Ghost Hunt

SINGLES ☆ FIGHTERS
「ね〜ナルってば、十分でもいいからお願いーっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だったら五分!五分でいいから相手してよ、ね!?」
「うるさい」

ついにしびれを切らしたナルの一言に麻衣はぐっと詰まってしまう。だがここで引き下がるのはなんだかとてつもなく悔しい気がして、麻衣はなおも粘る。

「ね、お願い!来週のクラスマッチで、私バトミントンの選手になっちゃったんだよぉ」
「なるほうが悪い」
「しょうがないでしょ。他の種目はバレーとかバスケとかで、私じゃ身長足りないんだもん」
「クラスメートに相手してもらえばいいだろう」
「みんな忙しいんだよ〜!」

完全無視。
麻衣の必死の形相にはちらとも目を向けず、彼は埋もれてしまうのではという程の書籍の山に向かい合ったまま自分の世界に篭もってしまう。
(・・・・・・・これはもう・・・・駄目かなぁ)
いい加減麻衣も疲れてしまう。
クラスマッチの選手が決まったのはつい数時間前。今日の最後の授業時間がクラス担任の授業だったこともあり、麻衣のクラスでは授業をストップして一週間後に迫ったクラスマッチの選手の選出をしていた。麻衣のいるクラスは何故かスポーツ特待やら現役運動部員などが片寄っていて、そういった者からどんどん選手枠に収まっていった。
生活のために空いた時間を徹底的にバイトにつぎ込んでいる麻衣は当然の如く帰宅部である。
これといって特別得意なスポーツもなく、自然と枠が余った種目へとなってしまったのだ。

(・・・・・あーあ、ただ走るだけなら結構速いんだけど・・・。リレーは種目にないんだよなあ、体育祭とは違うし〜)
クラスの足を引っ張るわけにもいかない。そう思った麻衣は特訓を開始しようともくろんだのだが、申し合わせたように他のバトミントンの選手になった者は皆何かと多忙な人達だった。
相手をするよう無理強いすることも出来ず、麻衣はとりあえず体育教諭からバトミントンのラケットとシャトルを一組ずつ借りバイト先であるオフィスにやって来たのである。
そしていつものようにお茶を入れ所長室に向かうついでに麻衣はナルに練習相手になってくれるように頼んだ。が、やはり予想していた通り結果は×(バツ)。
駄々をこねたり甘えてみたり泣きついてみたりと手を変え品を変え頼んではみたが、結局彼は一歩も譲らない。この不毛なやり取りは実に十数分も続いていたりした。

これ以上ねばっても最早意味はないと悟った麻衣は所長室を後にした。
さて、どうしよう。と麻衣は溜め息をつく。安原は大学の用事で今日はオフィスに来ない。綾子に頼んだところでどうせ『やーよ、面倒くさい』とでも言うのが分かりきっているし、真砂子は今日来たとしてもおそらく着物だろうから運動は無理。ジョンは京都のほうに行っているし(そういえばお土産に頼んだ生八橋買ってきてくれるかな?)、滝川に至ってはなんと先日からぎっくり腰で動けない状態。・・・・・・・必然的に残ったのは、ひとり。
麻衣の視線は無意識につい今しがた出てきた所長室の隣に注がれた。
そこはとある人の要塞とも言うべき場所。潜むのは人並みはずれた長身に黒髪の男。
このオフィスにアルバイトとして入ってからゆうに二年、最初に比べれば大分マシになったものだが、相変わらず何処か謎めいているそのひとだ。
麻衣は迷う。
断られることも十分に考えられる(とゆーかそれしか考えられない)。
だが・・・クラスメートに無様な姿を見せたくない。
たっぷり五分考えあぐねたすえに麻衣は意を決して資料室のドアをノックした。



「リンさん。いきなりですいませんけど、コレ!!」
「は?」

そう言って突き出された麻衣の手に握られていたものは、バトミントンのラケット。
前置きも説明もなしにそれだけを言い、麻衣は神妙に頭を下げ微動だにしない。

「・・・・谷山さん?」
「私来週のクラスマッチでバトミントン出ることになっちゃったんです。それで練習しようと思ってたんですけど、皆忙しくて出来なくて仕方なくナルに頼んだんです・・・・・」
「・・・・」
「でもいつもの如く一言『うるさい』で済まされちゃって。安原さんも今日はいないし真砂子は着物だから無理だし、綾子は言っても無駄だしジョンは京都だしぼーさんに至ってはぎっくり腰だし」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「要するに・・・・リンさん、練習の相手してくれません?」

麻衣は恐る恐る顔を上げてリンの顔を見る。最後のヨリドコロであるリンの返事ひとつで正に一喜一憂といったところだ。『OKしてよ』オーラが全身から立ちのぼっているようにリンには見えた。

神か仏かはたまた運命の女神の力なのか、天は麻衣に味方した。

「・・・・・・構いませんが」
「ホントに!!?」
「ええ。急ぎの仕事もありませんし、大体片付いていますから」
「リンさんありがとぉ〜〜〜〜〜っ!!」

リンにはその時、麻衣がご主人様に誉められて一心不乱に尻尾を振る犬のように見えた。
はたはたと尻尾を振りながら喜びに打ち震える『麻衣犬』は、嬉々としたオーラを振り撒きながらリンを連れテナントとして入っているビルの屋上へと向かった。



屋上にはお誂え向きに高いフェンスが張られていて、この日の天気はさわやかな秋晴れ。風もなく穏やかな陽気で、まさしくスポーツの秋日和だ。
数時間ぶりの外の空気に肩の力が抜けた。リンは凝り固まった身体をほぐそうと軽い準備体操を始める。

