あいとにくしみのはざまで
「・・・あ!ちょっと江藤さん!」
キッチンで鍋を片手に振り返ったはじめは、思わず叫び声をあげた。
その視線の先で亮が口元をぱっと押さえる。彼の頬はいびつに膨らみ、何かを言おうとしたらしい口からは「はへはっは」と意味不明の言葉が篭った声で発声された。
ぼりぼりぼり。咀嚼音と共に頬袋がみるみる小さくなり、亮はごく、と喉を鳴らした。
「・・・えへへ?」
「何で疑問系なんですか!てかその前に何を・・・あああーっ!」
はじめは再び叫び声をあげた。まな板の上に綺麗に並べておいたはずの食材が。はじめの包丁さばきの洗礼を受けた食材たちが。
「・・・・・・食べ、ましたね・・・・・・?」
「ええと・・・そうかな?」
「だから何で疑問系なんですか・・・」
何故か照れたように頭を掻く亮の姿に、はじめはがくりと肩を落とした。
そう、彼女が手にしているのは空の鍋。下拵えを済ませ、後は煮込むばかりと腕を捲ったその隙に、この男は。
生で食いやがった、のである。
キャベツもベーコンもトマトもじゃがいもも半分となってしまったまな板の上と亮の顔を、はじめは呆然と見比べた。
「・・・だってさ・・・」

叱られた子供のような顔でちら、と彼女を見上げながら、亮がおずおずと口を開く。
「はじめちゃんの作ってくれる料理って、どうしていつも美味しいんだろうって思って。もしかして材料に秘密があるのかなー、とか・・・」
「ばっ!馬鹿言ってんじゃないわよ!全部スーパーの特売品に決まってるでしょ?!」
「うん、普通の味だった」
おかしいなあ、と首を捻る亮にブチ切れ、はじめはもう一度「馬鹿!」と叫ぶなりエプロンを身から剥ぎ取りキッチンを飛び出し上着を羽織り鞄を手にした。おろおろと後を付いてくる亮の脇をすり抜け、そのまま玄関へと突進する。
「ごめん!ごめんてばはじめちゃん!謝るからごはん作って下さい!」
ぱん、と顔の前で両掌を合わせる亮の言葉は、しかしはじめにとっては逆効果だった。
「私は江藤さんの家政婦じゃありません!」
「とりあえず目先の問題で!お願いしますはじめちゃん!」
「知らないわよ!コンビニでもどこでも買えばいいでしょ!」
「・・・はじめちゃんの作ったごはんでないと駄目なの!」
亮の大声に、靴紐を結んでいたはじめはぴたりと動きをとめ、うーっと唸った。
馬鹿な子ほど可愛いと言うけれど。阿呆な彼ほどいいだなんて聞いたこともないけれど。
スニーカから手を離し、身を起こす。目の前にある不安げな顔を、はじめは思い切り睨み付けた。
「・・・材料を買い直しに行くだけです。大人しくリビングで待っていて下さい」
「よかったぁ!」
表情を繕うことを知らないアイドルは、はじめの言葉に顔をぐちゃぐちゃにして笑った。
ああもう、大好きだ。
「一緒に行こうか?」と尋ねる亮をリビングに押し返し、はじめは玄関のドアを開けた。
きっと今自分は真っ赤な顔をしている。これ以上一緒に居られたら、昂り放題な感情が暴発して自分は絶対に鼻血を噴く。
マンションのロビィを潜り抜け、はじめは空を見上げた。
『はじめちゃんの作ったごはんでないと駄目なの!』
頭の中で亮の言葉を反芻してしまい、はじめは慌てて鼻の付け根を押さえた。
料理を美味しくする秘訣とは、空腹よりも何よりも。
そんなこと知ってる。そんな亮が自分は好きで、そんな自分を亮が好きだなんてこと、とっくに分かってる。
「・・・でも納得いかなーい!」
寒空の下、結局買出しに行かされるはめに陥ったはじめは、腹の底から雄叫びをあげた。
ぷぎゃー!乙女幾千人をもぶっ倒すラブリィ亮さん!!!
ああもうほんとに千も万も謝辞やら萌え感想やらお伝えしたいところです・・・!
そして追いつかないですよ駄文がッ!
どうぞ駄目だしお願いします・・・。
改めまして、104000ヒット(!!)本当におめでとうございます&
素敵イラストをありがとうございました!
清井 拝
清井さ〜〜〜ん!
調萌えSSS
ありがとうございました!!!
もうこの胸の高鳴りをどう表現すれば良いんでしょう?
皆様、分かります? 最初にメールで拝見した時の陸海の衝撃を!
104000記念に何か差し上げる筈がこんなステキなSSSをイタダイテシマッタ……。
こんな僥倖、嬉しすぎてクラクラします。
清井さん、どうか陸海めの拙作、お納め下さいませ。
本当にありがとうございました。
陸海 空也
<閉じてください>
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