原君は上の病院に転院したわ。身体は暫く不自由だけど。もうだいぶ元気になったから、『気にするな』って伝えてくれって・・・。それじゃねシンジくん」

そう言うと逃げるように病室を出て行った。

 

 

 

・・・鈴原ってトウジのことかな。その名前は記憶にある。

でも、今のミサトさんの言葉・・・どういう意味だろう。

身体が不自由って、怪我をしたってことかな。気にするなってことは僕に原因があるのかもしれない。

まだ僕が知らないことがあるんだ。

 

『トウジは・・・』

また、彼が囁く。

『フォースチルドレンとしてエヴァ参号機に乗って・・・でも、参号機は使徒だったんだ。そしてここに向かってきた。トウジを乗せたまま』

映像が見える。夕陽。迫ってくる黒いエヴァンゲリオン。

『トウジだとは知らなかった。けど、誰か人が乗っているのは知っていた。僕と同じ子供が。だから、戦わなかったんだ。嫌だった。誰かを傷つけるのは』

参号機を破壊する初号機。エントリープラグを握りつぶす。

『でも、父さんが・・・エヴァのコントロールを奪って』

壊れたエントリープラグから助け出されるトウジ。大怪我をしている。

『トウジを傷つけたんだ・・・』

・・・だから逃げ出したんだ。ネルフから。・・・父さんから。

記憶がつながる。

 

『父さんが憎かった。僕を裏切ったと思った。そして自分が許せなかった。何もできなかった自分が』

 

それでも帰ってきた。

 

『加持さんから話を聞いて・・・このままじゃサードインパクトが起きて世界が滅びる、皆死んでしまうと知って・・・だから帰ってきたんだ。
僕にならできる、僕にしかできないことをするために。大切なみんなを死なさないために』

 

そして使徒と戦って、エヴァに取り込まれたんだね。

 

『うん・・・でも、みんな助かったんだ。建物は壊れたけど誰も死ななかったんだ。ミサトさんも、リツコさんも、・・・父さんも』

 

君はどうなったの・・・

 

『僕の身体は、エントリープラグの中のLCLと一緒に流れた。だからもうどこにもない』

 

じゃあ・・・僕の身体は?

 

『エヴァのコアから生まれたんだ。元の僕の身体と同じものだよ。ミサトさんが言っていたことは本当だと思う』

 

でも、僕は一体誰なんだろう。皆が知ってる碇シンジは僕じゃない。記憶だけ持ってる別人。

使徒と戦って来たのは君だし、ミサトさんやアスカと一緒に暮らしていたのも君だ。

僕は関係ない。いなかったんだから。


トウジが傷ついたことも、遠い世界のことだ。

だって、僕の知らないことだもの。僕に責任は無い。

 

『君と僕は同じだよ。魂は一つなんだ。君は碇シンジの魂をもった唯一人のヒトだよ』

 

違う。嫌なことから逃げてトウジを傷つけたのは君だ。僕じゃない。

つらいことが嫌で父さんから逃げ出したのも君だ。

全部君のせいじゃないか。

 

『僕を拒否しても無駄だよ。君も碇シンジなんだ。僕のしてきた事は君がした事になるんだ』

 

違う! 僕は何もしていない。君が守った人たちも僕は知らない。僕には関係ない!

君の記憶を無理やり植えつけて、君の背負った罪を全部僕に押しつけて、自分だけ逃げようとしてるだけじゃないか!

 

『でもLCLにあった僕の身体は無くなったんだ・・・どうしようもないよ』

 

だったらどうして僕はここにいるのさ。

 

『・・・母さんがそれを望んだから・・・。君は知っているはずだよ。母さんの言葉を』

 

勝手すぎるよ!僕にどうしろっていうんだよ!

 

 

 

 

そのとき病室のドアが開いた。

興奮したままそちらを向く。

蒼銀の髪の少女。入り口に佇んでいる。こちらを見つめる紅い瞳。



誰だ?