「ねーねーリンさん」
「なんですか?」
「これでコートのライン書いてもいいと思う?」

そう言った麻衣の手には学校から黙って拝借してきた一本の白チョーク。屋上の地面(と言うのか?)はビルの外壁のように塗装されていない、平らに慣らされただけのコンクリート。書くのは楽だが消すのは容易ではない。水をかけてデッキブラシで擦るくらいしないと二・三日は後が残ってしまう。その事をリンは知っているのか、しばらく考える。

「谷山さん、クラスマッチは来週と言ってましたね。それまでは毎日練習するつもりですか?」
「うーん・・・出来れば毎日でもやりたいけど」
「なら残しておいて最後の練習の日にでも消しましょう」
「オーナーに怒られたりしないかな?」
「ここを借りる時も相手は不動産屋の仲介でオーナーとは会ってませんよ。ビルにオーナーが来たことは今まで一度もありませんでしたから」(はたしてそんな事がありえるのかは不明)
「ほんと?なら書いちゃおーっと」

いそいそとラインを引き始める麻衣。普段どおり三つ揃いだったリンもジャケットを脱ぎチョッキを脱ぎ袖をまくり、ネクタイを取って戦闘準備を整える。
麻衣は学校から持って帰ってきたジャージのズボンをスカートの下に履く【通称>スカジャー】。
なんとも珍妙な出で立ちではあるがこうして全てが整い、ついにリンと麻衣の熱き戦い(違)が幕を開けた。



あえて結果のみ言わせてもらえば、バトミントン勝負はリンの圧勝だった。



「きぃ〜〜〜〜〜っ!なんでリンさんそんなに強いのさ!!?」
「常日頃から体力は取っておくものです」
「でもリンさんって毎日パソコンと向かい合ってて滅多に出かけないじゃない!ナルほどでは無いにしても食べ物の好みも細かいうえに少食だし!!」
「調査中じゃなければ肉類だって食べますよ」
「普通リンさんぐらいの年って運動不足とかでまいってるもんじゃないの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・それは私が年寄りだと?」

麻衣の発言(失言の間違い)により突如第二試合開始。

「・・・・・・・・つ・・・・疲れたぁ・・・・・・」
「もうすっかり日が暮れてますから、今日はここまでにしておきましょう」
「私バトミントンってもっと優雅なものだと思ってたけど・・・こんなに熱いモノだったんだね」
「・・・・・優雅ですか」
「そう。お蝶○人みたいなの」
「お○婦人はバトミントンではなくてテニスでしょう」

リンよどうして知っている。



その後一週間麻衣はリンに練習と言う名のシゴキを受け続けた。
その甲斐あってクラスマッチ前日にもなると、麻衣の腕は見違えるほどに上達していたのだった。

そして当日の午後、息せき切らした麻衣がオフィスへやって来て高らかに掲げて見せたのは『第三学年クラスマッチ バトミントンの部優勝』と書かれた賞状。 
例の如くお茶を飲みに来ていたイレギュラーズからは拍手を、そして資料室から顔を出したリンからは「よく頑張りました」の一言をもらい、麻衣ははにかむような笑みを見せる。

「一週間リンさんに相手してもらったおかげだね。リンさんに比べたら学校の子なんてなんだか動きがゆっくりな気がしたもん」
「・・・・・・っておい。麻衣、リンとバトミントンしたのか?」
「うん。先週からきのうまで、毎日屋上で特訓の相手してもらったの」
「・・・・・・リンがねぇ・・・・・・・」
「僕も見てみたかったですねぇ、バトミントンに興じるリンさん」
「滅多にお目にかかれませんわね」
「あ、だったら今度皆でバトミントン大会しようよ。ジョンもたしか明日帰ってくるはずだし」

麻衣の一言でその気になった面々は黒衣の所長の預かり知らぬ内に着々と計画を立てていく。
そしてついに翌々日、京都土産を手にオフィスへやって来たジョンと読書が一区切りついたナルとを屋上へと引きずり出し、その名も『渋谷サイキックリサーチ内・第1回バトミントン王決定戦』が開催されたのだ・・・・・。



おわり



あとがき
・・・・取り止めの無いお話ではありますが、私的に結構気に入っている一品です。
リンと麻衣の「親子」、というか「年の離れた兄妹」なやり取りが好きなんです。
カップルではないんですよ。

普段はオリキャラを交えたお話を書いています。「悪霊」シリーズ、というのが大前提だとは思うのですが、麻衣の『女の子』な部分や綾子の『お姉さま』な部分を書くのが好きなのでそういったトコロを書くカギとして自分が作ったキャラを活用しています。
リンさんファンが見たら私に呪詛を送りたくなるような物騒なモノばかりですが・・・・。

最後になりますが、陸海 空也サマ。今回はお誘い有難うございました。
お声をかけて頂けて、本当に嬉しい限りv
また呼び出しコールくだされば出動しますので。いつでもどうぞ〜(^O^)
                                          by五十嵐 蓮美 
ああ〜、蓮美さん、いんや蓮美様。
この度は弱小サイトに心温まる創作を寄贈いただき誠にありがとうございました。

創作を書いていらっしゃるというメール頂いたときには、逃がしてなるものか!(かなり物騒) と必死に勧誘した甲斐が有ったという物です。
もお、私もリンさんがコーチして頂けるならどんなしごきにだって耐えますよ。マジで(だって陸海は体育会系……)!

でもナルは何て言って参加したんでしょうか? 彼の性格の場合交換条件みたいな物がありそう……。
もしかして決勝までシードやったりして……。お、美味しいとこ取り?

ともかく、蓮美様。
呼び出しOKですか?! ああ、もお、なんて優しい人なんでしょう!
蓮美様こそ「しゃあない、また書いたろか」と言う気になられたら、どしどし送って下さいませ。お待ちしております!

最後に、本当にありがとうございました!
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