=少しツライ永遠=




「何だよ、コレ」
学校から帰って自室に入ると、部屋の中央にでんと構えたダンボール箱が置いてあった。
勿論、自分のものではない。
朝部屋を出る時には、こんなダンボール箱は無かったはずだ。
「チビモ−ン、居るかぁ?」
声をかけると、ベッドからずり落ちてそのままになったふとんがもそりと動き、チビモンがひょこりと顔を出した。
「おかえりーだいしゅけー」
「おう、ただいま」
ほてほてと寄ってきたチビモンを抱え上げると、大輔はまず、件のダンボ−ル箱について訊ねた。
「んとね、じゅんがおいてった」
「はぁ?」
何で姉が、弟の部屋に、ダンボール箱を放置するのか。
分からないまま、大輔はジュンの部屋へと向かった。

ジュンの部屋に入った大輔は、思わず絶句してしまった。
つい先日まで、彼女の部屋の壁を独占していたヤマトの写真や、TEEN-AGE WOLVESのポスターの類いがすべて消え去り、代わりに、どうやって入手したのか恐くて聞けない城戸シュウの写真や、それを引き伸ばしたものが壁を埋めていた。
「何よ、大輔。人の部屋に入る時はノックくらいしなさいよねー」
自分もそんな真似はしないクセに、それを棚に上げて宣った。
「るせーな。それより!何だよ、あのダンボール。人の部屋に不法投棄すんなよな」
「いいじゃない。アンタの部屋、どうせゴミばっかなんだから。ダンボールの1つや2つ」
「良いワケねーだろ!何が入ってんだよ。ゴミならゴミの日にゴミ出し場に出せ!!」
「馬鹿ね、捨てるなんて勿体無いコト出来ないわよ。もしヤマトくん達のバンドがメジャーデビューしたりしたら、絶対プレミア付くわよ!そうしたらきっと高く売れるわよぉ!」
「……はい?」
慌てて自室に戻ると、大輔はダンボールを開けて、中を覗いた。
「げ……」
中にはどっさりヤマトくんグッズ。
ヤマトくん生写真。
ヤマトくんポスター。
ヤマトくん携帯ストラップ。
ヤマトくん人形(おそらく手作り)
ヤマトくん応援用ハッピにTEEN-AGE WOLVESネ−ム入りペンライト。
その他色々エトセトラ…
「ちょっとー、絶対捨てるんじゃないわよ」
いつの間にか後ろに立っていたジュンが、釘を刺すように言った。
「なっ…ふざけんなよ!自分の部屋に置けよ!!」
全く持って正当な意見だが、ジュンはそれには聞く耳持たず、
「だってぇ〜っ、シュウさんがあたしの部屋に来てくれたとき、他の男の写真とかが見つかったら、やっぱ気不味いじゃない?」
「なんでシュウさんがお前の部屋を訪れるんだよ…」
んなコトあるワケねーだろと独り言ちてみたが、ジュンはそんな弟の様子を気にも留めず、
「じゃーね、大輔♪アタシこれから千鶴のトコに泊まりに行くから」
笑い乍ら手を振って、部屋を後にした。

