ラ・ソヴァージュ 〜ノンという女〜
作品解説

「ラ・ソバージュ」の主人公テレーズは、うらぶれた酒場で家族や仲間と共にクラリネットを
演奏しています。バンドマスターである父親は、貧乏暮らしから、いやしく無恥な根性が
身に染み付き、妻の浮気を知りながら何もできない意気地なし。
母親はバンドメンバーの若い男を平気で愛人にしており、卑猥な歌を歌い、堂々と
情夫の話をする下品な女。

そんな両親は、娘がブルジョワ家庭でなに不自由なく育ち明朗で腕力もある
まさに幸福そのものであるような天才作曲家、フローランにプロポーズされたことを知ると、
浅ましさをむき出しにして娘の幸せのおこぼれにあずかろうとします。
そしてテレーズ自身も、14歳のときに愛してもいない男の子供を妊娠し、自らの手で
堕胎したと言う「醜い、恥ずかしい、貧しい」過去を持つ。
しかし、それでもテレーズは純粋さ、誇りを失うことはありませんでした。

彼女の凛とした姿勢に強く惹かれた「完璧な」人物フローランとの結婚を控え、
テレーズは幸福な生活がすくそこに来ているにもかかわらず、なぜか不安を感じ始めます。
それは上流階級という新しい環境への不安や、自らの過去・家族についての負い目、といった
表面的な事柄だけではなく、内面に深く根ざした自分の価値観との葛藤が引き起こした、
ある意味絶望的な生へのあがきがもたらす、自己の存在への深い失望が生んだ
感情なのでした。
そして自らの魂が決して救われることのない事を知ってしまっている彼女の、
あまりに直線的な聡明さがついに一つの決断を下させることになります。

自分を見失うこと、自分を欺いた生活を送ることができなかったテレーズ。
幕切れの彼女の行動にあなたは拍手を贈るでしょうか、それとも
「理解できない」と首を振るのでしょうか。

* この解説は、劇団四季のFAXサービスを引用しています。

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