思った瞬間、感覚が変わった。身体の自由が効かない。意識が弾き出される。


・・・乗っ取られた。

そう、さっきまで彼がいた位置に自分がいる。

どうすればいいかわからない。半ば呆然として、成り行きを見守るしかなかった。

 

 

「・・・綾波、来てくれたんだ」

上体を起こし、彼が少女に向かって話しかける。

 

綾波・・・綾波レイ。

アスカや他の人たちの時のように、記憶が映像となって入ってきた。

包帯。手についた血。雑巾を絞る手。父さんの眼鏡。白い肌。

 

「テストがあったから・・・」

そう言うとベッドの脇の丸椅子に腰掛ける。

「・・・具合は・・・どう?」

平坦な話し方。でも冷たい感じはしない。

「大丈夫だよ。身体にはなにも問題ないみたいだ」

「・・・そう」

安心したのだろうか。そこで会話が途切れる。

 

「・・・そうだ、怪我は無かったの? あの時、零号機が・・・」

N2爆弾を抱えて、使徒に特攻する零号機の映像が見える。

「問題ないわ」

「そう、よかった」

再び会話が途切れる。こんな雰囲気は苦手なはずなのに、重苦しい空気はない。

彼は静かに彼女を見つめている。

 

 

「・・・あなたは、どうして帰って来たの?」

長い沈黙の後、彼女はそうきいた。                         

「どうしてって・・・、嫌だったんだ、皆が傷つくのが・・・。僕が逃げたせいで誰かが傷つくのはもう嫌だったんだ・・・・」

「そう・・・、ごめんなさい・・・」

「どうして謝るの?」

「・・・あの時、ひどいことを言ったから・・・」

病室の映像。となりのベッドではトウジが寝ている。彼女が『僕』を責めていた。

耳を塞ぎ喚く『僕』を冷たい瞳で一瞥し、病室から出ていく。

「いいんだ、もう・・・。あれが最後じゃなくてよかった」

そう言って微笑む。

とまどう様に見ている彼女に手をのばし、その頬と髪にそっと触れる。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・なぜ、泣いているの?」

そう、彼は微笑んだまま涙を流していた。

「・・・・綾波にまた会えて、嬉しいからだよ・・・」

彼女は黙ったまま彼を見つめていたが、なにかを思い出したように、うっすらとした微笑みを返した。

 

その時、僕の中で何かが溢れる。

二子山での会話。満月。ただれたエントリープラグ。横たわる彼女。初めての笑顔。

・・・・・・そして、彼女に対する想い。

 

でも、彼女が見ているのは僕じゃない。

 

 

 

「・・・私、そろそろ行かないと・・・」

どれくらい時間がたったのだろう。頬を少し赤く染めて彼女が立ち上がる。

「うん、・・・それじゃ」

「それじゃ・・・また・・・」

そう言って彼女は病室を出ていった。

                        

「・・・さよなら」

彼が呟く。そしてまた感覚が変わる。

 

 

 

 

『ごめん・・・』

 

もう返してくれないのかと思った。

 

『そんな力はないよ。君が全てを手に入れる前の、ほんの少しの間だからできたんだ。これは君の身体だもの』

 

どうして・・・

 

『もう一度会いたかったんだ。話をしたかったんだ・・・』

 

彼女に?

 

『そう・・・』                                  

 

だったら、帰ってくれば良かったじゃないか。君は逃げ出したんだ。だから身体が消えたんだろう。

 

『違うよ、LCLに身体が溶けた時から、こうなるのは決まっていたんだ。僕に選べるのはそのままエヴァにとどまるか、新しい身体を得るかどちらかしかなかったんだ』

 

そんな・・・

 

『・・・もう時間が無い、僕はもうすぐここに居られなくなる』

 

どうして。

 

『もともと君の身体だから・・・。魂は一つしかない。心も一つでいいんだ。僕は最初からここにいちゃいけなかったんだ・・・』

 

じゃあどうして君はいるの?・・・君はいったいなんなの?