さて、気不味いのは大輔である。
勿論姉は、元アコガレの人『ヤマトくん』が、弟である大輔とそーゆー仲だと知らないのである。
知っていたらどうなっていたか分からないが、知らないが故、このようなモノを置いていったのだ。
「ど……どうしよう……」
大輔は、目線を足下のダンボ−ルに向けて呟いた。
兎に角、この箱を何とかしないと……そう思い乍ら、箱の中身を一つ取り出す。
それはアルバムで、ヤマトの写真がぎっしり埋まっていた。
「あの女…一体どうやって…!?これじゃあ、まるっきりストーカーじゃねえか…」
大輔がそう呟くのも仕方が無い。写真は明らかに盗撮したものばかりだった。登下校、バンド風景、授業中らしきモノまである。大輔は自分の姉の恐ろしさを改めて垣間見た。
「シュウさん…大丈夫かな…」
考えるのが恐くなり、シュウには悪いが考えない事にした。
それより、
何だかんだと言っても、今自分が手にしているものは、好きな人の写真である。
「やっぱ……格好良い…」
こんな格好良い人が、自分と付合っているかと思うと、何だかそれはとても凄い事のように感じてしまう。
大輔は、こういう写真を大切にするジュンの気持ちが、ほんのちょっとだけ分かったような気がした。(でも盗撮は駄目っしょ)
「なぁ、だいしゅけー」
ぽやーっと写真に見入っていた大輔は、チビモンの声で現実に戻った。
「ん…どした、チビモン」
「めーるがとどいたおとがしたよ」
「あぁ、サンキュー」
言われてDターミナルを見ると、発信者は件のヤマトだった。
『今から行くけど、本当に良いのか?  ヤマト』
そのメッセージを見て、瞬間顔から血の気が引いた。
そうだった。
今日から家族が全員居ないからと、ヤマトを家に誘ったのだ。
大輔はうっかり失念していた自分を責め、慌てて返事を打って送った。
『全然大丈夫っス!! 大輔』
そして、目線を再び足下のダンボールに落とす。
「ヤマトさんが来るまでに、何とかコレをどこかにやらないと!!」




本宮と掲げられた表札を前に、ヤマトはインターホンを鳴らすのを躊躇っていた。
大輔が「今度の連休は、家族みんな出掛けて誰も居ないんスよ」と言って、自分を家へと誘ってくれた時は嬉しかった。「本当はいつでも来て欲しいんスけど、姉貴のヤツが五月蝿いんで…」なんて、頬を少し赤らめて言った時は、何だか無性に可愛く見えて、妙に照れてしまった。
しかしいざ行こうとすると、なんだか色々考えてしまい、どうにもあと一歩を踏み出せずにいる。
「ヤマト、どうしたの?」
ガブモンが不思議そうに首を傾げた。ヤマトはそれに苦笑して、「何でもない」と小さく答えた。

ヤマトと大輔が付合い始めて1ヶ月と少しが経っていた。
その間、所謂『恋人』的な発展は思わしくなく……2人は今どき珍しい純愛カップルだった。
が、しかし。
大輔は兎も角、ヤマトはなんつーか、その、まあ……とっても健康的な中学生男子なのである。
好きになった→恋人同士になった→ 矢印のその先。そこが気になる年頃なのだ。
それなのに、ヤマトの可愛い恋人の大輔はというと……。
先日、なんとなしにキスの途中で行動を開始したヤマトの右手は、
「くすぐったいっスよ、ヤマトさん」
という、小さな笑い声と共に向けられた無垢な笑顔に撃沈されたのである。

そんなこんなでヤマトは、大輔と一緒に過ごせるのは、本当に、本っっっっ当に、心の底から嬉しいのだけれど、忍耐力をつける精神修行をしているような気分になるから辛いのだ。

でも、人間っていう生き物は、目先の幸せに飛びつきたい衝動に駆られるものなのデス。
(止まらないこの衝動が壁に穴を開け突き進んだ〜♪/byカミセン)

「よしっ!行くぞ!!」
そう独り言ちて、ヤマトは勢い良く目の前のインターホンを鳴らした。



ピンポーン


「ぎゃっ」
予想より、遥かに早く鳴ったインターホンの音に、大輔は小さく悲鳴をあげてしまった。
手にはダンボール箱。
どこかに隠そうと思いつつも、良い隠し場所が見つからず、右往左往していたのだ。
「だいしゅけ、やまときちゃったね」
そんなチビモンの言葉に、大輔は嫌な汗を額に浮かべた。

中々開かない扉の前で、ヤマトは首を傾げた。
つられてガブモンも首を傾げる。
と、
ドタドタという忙しない足音がしたかと思うと、件の扉が勢い良く開いた。
「すっ…すんませんっっ!!ちょっと…その、部屋を片してたもんで…」
額に薄ら汗を浮かべて、大輔は少しばかり引きつった笑顔をヤマトに向けた。
ヤマトはそんな大輔を見て、
『さっきのメールで、そう、ことわりゃいいのに…』
なんて思うよりも前に、
『やっぱり可愛いv
などと末期な事を思ってしまい、我に返ったヤマトは、そんな自分に石をこつけたくなった。
「? どーぞ、上がって下さい」
ヤマトの胸の内など知る由もしない大輔は、突っ立ったままのヤマトの腕を掴むと、そのまま勢い良く引きずり込んだ。


