GHOST HUNT
◆◇◆嵐を呼ぶオンナ―番外編◆◇◆
〜仲良し(?)時間〜
じっとりと張り付くような視線を感じつつリンはパソコンと向かい合っていた。
向こうから話し掛けてくるまでは、こちらから何か言うつもりもない。
地方に向かう列車。平日なのも相まってか、新幹線の中にはそれほど沢山のひとがいるわけでもなかった。自分の今座っている席と彼女の座っている席を隔てているのは肘掛だけ。
通路がわに陣取っている彼女は先ほどから何も話さない。
話さない代わりに、もう数十分も前からただただじっとこちらを見つめている。
あまり居心地のいいものではない。
だが不思議と『見ていないで欲しい』と言う気にもならなかった。
次第に集中力を使い切って、キーを打ち込むのも面倒な気がしてきた。
「もう終わりですか?」
「ええ。・・・・大体は済みましたから」
パソコンを片付け始めると、彼女はそれだけを言ってまた黙る。
相変わらず視線はこちらに向けたまま。
左腕の時計を見ると、到着までにはまだ数十分ある。手持ち無沙汰とはよく言ったもので、パソコンを閉じてしまえば新幹線というこの密閉された空間で出来ることは限られてくる。
自然する事が無くなった私は、簡潔に言えばかなり暇だ。
そんなつもりはなかったのだ。
ただ、本当に暇で。
自分でも気付かないうちに目蓋が下がっていって。
いつの間にか視界は闇に覆われていた。
果てしない闇にひとり浮かんでいる感覚。
泥のように重い体。意識は反対に水面を漂っているように軽い。
コレハ、ナンダロウ?
目許、口元、頬、額、それに耳元。
何か柔らかなモノが、顔全体を掠めていく。
そして温かな・・・・指のようなものが、唇をなぞっていく。
耳に届く、小さく囁くような笑い声。
誰の声なのかはすぐに分かった。数年前、まだ日本に来るよりも以前。
この声を―――澄んだ彼女の声を、すぐ側で何度となく聞いていたから。
「何よコレ――――――――――――――っっっ!!!!!?」
東京・渋谷道玄坂。
絶叫に程近い雄叫びを上げたのはイレギュラーズのひとり、松崎
綾子。驚喜と恐怖が入り混じっ
たなんとも複雑なその声に、その場にいた誰もが動きを止め彼女を見つめる。
「綾子?どうしたの?」
「・・・・・携帯電話が、どうかしはりました?」
「何を見ていらっしゃいますの?」
そう言って、綾子が両手でしっかと握り締めている携帯を覗き込んだ真砂子は・・・・・
「なっ・・・・・なんですのコレは――――――っっっ!!!?」
「何!どうしたの!?私も見る―――っ!!!」
「ま、麻衣さん。落ち着いて・・・・・・・」
奪い取った綾子の携帯を見た麻衣と、そのすぐ側にいて携帯を覗き込む形になったジョン。ふたりもまた、綾子や真砂子と同じように大声を張り上げることとなった。
「「ええええええぇえぇぇえええ―――――――っっっ!!!!?」」
「なんなんですかコレは―――――――――――――っ!!!!!」
数十分後。東北某所に到着した新幹線の中で、悲鳴にも似た絶叫を上げている人並み外れた長身の男がひとり。
場所は列車内の洗面所。鏡に向かい合った瞬間、彼――リンは、信じられないモノを目の当たりにした。
何処ぞの巫女のような厚化粧――否、女性そのものに仕立て上げられメイクを施されている・・・・・・自分。
後ろからくすくすと無邪気な笑みをこぼし覗き込んでいる彼女――シェリー。鏡に映るシェリーの手が弄んでいるのは細長く小さな箱状の物体・・・・携帯電話。
よくよく注視してみると、それの背面には四角く切り取られたように鏡と丸いレンズのような物が埋まっている。
リンは即座に思いつく。・・・・・・・カメラだ。
「・・・・・・シェ―リ―ィ――――・・・・・・?」
「はい?なんです?」
「どういうつもりです・・・・・?」
「いーえ〜?あんっまり暇だったんで、ちょっと試しに。結構良い出来でしょ?私しか見ないで落としちゃうのも勿体無いと思ってー、コレでv」
「・・・・・・誰に・・・・・送ったんです?」
「松崎さん」
うとうととした心地よい眠りの中、彼は自分の顔にすべらかに触れる感触を彼女自身の手だと思っていた。
そう信じて疑わなかった。・・・目が覚めて顔を洗おうと思い立ち、ここに立つまでは。
無意識とは言え甘い出来事を期待していたリンは、その事実に酷く心を踏み躙られてしまった。
「リンさーん?」
「・・・・・・・・・・・・・・なんです?」
「やっぱり・・・・怒っちゃった?」(←『怒っちゃった?』ってアンタ・・・)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・とりあえず・・・・こっち向いて?」
怒るよりなにより彼の心はボロボロだ。そんなことも予想できないほど彼女は物知らずではない。
ご機嫌を伺うように首を傾けて見せると、癖の無い金髪がさらりと舞う。
促されるままにリンが彼女のほうに顔を向けると、ひんやりとした物が額に触れる。大人の女性の必需品、その名も『ふくだけコッ○ン
メイク落とし』だ。
自分で拭こうと手を出すと、彼女はやんわりとそれを制する。
アイライン、アイシャドウ、まつげもおそらくビューラーを使っていたのだろう、マスカラを落とすと、普段どおりにやや下向きに直る。
彼女はそれほど背は低くない。それでも僅かに背伸びをして、リンの顔に両手を添えて体勢を保っている。
暫くすると、にっこりと艶やかな笑みを浮かべ彼女は小声で言う。「ごめんなさい」と。
彼女のすることなすこと全てに振り回されるのに、それでも本気で怒れない。
嗚呼、林 興徐。
君の逞しくも脆いその心は 天使の顔した仔悪魔の格好の餌食でしかない。
イタズラ上手の謝り上手、仔悪魔シェリーに太刀打ちできる者はいないのか。
いやいない。(←反語)
負けるな興徐、行け行け興徐、ゴーゴー興徐。
君の未来は明るいぞ(多分)
後日談。
訝しげな表情で、ひたとリンを見据えた漆黒の少年。
「リン」
「なんですか?」
「・・・・・・あれはお前の趣味なのか?」
「は?」
「『化粧』」
ドサドサドサっ。
「・・・・シェリィ―――――っっ!!!」
END
な、ななななななななんですかコレは!?ヒイ〜恐ろしいっ!!
少年っぽいリンさんが書きたかっただけです(どこが?)。
だってだって、ほら。ひとりで期待して心弾んでるあたり『少年』ですよね!?
んでもって現実に打ちひしがれてるところが。
調査先に向かう道程で、暇を持て余した『天使面の悪魔』がどんな行動にでるか
・・・・・ということを書きたかったわけじゃ・・・・(泣)。
補足させて頂きますが、リンさんはシェリーを特別好きとかどうとかは
思ってません。ただ振り回されてるだけです(超きっぱり)。
うわはははは! シェリーちゃんサイコー!! リンさんバンザイ!!!
蓮美さん〜〜〜、しっかり笑わせて頂きましたよ!
もう、私だけの独り占めなんて勿体なくて出来ません! なんで即アップです!
しかしまあ、リンさん、ビューラーまでやられて目が覚めないなんてよっぽどお疲れ?
それとも身も心も(←おいっ!)許しちゃってる訳?!
ああ、もうっ、良いように振り回されてるリンさんが本っ当にラブリーです!
蓮美さん、ありがとうございました!!