「美味いッスか、ヤマトさん!」期待に目を輝かせている大輔の表情は、子供みたいで可愛い。遊んでもらおうとする子犬みたいでもあるよな、と思いながらヤマトは苦笑した。いくつになっても、自分の恋人は子供みたいに無邪気で無鉄砲だ。
大事な大事な恋人だからこそ、ヤマトは心を鬼にする事にした。惚れた欲目でも、フォロー不可能なことは存在するのだ。
「はっきり言って、マズイ」
簡潔なヤマトの感想に、大輔は見るも無惨にしおれたのだった。
中学卒業後、高校ではなく調理師専門学校に進んでいる大輔は、ラーメン屋になるのだと言って試行錯誤を繰り返すようになっていた。友人知人を総動員して試食をさせている大輔だが、その一番の被害者はやはりヤマトになるだろう。こういう時、要領のいいタケル達は、試作品第一号は食べないのだ。改良して、割合美味しくなってからしか口にしない人間と、チャレンジ精神そのままの試作品第一号を食べる人間とでは、その苦労はやはり違う。
大輔制作の今までの数々の試作品第一号をほぼ完璧に食べているヤマトは、そのたびに辛辣とも言える感想を返していた。愛があってもフォローできない味だし、愛があるからこそ正直に言っているヤマトなのだが、感想を告げた後の大輔の落ち込みには弱い。
「イヤ、大輔。……改良の余地はまだあるんだろ?」
床に崩れ落ちている大輔の背中に、無愛想な声をかける。慰めたいところだが、真実は真実としておかなければならないから、ヤマトの声はどうしても硬い調子になる。だいたい、ここで慰められるような男なら、ヤマトの人生はもっと薔薇色なはずだ。変なところで真っ正直な男・石田ヤマトの人生は、今後もいらない苦労がつきまとう事だろう。
一方、只今どん底です、という表情の大輔はといえば、背中にかけられたヤマトの言葉に一気に立ち上がった。
「ッたり前ッス!。こんな所で挫けてる場合じゃないでしょー!」
テンションは遥か彼方まで昇ってしまったらしい大輔は、鼻息も荒くそう叫んでいる。基本的に負けず嫌いな大輔は、リターンマッチに燃えているのだ。今回の「マズイ」を糧に、次回こそはヤマトさんに「美味い」と言わせてみせるぜッ、ガンバレおれ!と心の内でも叫ぶ大輔だった。目的が少しズレてきていないか?というツッコミはご遠慮願いたい。一度に二つのことは考えられないのが本宮大輔という人物の特徴なのだ。美味いラーメンを作る、と言う本来の目的が、ヤマトさんに「美味い」と言わせる!、にすり替わっていても仕方がないのだ。どっちにしろ『美味いラーメン』にはなるので良しとしておこう。
次回に期待して下さいね、ヤマトさん!と拳を振り回す大輔に、内心ホッとしながらヤマトは意地悪そうに笑ってみせると、どんぶり越しの大輔の顎を掴んで引き寄せた。
「ヤ、ヤマトさん、何を……」
する気なんでしょうか、と言う大輔の言葉被さった、ヤマトの意地悪そうな笑顔とサラリと口にされた問題発言。
「口直し」
遠慮のないヤマトの『口直し』に、焦った大輔はわぁーと叫んでいたが逃げられるわけもなく。……少々マズイのでは、と言うくらい『口直し』されてしまったのだった。
赤い顔で焦りまくっている大輔の額を軽く叩いて、ご馳走様とヤマトは笑う。
「次回、期待してるぜ?、大輔」
意味深な笑みで唇を舐めたヤマトに、さっきの落ち込みとは別の意味で床に崩れ落ちる大輔なのだった。
ところで。
二人の視界から完全に外されていたのだが、同じテーブルにはデジモン二匹も座っていて、大輔制作試作品ラーメンをお相伴していた。
「毎回毎回、楽しそ〜だよねぇ。そう思わない?、ガブモン」
「……ヤマトはキス魔になったのさ」
ブイモンの言葉に、どこか遠い目をして答えたガブモンの言葉は、もちろんテイマー達には聞こえていなかった。目の前で繰り広げられているバカップルな有様に、デジモン達は見ない振りをしながら、黙々とラーメンを完食した。冒険や戦闘がなかろうと、テイマーによってはその苦労が耐えないのがデジモンの宿命なのかもしれない。
二〇〇八年、初冬の出来事……。
(終)
天羽誠様から頂いたヤマ大小説第2弾です。
うぉぉ〜〜!とんこつ!!(とんこつラーメンらしいですヨ)
にんにく臭かったりネギ臭かったりなチューなんですね!
ガブが素敵すぎます〜〜(><)
いやんもう!誠ちゃんだいしゅき!!