←「う」をみてみる  いんでっくすにもどる  まんがやわにもどる  「お」をみてみる→

栄光無き天才たち [えいこうなきてんさいたち]

作:森田 信吾  連載誌:調査中  単行本:全?巻  連載時期:調査中

 「え」も候補が殆どないんです。とはいえ、結構面白い作品です。
 基本的には栄光の陰にいた人物たち、もしくは栄光をつかんだものの、時代に翻弄され悲劇につつまれた最後を遂げた人物たちを取り上げたマンガです。
 有名どころではナチスのV2計画からアメリカのアポロ計画に携わったフォン・ブラウンや日本野球黎明期の沢村栄治、それにマリリン・モンローなどなど。彼らは天才と呼ばれるだけの才能を持ち、そして名を成した人物だが、フォン・ブラウンはアポロ12号の成功直後、宇宙計画から干され、沢村は兵役で肩を壊した後に戦没、マリリン・モンローは薬物中毒で孤独の死を遂げた。
 私個人として好きな話は、日本近代の産学複合の魁である理化学研究所、探検家スウェン・ヘディンの話などです。理化学研究所は、日本近代科学を支えた科学者を多数輩出し、科学者の自由な研究環境とその発明開発による利益を背景とした科学者自身による経営に支えられた、科学者の「楽園」でした。しかしその「楽園」も戦時下には仁科芳雄らにより原爆研究が行なわれ、そして敗戦とともにGHQの財閥解体で、「楽園」理化学研究所は姿を消す。
 スウェン・ヘディンは、チベット、楼蘭やロブ・ノールの探検により、地理学上最後の空白地帯であった中央アジアを「発見」した探検家だった。その巨大な功績も、ヒトラーとの親交があったという事で、晩年は不遇で現在でも欧州で彼の名はタブーだと言う。
 そのほかにも、GMの創始者ウイリアム・C・デュラントや東京五輪マラソン代表の円谷幸吉らが取り上げられている。
 このように、このマンガは時代に翻弄された「天才」たちの物語である。翻弄されつつも、あるいはその時代を築き、またあるいは後の時代を切り開く種となっていった、「天才」たちの壮大な物語である。
 「天才」とは、その偉大な才能と引き換えに、先天的にしろ後天的にしろ往々にしてなにかしらの欠陥を内在してしまう傾向がある。「天才」たちはその欠陥ゆえか、その不運ゆえか、栄光をつかむことなく、もしくは栄光に見放されてしまう。このマンガは、そうした「天才」たちの時代との攻防と彼らの人生の光芒を見ることができるのではないかと思う。
 私は一応歴史をやってきた人間なんで、こういう「ドラマ」を真に受けてしまうのはどうかなんですけども、ドラマチックに時代の恩寵と才能とのせめぎ合いを楽しめることは間違いないと思う。