優先予約。
どうしてそういう話になったのか?
あああ、泣きそう泣きそう泣きそうだよ〜〜と、途方にくれた丈は、ひょろりと口を滑らしたのだ。
通りがかった街角。
見慣れたシルエットに、丈は声をかけた。
「タケルくん?」
小柄な影がその声にぴくっと反応したかと思うと、くるりと振り向き、ぱたぱたぱたーっと駆けてくる。
「丈さんっっ」
丈を見上げる目が赤い。
「ど、どーしたの?!タケルくんっっ」
「ママ・・・・・・お、おかあさんが、いつの間にかいなくなって・・・」
いつの間にか・・・いや、違うだろう。
きっと何かに気をとられているうちに、はぐれてしまったに違いない。
つまり、迷子、である。
うぐっと、声が詰まる。
うりゅうりゅっと、潤みかけた瞳を見て、丈は盛大に慌ててしまった。
思わず口がつるりと滑る。
「あっあのっっタケルくんっっよかったら何か買ってあげようか?」
きょろきょろと周りを見回しながらの緊急策。
物でつるのは子供のしつけにはよくないんですよ。お兄さん。
でも仕方ない。非常事態なのだ。
「おっお菓子とかっっ」
「お菓子?」
「何か、欲しいものないっ?!」
「欲しいもの?」
ひたっとタケルが丈を見上げる。
対して丈はぶんぶんと首を振った。
首を痛めそうなくらいの勢いで、丈は頷いた。
「なんでもいいの?」
タケルの丸い目が丈を見つめる。
ちょっと潤んでいるせいか、きらきらと擬音付きで瞳が光る。
丈は精一杯のお兄さんの笑顔で応えた。
「勿論だよ、タケルくん」
頭の端で、財布の中身を確認する。
ちょっとどきどきだ。
「本当になんでもいいの?」
すっかり涙のひっこんだタケルが念を押す。
「うん」
誠実の紋章に二言はない。
こういうケースを、ひくにひけない状況、とも言う。
だってだって、僕は年上なんだから。お兄さんなんだから。しょうがないよ、うん。
だから笑顔で
「何でもいいよ。何が欲しいの?タケルくん」
ひたっと目線を合わせて。でも緊張感がはしったりして。
そしてタケルはじーっと大きな目で丈を見据えて、言った。
「丈さん」
「なに?」
「だーかーら、丈さん!」
「は?」
「なんでもいいんでしょ?僕、丈さんが欲しい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「僕―?!」
こっくり。
真剣な顔で頷くタケル。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「えーと・・・それは、お兄さんになってってことかい?」
「おにいちゃんなら、間に合ってる」
そうだよね。
「家庭教師とか」
「僕、小2だよ」
まだ早い?
「いや、でも、最近は小さいうちからつけてる子もいるんだよね。やっぱり基本が大事っていうか・・・」
「じょーさんっっこれってそんな話っ?」
違うの?
違うか。
「えーと、えーと・・・ごめん。これってどーいう話?」
むーっとふくれるタケルに、丈は慌てて聞いてみる。
ねぇ、これってどーいう話?
タケルは、仕方ないなぁ、というように両腕を組んで、大人みたいにため息を、大きく大きく吐いてみせて、で、くいくいと服の端をひっぱって、丈をしゃがませた。
にこっと笑って、そっと額にキス。
え?
額に、キス?
「こーいう話だよ。丈さん、わかった?」
唖然呆然。とはまさにこのこと。
「あ!おかあさんだ!!」
遠い遠い遠いところで、「タケル!」と叫ぶ女の人の声がする。
しゃがんだままの丈をきゅっと抱きしめて、タケルは笑った。
「またね、丈さん」
子供が、大きく大きく手を振って去っていく。
ねぇ、これってどーいう話?
去っていく子供は、大きな声で言った。
「じょうさーんっ、約束だよーっっ」
つまり、これって、どーいう話?
呆然としゃがんだままの丈を、落ちかけた夕日が、赤く赤く染め上げた。
これがどーいう話だったのか、丈が理解するのは、まだまだ先の話である。
おしまい。(2001/03/15)
水無月修様から頂いたタケ丈小説です。
修さん大好き〜〜(>▽<)丈先輩かわゆい〜
いつもいつも有難うございます。ぺこり。