 

『・・・僕は元の身体が持っていた意識の集合体。君の心のかけら。・・・人が死ねば魂とともにあるモノ。けれど、魂は別の身体を得た、真っ白い心とともに。・・・僕はここに呼ばれたんだ・・・空白の心を埋めるために・・・』

 

・・・本当は僕は死んでいたんだね。

 

『でも君は生きているよ・・・記憶のコピーももう終わる。その時、君は完全な碇シンジになるんだ・・・僕の居場所はなくなるんだ・・・』

 

君はこれからどうなるの。

 

『・・・わからない・・・でも・・・もう行かないと・・・・』

 

彼の声が遠くなる。

 

 

『・・・忘れないで・・・・・君は・・・・生きなくちゃいけない・・・』

 

 

 

 

・・・・・・そして僕は碇シンジになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き崩れたリツコさんが落ち着くのを待って、僕達は地上に向かった。

その道すがら、リツコさんは詳しいことを教えてくれた。

綾波が母さんのサルベージ中に生まれたこと。一人目は5年前に事故で死んだこと。二人目の記憶は綾波の中に残っているが、完全ではないらしいこと。

 

「シンジくん、悪いんだけど一人で帰ってくれる」

ミサトさんはリツコさんに付き添って本部に残るそうだ。

一人になりたかったので、それは好都合だった。

 

 

 

 

自分のことを三人目と言った綾波。今までの綾波は二人目だったのか。

僕と同じなのだろうか。僕が持っているような非現実感、疎外感を彼女も持っていたのだろうか。

僕のために自爆して死を選んだ彼女。三人目の彼女は僕のために同じ事ができるだろうか。

僕が二人目だと知っていても彼女は同じ事をしただろうか。

僕が彼女に対して持っている想い。これは本当に僕の想いだろうか。

三人目と知って彼女に会っても同じ想いを持ち続けられるだろうか。

いや、そもそも一人目の僕は綾波にどんな想いを持っていたんだろう。

母さんの分身かもしれない存在・・・母さんの面影を追っていただけなんだろうか。

 

・・・わからない。

もう、全ての記憶を受け継いでいるはずなのに。

どうして自分の気持ちが信じられないんだろう。

 

・・・結局どこまでいっても僕は縛られるんだな。一人目の心に・・・。

 

 

 

 

 

 

地上にでると外はもう真っ暗だった。

 

見上げると空は満月。偽りの記憶の中の、あの日が思い出される。

 

立ちどまって月をみつめる。                            

 

 

そこに・・・・・・

 

 

そう、そこに寄り添ってこちらを見下ろす二人・・・・

 

 

一人目の僕と二人目の綾波の姿が・・・・・確かに見えた気がした。

 

 





〜fin〜









かつ丸にメールを送る
katu@osaka.104.net



解説:

初のアスカ出演作品・・・・・名前だけですが(笑)

これを書いたのが実質上初めてのSSでした。
その後発表の機会の無いままずっとお蔵入りにしていたのですが、HP開設記念ということで、公開させていただきます。

元ネタというか、アイデアはPSの同名のゲームからですが、そのゲーム自体は実際にやったことが無く、ゲーム雑誌の宣伝を元にしましたので、こんなのじゃないと思います、たぶん。

テレビ原作で21話からレイが自爆するまでシンジがほとんど出て来なかったのは、こういうわけじゃないかなあと(笑)

ただレイの二人め、三人めの区切りについて、必ずしも私がこういう考え方をしているというわけではありません。

むしろ二人めと三人めでレイを分けて考えてる人たちに、だったらシンジも二人めだから、自爆したレイのところには最初のシンジがきっと補完にいっていますよと(笑)

ですんで、シリーズものは違った展開になります。
これも一つの形ということで(^^

ここからカヲル、そしてEOE後に向けて続けるというのも一時考えたんだけど、とても手がまわらない。(笑)

ネタだけはあるんですけどねえ(^^;;




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