はじめちゃんが一番
大変身!! 劇的ビフォーアフター

 梅雨も間近な肌寒いある日の午後。亮は都内某所のスタジオにいた。
 何かというと彼の初のソロアルバム制作に向けての事である。
 アルバムの内容はと言えば……提供された楽曲が5曲、亮自身の作詞作曲が3曲、そしてWEの楽曲の中から彼が好む曲のセルフカバーが2曲の全10曲であった。
 初めはソロ活動に尻込みしていた亮だが他ならぬ瑞希の後押しに渋々始めた亮。だがそこはプロフェッショナル。始めてしまえば最初の尻込みは何だったのかという程精力的にレコーディングを進めてゆく。
 勿論、そこには彼にとって棚ぼた的ご褒美があったに他ならない。

 そのご褒美は何かというと──。



「はぁ〜〜〜〜〜〜〜」
  薄暗いレコーディングルームを見つめながらはじめは感嘆の息をつく。
 ガラスの向こうでは驚く程真摯な様子で亮が歌っている。
 何枚もCDを出している弟たちを持つにも関わらずはじめがレコーディングを見学するのはこの件が初めてだったりする。
 そしてそんなはじめがどうして亮のレコーディングを見学しているのかと言うと、それははじめが亮の恋人だから……ではなく、マネージャーだからであった。
 ソロ活動するに当たって当然瑞希とは別行動。
 一日の内での別行動なら遠藤が日々指示して終わりだが事が長期に及ぶレコーディングとなるとそうはいかない。どうするかと言う話になった時、瑞希が機転を利かせてはじめを臨時マネージャーとして推したのだった。
 はじめの名前が出た途端、亮も渋っていたソロ活動を喜々として受諾し、今に至るという訳だ。 現金な物である。
 あのコンサート以来、亮の歌はかなりの方面で注目されていて制作スタッフもかなりの熱の入りようである。亮も自ら意見を出したり、リテイクを出したりとやる気を見せている。
 日頃あまり見る機会のない理知的な表情にはじめの胸は自然高鳴った。
(仕事中の江藤さんてやっぱり文句なしにカッコいいなぁ)
 しばし乙女モードでうっとりと見とれていたのだがふと思い出したようにはじめは疲れた息をつく。
(なのに……なんだってああ・・なんだろう) 
◇ ◇ ◇
 それから数時間後……。その日のレコーディングも無事終わり亮とはじめは次の仕事に向けて移動を始める。
  エントランスへの道すがら荷物を抱え、手帳を見ているはじめに上機嫌でその後を付いていく亮。
「ねえはじめちゃん」
「なんですか?」
「お腹空いたからご飯食べに行こうよ」
「……さっきお弁当2人前食べた人が何言ってるのよ……。大体、次のスケジュールが詰まってるんだから無駄な時間なんて無いわよ」
 にべなくはじめが切り捨てると亮はシュンとして俯いた。
「えーと、次は瑞希さんと××TVで合流ね」
「えっ!?」
「……『えっ!?』って何なのよ」
「だって、瑞希と合流って事ははじめちゃん……」
「そう、あたしはここでお役ご免って事よ」
「えぇーーー!」
 途端に亮の表情が曇り、拗ねているのか、寂しがっているのか複雑な顔をする。
(な、何なのよ! その顔は!)
「はじめちゃん……」
「な、何よっ」
「帰っちゃうの……?」
「!」
「一緒にいてよ。……ダメ?」


駄目押しのようなその顔、その声、その仕草……。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
(何なのよ! 何なのよ!! その顔は! あたしよりも背ぇ高いクセになんだって上目遣いなのよ!!!)
「はじ……」
「あ〜〜〜〜〜もう! 分かったからその顔止めて!!!」
 顔を真っ赤にしてゼイゼイと荒い息をつくはじめを見て亮は小さく首を傾げて尋ねる。
「じゃあ仕事が終わるまで居てくれる?」
「っっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 う、うん」
「よかったぁ」
  心底嬉しそうに、無邪気に微笑む亮をみてはじめは昨日までと同様の脱力感に見舞われる。
  いつもこの手で……というかあの顔で根負けしているのだ。
  深々と溜息をつきながらもこうして存在を請われる事は幸福以外の何ものでもない。幸せを噛み締めつつはじめはチラリと亮を盗み見る。

 真面目な顔も素敵なんだけど……。

  寂しげな顔も可愛いんだけど……。

(一体どっちが本当の江藤さんなのよぉ───────っ!!!)
 そんなこんなではじめの贅沢な悩みはまだしばらく続くのであった……。
おわり

亮君の服が違う! ……ってツッコミは禁止でお願いします。
相変わらず拙宅の亮君は幼児化が激しゅうございますね(笑)。
楽しんで頂ければ幸い……。