「ちょっと待ってて下さいね、今飲み物持ってきます」
初めて足を踏み入れた大輔の部屋を、どこかぼんやり眺め乍ら、ヤマトは「ああ」とお座なりな返事をした。
部屋の中央に胡座をかいて、辺りを見回しては、落ち着かない気分になる。
部屋の隅っこに追いやられたマンガや脱ぎ捨てた洋服やサッカーボールなどは、きっと先程まであちこちに散らばっていたのだろう。
コンセントが差し込みっぱなしになっている掃除機は、大輔が自分を迎え入れる為に、部屋を少しでも片そうとした痕に違いない。
そんな大輔を想像して、ヤマトは小さく笑った。

ふと、
ヤマトの視線が、カーテンで止まった。
『……なんだ?あの膨らみは…』
カーテンの向こうに何かあるのか、そこは微妙に膨らんで見えた。
ハッキリと分からないのは、そこに先程の追いやられたと記述したマンガやら何やらが小さな山になっているからだ。
「なぁ、チビモン。あそこ、何かあんのか?」
別に、自分でもどうしてそれが気になったのかよく分からなかったが、ヤマトは何となくチビモンに尋ねた。
「え?あっ…おれ、そのっ…えっと、んと、よくわかんないやっっ」
何となく尋ねた質問なのに、チビモンから返ってきた言葉は、分かりやすい程動揺していた。
「?」
そうなると、気になって仕方がなくなるのが人の性ってモンで、
ヤマトは立ち上がると、その気になる膨らみに近付こうとした。
…と、その時。
「すんません、待たせちゃって。コーラで良かったっスか?」
勢い良く部屋の扉を開けて、大輔が戻ってきた。

「……………」
「……………」

何と説明しましょうか。
こっそり人の部屋を探索しようとしていたヤマトと、
件のヤマトさんグッズに向かうヤマトを見た大輔の、
時間が一瞬止まりました。
(大輔の手から落ちた、グラスをのせたお盆は、イチ早く反応したガブモンとチビモンが見事にキャッチ)


どれくらいの時間が経ったのか、お互いの間に漂う気まずい空気をかき消さんと、我に返ったヤマトが謝ろうとしたその時。
突然大輔が、ヤマトの背中にギュッと抱きついてきた。
『やっべー……ヤマトさん、あの箱に気付いたんだ。
やっぱアレじゃあ隠した内に入んねぇもんなぁ………
あぁもう!マジでどうしよう……(大輔、心の声)』
「大輔?……イキナリなんだよ、離れろよ」
『だっ…だだっ……大輔!!??一体??????(動揺激しいヤマト、心の声)』
「……イヤっス…」
『離れたらあの箱見られる!!』
「イヤじゃなくて……」
『離れてくれないと…理性がっっ……!!』
お互い、心に知られちゃ不味いコトを抱えた2人は、「離せ」「嫌だ」の押し問答を始めた。
それはもう、傍から見たら、バカップル以外の何者でもなかった。


「このくっきー、おいしいね」
「うん。コレ、ヤマトが作ったんだ」
「へ〜、やまとって、なんでもできるんだ」
「ヤマトは器用だからね」
テイマーに飽きた2匹のデジモンは、そんな2人を横目にし乍ら、勝手にジュースとクッキーでカンパイを始めていた。





先に折れる事を知らない、お馬鹿さんなヤマトと大輔は、
『『このままが永遠に続いたらどうしよう……』』
なんてお互い思いつつも、そのまま小一時間くらい過ごしたのだった。







このままが、永遠に続く……
それは少し辛いね。
(……本当にね)













カウンター3000を踏んで下さった、KAMEもん様へ捧げるヤマ大(なりそこない)デス。
遅くなったうえに、とんだ駄作で大変申し訳ありません。(=_=;)
返品・書直し要請可です(爆)

※この文章は、KAMEもん様のみに転載権があります。


2001.09.30.草ムラうさぎ




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