…ザワザワと人の声が溢れていた。
昨日あった事、彼氏の話、様々な会話が、波のように迫ってくる。

 俺は机に頬をついて、窓の外を眺めていた。
 話に加わる気などは毛頭ない。

 時は正午過ぎ。SH前のひととき。

気分はそんなに宜しくない。
狭い教室。
高い人口密度。
暖房による熱気が、更に拍車をかけて不快感を募らせる。
(早めに切り上げりゃよかった…)
後悔先立たず。
心の中で舌打ちした時、ガラリと戸が開いて、担任が入ってきた。
―起立、礼
ごく単調に、ホーム会長が号令をかけ、皆それに従う。
(最悪かもな)
担任の話が右から左へとすり抜けてゆく。早く終わってほしい。
こんな日に限って話は長いのだ…

 肘を外し、窓の外を見上げると、また思わずため息が出た。
初冬とは思えない、抜けるような青空。
校庭に植えられた木々が静かに風に揺られている。
…冬にしてはかなり良い天気だろう。
…今日の昼メシどうすっかな…
…それより問題は夕飯の献立をどうするかだな。
 次から次へと湧いてくる思考にボンヤリと身を委ねていると
ようやく担任の声が途切れた。
―起立、礼
枠にはめられた、小さな一つの社会。
(俺はあんまり好きじゃねえな)

担任が教室から出て行くと同時に、張り詰めた緊張がほっと解けて
女子達は笑いながら机を合わせだす。一緒に購買へ行く。
非常に中の宜しい事で…
大した実感も湧くことなく、手早く荷物をまとめリュックを背に担ぎ
クラスに居た相棒に片手を挙げて合図する。

『いってらっしゃい』

唇が小さく動くのを確認してから
いつものように俺は、冷たい鉄の校舎から抜け出て走り出した。
いつもの場所へ。

(―自由になりたいの?)
さあね?


++