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聖なる夜に   ●
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クリスマスイヴである。
「みなさん!今日は寝る前にちゃんと枕元に靴下を用意しておくんですよ!」
………はい?
やけにはりきってそう言うシオンに、タツヤ、アヤセ、ユウリは思わず目を点にしてマジマジとシオンを見返してしまった。
「……サンタさんが来るんだとよ…」
どこか呆れた口調でドモンが答えた。
「…サンタさんって、あの…サンタクロースのコト?」
「他にどのサンタさんがいるんだよ…」
「魚政のおっちゃんの名前が確か三太さんだったと」
「魚政のおじさんは六太さんよ」
「そんなボケにツッコんでやらなくて良いぞ」
そんな他4人のやり取りが聞こえてないのか、シオンは1人でワクワクしている。
「ひょっとしてさ、シオンってばサンタクロース信じてんの?」
「ひょっとしなくても信じてるみたいね」
まさか、その歳になってまだサンタクロースを信じていようとは…
「…どうする?」
「どうするって…何をどうしようってんだ?」
「…サンタクロースなんていないって、お前シオンに言えるか?」
4人は顔を見合わせたまま固まってしまった。
「よし!ココは俺に任せて!」
「…タツヤ…どうするの?」
「良いから良いから!」
何か名案を思いついたのか、やけに自信満々のタツヤに、他にどうしていいか分からない3人は取りあえず様子を見る事にした。

「シオン、お前に一つ言っておきたいコトがある」
「何ですか?タツヤさん♪」
「あのな…サンタさんはな…」
「僕、初めてなんです、サンタさん見るの! 研究所に居た時は僕、眠らないからサンタさん来なかったんです」
「え?」
「研究所の人たちが言ってました。夜ちゃんと眠っている良い子の所にしかサンタさんは来ないって… だから僕、今までサンタさんにプレゼント貰ったことがないんです…」
「いや…あのさぁ、シオン…」
「今年は皆さんと一緒ですから大丈夫ですよね?僕は眠らないからプレゼント貰えないけど…皆さんはちゃんと眠るし… 僕、サンタさんが来たらサイン貰おうと思って♪」
「…………………………いや…そっか、頑張れよ…?」
「ハイッ!」

「ダメだ…言えない…」
結局何も言えずに舞い戻ってきたタツヤに、3人は何も言えずに溜息を漏らした。
「…ホントはさ、俺、サンタさんは中学生までの子供の所にしか来ないって言おうと思ってたんだけど…」
「…言えないよなぁ… まさかあんなに気合い入ってるとは思わなかったし…」
「今まで一度もサンタさんに縁が無かった分、力が入ってるみたいね…」
「で、どうする?…誰かがサンタ役をやろうにもシオンが起きている以上誤魔化せないぞ」
「そこなんだよね〜…」






「で?それがどうしたんだ?」
「…直人ぉ…」
とある喫茶店である。
4人は誰か他の人間にサンタ役を頼めないかと話し合い、直人にその白羽の矢が立ったのである。
「……お前の言いたい事は何となく分かるから敢て聞きたくないな」
「あ、やっぱり?」

薄々サンタ役を頼まれそうだと気が付いた直人は、タツヤが頼む前に断った。
「やっぱり?じゃないだろ…浅見、お前馬鹿か?」
「そこを何とか!」
「絶対お断わりだ。第一どうして俺がヒマだと思ってるんだ?クリスマスイヴだろ?」
「………彼女なんか居ないクセに…」
「何か言ったか?」
「…ううん…」

これ以上何を言っても無駄だとわかると、タツヤはレシートを持って席を立った。










「ダメだった…」
「何よ…心狭いわね」
「まぁ誰だっていきなりそんな事頼まれても困るだろ…」
「で、どうすんだ?」
既に、夜である。
シオンが風呂に入っているこの間に、どうするか考えなければならない。
「どうするって、どうしよう…」
「こんな時、分身の術でも使えたら…」
「それだ!」
え?
名案を思いついたのか、ドモンが目をキラキラさせている。
「リュウヤ隊長だよ! …なぁ、タック」
「馬鹿か、隊長にそんな事頼めるわけないだろう!?第一、頼んでみても来てくれる可能性なんて0に等しい」
「……ちぇっ」
その時、ドアがガチャリと開いて、風呂から上がったシオンが入ってきた。
「皆さん、どうしたんですか? 僕もお風呂終わっちゃった事だし、そろそろケーキ切りましょうよ!」
「あ」
「うん」
「そうね」
「そだな」
タイムアップである。
4人は成す術を見つけられないまま、このままどうにでもなれと半ば投げ遺りにクリスマスパーティーに挑んだのだった。









