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 彼が姿を消してから、一体どれだけの時間が過ぎたのだろうか。
 彼が読みかけていた本の間に、栞の様に一枚の写真が挟まっている。
 ふざけて撮ったツーショット。場所はここ、僕の部屋。
 残数が2枚あったポラロイドカメラ。
 彼は僕の右肩に寄り添うと、腕を伸ばして器用にシャッターをきった。
 
 そんな事もあったな…

 でも、今ここに彼は居ない。

 
 

 「ねぇ、高木さん。僕お腹空いた」
 足下から声が聞こえて我に返った。下を向くとコナン君が僕のズボンを掴んでた。時間は既に20時を回っていて、小学生の夕食時間とするには少し遅かった。


 蘭さんが部活の合宿で1週間程留守にするからと、その間コナン君を預かる事になった。毛利さん一人に任せるのは不安だとか…(そりゃ確かに…)本来なら新一君の隣家のナントカハカセに頼むらしいのだが運悪く留守だったようで僕に頼む事にしたらしい。そうは言っても僕だって、子供と1週間も時間を共有した経験が無いので(当たり前なんだけど)断ろうと思った。でも「僕一人でも大丈夫だよ」と強がる(様に見えたんだけど…)コナン君を見ているとなんだか可哀想に思えて、自分でも無意識のうちにOKしていた。



 マンションの傍にあるファミレスに入ると、僕とコナン君は窓際のテーブルに腰掛けた。やけに手慣れた様子でメニューを捲るコナン君を見て、またもや少し不憫に思えてくる。きっと蘭さんが居ない時とかに来て、慣れているに違いない。
 「高木さんは何にするの?」
 コナン君はもう決まったのか、何時の間にかメニューを元の場所に戻していた。
 「決まったんならもう呼んで良い?」
 「え… あ、うん」
 そう言うとコナン君はテーブルの隅にあったボタンを押してウェイトレエスさんを呼んだのだった。
 





 他愛無い会話をしながらの食事が終わると、僕達は部屋への帰り道に本屋へ立ち寄った。コナン君がどうしてもと言うからだ。店へ入るとコナン君はまっ先に小説のコーナーへと向かった。その姿を見て、僕は突然の既視感に襲われた。





◆◆◆◆◆




 彼は非番の僕を一日中引っぱりまわし続け、ゴールに近い本屋に入るとまっ先に小説のコーナーの前に立ち、今度はだらだらと長居しようとする。「これ未だ読んでないや」とか「あ、面白そう」とか言いながら次々と本を手に取る。僕は少し呆れてしまって、適当にその辺の雑誌をパラパラと捲る。
「あ、ねえねえ高木さん。この本読んだ?」
 彼は一冊の本を手に取って僕の元へ駆け寄った。
「面白そうでいつも手に取るんだけどさ、ハードカバーって収納に困るんだよね。うちの本棚って全部いっぱいいっぱいで…」
 ハードカバーのゴツイ本。勢いをつけたら人一人くらい撲殺出来そうな、重量級な本。しかも上下巻。…そりゃ確かに場所もとるよ。
「あーでも読みてぇ」と、残念そうに本を元に在った場所へ仕舞おうとした彼に、僕は言った。

 口から出たのは、自分でも意外な言葉。
「僕の部屋に置きなよ。好きな時に読めば良い」


 彼はふわりと微笑むと「ありがとう」と言ってレジへと向かう。
今の言葉はつまり『いつでも部屋に来て良い』という意味合いで… 僕は…




◆◆◆◆◆






「どうしたの?高木さん」
 どうやらボーっとしていたらしい。コナン君が不安げに僕の顔を見上げていた。
「あ、いや…なんでもないよ。 ところで何か買うのかい?」
「ううん、欲しいけど蘭ねぇちゃんに『無駄使いしちゃダメ!』って言われてるし…」
 そう言いながら残念そうに本を元の場所へ戻そうとする姿を見て、僕はまたこの台詞を口にする。

「僕の部屋に置きなよ。好きな時に読めば良い」

 そう言うとコナン君は何故か少し悲しげな顔をした。僕は何か不味い事を言ったのだろうか?
「ありがとう、高木さん」そう言ってコナン君はあの日の彼と同じようにレジへと向かう。先程の表情が少し気になったけど…






 部屋へ戻ると二人でお風呂に入った。何故か照れて嫌がるコナン君を無理矢理脱がせて、丁度良い熱さの湯舟に入れた。最初は抵抗していたコナン君も、あがる頃には大人しくなり(のぼせたのかも…)風呂上がりには仲良く冷たいコーヒー牛乳を飲んだ。
 コナン君は思っていたより全然手が掛からなくて、それどころか独身の寂しい一人暮らしに少しの潤いを持たせてくれた。 特に彼が居なくなってからというもの、僕はいつも暇を持て余していたから…。


 
 ベッドに入ってからも、コナン君は僕と一緒にいろんな事件の話をした。

 その時間は、まるで彼と一緒に居た頃の様だった。






















 夢を見た。

 夢の中で、彼は子供の姿をしていた。

 寝ている僕の顔を覗き込んだ彼は、小さく僕に口付ける。

 そうしたら、

 彼は、突然煙幕に包まれて、

 次の瞬間には本来の姿に戻っていた。

 まるでお伽噺の王子様の様に、優しく微笑むと

 お約束の台詞を僕に言った。

 「貴方のお蔭で、元の姿に戻る事が出来ました」











 




 

 夢から脱出した僕は、暫くの間惚けて、そして急速に覚醒する。
 
 「…恥ずかしい夢………」

 夢の内容を思い出して赤面した僕は、視線を移す。
 
 そこには小さな寝息をたてる、小学生の姿をした彼が居た。



 「わかっちゃったよ、コナン君」







.




 右手には、彼が読みかけていた本と、栞代わりの写真が一枚。












END


 キャー!チョーハズカシイっていうかー、まじムカツクー(既に死語)なんちてハハハ…(もう何も言わないでやって下さい T△T;)でもコ高って書いてると面白いんですよ… たとい出来上がりがふざけんな!ってくらいハズカシ気でも…。そんなワケで一押しコ高第二弾!カミソリとかがどうしても送りたい方は、どこかに怒りをぶつけてやって下さい!(逃走)タイトルのErrorは、コレ書いた僕の存在自体がErrorだよってコトで(死) だってタイトル考えるのって難しいから(殺)


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