「はじめちゃん。花火見に行かない?」
「はあ?」
はじめは、亮の提案に耳を疑った。
「……花火って……もしかして花火大会?」
「うん」
その無邪気な答えに、はじめは盛大な溜息をつく。
「江藤さん……そんな暇、どこにあるんですか?江藤さんは毎日ライブですし、私だってあの子達の世話や
課題が山ほどあって」
と、文句タラタラ言うはじめに、亮はニッコリと笑う。
「大丈夫だよ。はじめちゃん。だから八月三日は絶対空けていてね」
「……はあ」
納得いかないまま、頷いたはじめ。
後日。 八月三日に、近郊で大きな花火大会など無いことを知る。
あの人!また何か勘違いしているんだわ!!
はじめは意気込んで、亮に連絡した。
が。亮は「大丈夫」の一点張り。
そして、尚且つ。「M2で待っていて」とのこと。
もう何が何だか分からないはじめだが。
とりあえず、その日がやってきた。
「ごめん!はじめちゃん!待った?」
「はい!待ちましたよ!三十分も!!」
「ごめん!急いで!!」
五つ子も帰り、一人控え室で課題をしていたはじめは、バンっと入ってきた亮に速攻で連れ出される。
「江藤さん?どこに行くんですか?」
手を引っ張られながら、階段を駆け走る亮に聞くはじめ。
「屋上!もうすぐ始まっちゃうから!!」
パタパタと走り、屋上の扉を開ける。
途端に。
大きな赤い花火が、はじめの視界に入った。 ドン!っと大きな音と共に。
「……うそ……今日って花火大会どこもやっていないって……」
呆然と立ち尽くし、独り言のように言うはじめを亮は引っ張り、壁まで連れて行く。
そして、また一つ。上がった。今度は、金色でキラキラと、流れ星がたくさん流れるような花火。
「……きれい……」
はじめの呟きに、ニッコリと笑う亮。
「はじめちゃんの為の花火だよ」
「はぁ??」
何を言っているの?この人??
「瑞希の親父さんが商店街の中で祭やっていてね。それのフィナーレ」
「じゃあ、私の花火なんかじゃないじゃないですか?」
もう一つ。花火が上がる。音がして振り返れば、名残惜しそうに散り行く緑の花火。
「でも、あれ。俺が、はじめちゃんの為に、出したから」
「え?」
「今年だけ特別。花火って高いんだね。十発分しか無理だった」
ああ。だから、ゆっくりと。丁寧に花火が上がっていくんだと、納得する。
「仕事でずっと忙しくて、ちゃんと夏っぽいこと、はじめちゃんとしていなかったから……奮発しちゃった」
そう言って笑う亮に、はじめは涙ぐみそうになる。
「…………バカ」
それだけしか言えなくて。
はじめは、夜空に顔を向け、目に焼き付けるように、最後まで花火を見続けた。
十発の花火なんて、花火大会なんかじゃないかもしれない。
それでも。
すっごく綺麗で、すっごく嬉しかった。
全ての花火が終了したのか、辺りが静まりかえる。
夜の屋上でも、充分暑い。
「……江藤さん。この度は、ありがとうございました////」
「どう致しまして」
「じゃあ、帰りましょうか」
そう言って、扉に向かうはじめの腕を、亮が取る。
「江藤さん?」
「……ご褒美は?はじめちゃん?」
ニッコリと。笑顔の亮だが、そのお尻には、先が尖った黒い尻尾。
「そんなのありません!」
はじめは真っ赤な顔で言い返すが、亮ははじめの腕を離さない。
「……じゃあ、自分からする」
そう言って。 亮は、「チュッv」と、音を立ててキスをした。
「………江藤さん!!////」
真っ赤なはじめが、怒る。 亮はすぐに手を離し、「ごめん、ごめん」と謝った。
が。はじめの怒りは酷いらしく、今度は亮がはじめに捕まって。
「……私がするんです!」
そう言って。 はじめから、亮へ。
触れるだけのキスをした。
Fin