深夜2時である。
シオンは寝室でタツヤ、アヤセ、ドモンの寝顔を見乍ら、中々姿を現わさないサンタクロースを待っていた。
タツヤ、アヤセ、ドモンの3人は当然眠れる筈もなく、シオンに気付かれないようにひたすら寝たフリを続けて、既に3時間が経っている。
もう諦めてくれ…
襲ってくる睡魔と戦い乍らの寝たフリはかなり厳しいものがある。
そして、ずっと3人にピッタリくっついていれば良いのだが、シオンは不定期にユウリの部屋も覗くので、ユウリがサンタ役を引き受ける事も出来ない。正に八方塞がり状態なのである。
『サンタさん…遅いですねぇ…』
『来ないっつーの』
『諦めろ…』
『……眠い…』
3人のどこかわざとらしさが残る寝息と、時計の秒針が進む音だけが部屋に響いている。
と、そこへ

 …コンコンコン…

窓をノックした音が響いた。
シオンが振り向いた先には
「サンタさんっ」
!!!????

カラリと窓が開いて、静かに誰かが部屋へと入ってきた。
目を閉じている3人は、一体何が起こったのか分からない。

「サンタさんですね!サインお願いしますv」
サラサラとペンの滑る音だけが耳に付く。
『誰だ?』
『一体…』
『どうなってるんだ?』
「うわぁっ、有難うございます!」
どうやら誰か…サンタ(?)がサインを終えたらしい。シオンのはしゃぐ声だけが聞こえる。
そして、そのサンタ(?)は、3人の靴下に何かを入れた。
そして、
「え?僕にもですか?ありがとうございます!」
??
どうやらシオンにプレゼントを渡したらしい、シオンの喜んでいる雰囲気がひしひしと3人に伝わった。

再びカラリと窓の開く音が聞こえた。
「もう行っちゃうんですか?」
サンタ(?)は答えず、窓から誰かが外へ出た気配だけを、3人は肌で感じた。
結局始終一言も喋らないまま、サンタ(?)は居なくなったのだ。







翌朝。
皆が目を覚ますと、靴下の中には確かに何かが入っていた。
タツヤには時計が
アヤセにはパスケースが
ドモンには帽子が
ユウリには落ち着いた色の口紅が
そして、
シオンにはポインセチアの鉢植えと、小さなケースに入ったミニ工具。
それから、サインを残してサンタ(?)は去ってしまっていた。

「格好良かったですよ!サンタさん!! 寝てない僕にもプレゼントをくれたんですよ!」
よっぽど嬉しいのか、シオンは4人が起きてきてからというもの、ずっとその話を繰返している。


でもまぁ、シオンが傷付かなくて良かった


結局、サンタが何者だったのかは分からないけれど、4人はシオンの幸せそうな笑顔を見ると、そんな事はどうでもいいやと笑った。






終わり











おまけの後日談☆

「何?直人。直人の方から呼び出すなんて…」
「これ、請求書」
「え?」

明細:時計、パスケース、帽子、口紅、ポインセチア、ミニ工具
「……ひょっとして、直人が?」
「…あの日、お前から話を聞いた後…」
直人はシオンとばったり会ってしまったのだ。
そして、ニコニコと虫も殺せなさそうなほんわかした微笑みを持って「サンタクロースが来る」とはしゃぐシオンに、やっぱり直人も何も言えず、ただ「良かったな」としか言えなかったのだ。
「…アレは天然か? だとしたら相当タチが悪いな…」
何も言えなくなる…とこぼした直人に、タツヤは何とも言い難い笑顔を見せたのだった。




2000.12.04.
クリスマスネタです。
本当は冬コミ用に漫画で描こうと思ってたんですが、
コピーで出すにはページ数がかさむし、
オフで出すには〆切りに間に合わないしで、
結局こんなカタチになってしまいました。
……でもやっぱり文章は難しいですね(T_T)

五代神准