平気さ、僕はソファーで寝るよ
誰かドアを叩いた
雨が降ってる真夜中だった
君が、叱られている子供のように泣いて立ってた
遠慮がちな小さなノックの音でふいに目が覚めた。
本を読んでる間にいつのまにかうたた寝をしてしまったらしい。
時計を見ると午前1時を少し回ったところだ。
こんな時間に一体誰だろうと思い乍ら覗き穴から外を覗き込んだ。
そこには、雨に濡れて血の気の引いた幼馴染みの顔があった。
何があったのか、眼鏡の奥で静かに涙を流し乍ら……
「どうしたんですか、コナンくん!!びしょ濡れじゃないですか」
「悪ィ、光彦… 夜中に…」
「兎に角、中に入ってください」
勢いで掴んだ右腕は、ゾッとする程冷たくなっていた。
背中向けてるから、濡れた服を着替えればいい
君がいる、それだけで僕の部屋の色が変わった
「一体何があったんですか?」
濡れた服を脱ぐように言って、新しい着替えを手渡した。彼はそれを受け取ると徐に脱ぎ始めたので僕は背中を向けた。
「なぁ、光彦……」
「はい?」
その後の言葉が続かない。
「何ですか、コナンくん…」
「……いや、……やっぱりシャワーも借りて良いか?」
「あ、…えぇ、もちろん」
「サンキュ……」
振り向くと彼は上半身だけ裸のまま、バスルームへと向かっていた。
ザーザーと微かにシャワーの音が聞こえる。
僕は脱いだ彼の服を洗濯籠に入れ、紅茶を入れようとヤカンを火にかけた。
ガチャリと音がして、そのすぐ後にはドライヤーの音がした。
お湯も丁度湧いたようで、暖めていたティーポットにお湯とティーバッグを入れた。
「悪ィ、勝手にドライヤーまで借りちまった」
「いや、別に気にしないでくださいよ」
紅茶を出すと小さく微笑んでカップに口を付けた。
僕の服から彼の白い肌が覗き、ドキリとした。
そして、一度そんな風に意識をしてしまうと、どうしても目が合わせられない。
「光彦?」
目を合わせられない僕を不審に思ったのか、彼は僕の顔を覗き込んだ。
長い睫だな…と思った。綺麗な眸だな…とも
弾かれたように目を逸らした。
「………やっぱ、迷惑だよな」
「そんなんじゃないんです!…ただ…その…」
気付かれてはいけない。
「……こんな時間にコナンくんが来るのも珍しいし…」
この、感情は、
決して気付かれてはいけないのだ。
「その……泣いてたし……」
思い出す…… 泣いていた…
静かに、打たれた雨の滴と混じった涙が……
「一体何があったのかなって…思って、それで…」
コナンくんが、小さく頷いたように見えた。
「僕は、頼りにならないかもしれません。でも、話相手ぐらいにならなれます」
「……サンキュ…」
残っていた紅茶を一気にあおり、彼は立ち上がった。
「悪かったな、遅くに」
「……帰るんですか?」
「…………」
「話してはくれないんですか?」
「……………」
彼は座り直して、弱々しく微笑んだ。
「ごめん、お前に話したらお前にまで迷惑がかかっちまうから」
だから別の話をしようと言って僕の目を見つめた。
途切れ途切れに話している 寂しい声が止んで
眠ったんだね 甘い吐息と雨が聞こえる
いつのまにか口数が少なくなって、気がつけばうとうとしていた彼は完全に眠ってしまった様だ。
目を閉じて、長い睫だけが際立っている。 僕はそっと眼鏡を外してみた。
実際、綺麗な顔だと思う。
何だかまたいけない思いが込み上げてしまい、ふるふると頭を振った。
「コナンくん……… 風邪引きますよ……」
当然のように返事を返さない彼を愛おしく見つめた。
恐ろしい程細く軽い身体は、難無く抱え上げる事が出来た。
ゆっくり、ゆっくりと。そのままベッドへ寝かせた。
平気さ、僕はソファーで寝るよ
愛してると 決して言わない
君の近くにいられる時間がただ、続けばいいのに
毛布を掛けてやると、少しこそばゆいような顔をして、小さな声が洩れた。
平気さ、僕はソファーで寝るよ
独りぼっちでいたくないなら
君の冷たい心に灯をともせる僕になりたい
彼の寝顔を見ると、何だか切なく、同時に嬉しかった。
平気さ、僕は
ゆっくりと、顔を近付けてみた。
平気さ、僕は…
そっと、
平気さ…
唇に、触れてみた。
思った以上に切なくなって、少し悲しくなった。
彼の事が、好きだと思った。
きっと、誰よりも。
だけど……僕は………
きっと、こんな事をしたと彼に知られたら、彼はもう僕とは会ってはくれないだろう。
その方が、ずっと、辛い。
予備の毛布を引き摺って、ソファーに寝転んだ。
友達で良いから、
それ以上は望まないから。
小さく聞こえる彼の寝息を聞きながら
切ない夜の魔力にかかり
眠れないまま また朝になる
END
カウンター3000ゲットしてくださったゆっこさんに捧げる光彦×コナンです。ゆっこさん、これじゃダメ??(ドキドキ)
『コナンのまま成長した場合の高校生くらいの2人』と思って書いてみたんですが……う〜〜ん(^^;)
因にタイトルは赤坂晃のアルバム『The Way Our Promise』の中の1曲から頂きました。2000.01.03.