--------------------------------------------------------------------------------
遼来来 >
(ほらみろ、やっぱり葵せんせは居るんじゃないかっ)
次の瞬間、閃光のように職員室方面へ走り去るヒロ。
たった今まで、しおれた白菜のように、ずるずると引きずられていた男とはとても思えない。
「葵せんせ〜っ」
職員室前の廊下を猛スピードで走るヒロの顔面に、犬神のとっつぁんの手にした出欠名簿が、
派手な音を立てて炸裂した。
「廊下は走るな」
「と……とっつぁん……どうしてそこに……」
「職員室前に教師が居るのは当たり前だろう。あと、美里先生なら、もう急用で帰ったぞ」
--------------------------------------------------------------------------------
ツヴァイ >
夕暮れに肩を落とし、ヒロは帰路に就いた。
「何を暗い顔してんのよッ。」
バンッと大きな音を立ててスズが鞄でヒロの背中を叩いた。
「……うるせェ……。いっそ世界なんて星になっちまえばいいんだぁ……」
既に反撃の力は残っていないらしい。
そんな幼なじみを見て、スズは腰に手を当て、
「まったく。じゃあ、元気が出るものあげるわよ」
と、鞄から二枚のチケットを取り出した。
「はい」
「おお、これは!」
ヒロが目を輝かせたそれは、プロレスのチケットだった。
「元気が出たでしょ? メインのホワイトタイガー醍醐は、真神の卒業生なんだってね。
確か・・・3−Cだったって、とっつぁんも言ってたし。」
そのスズの一言が、ヒロの眠っていた思考を呼び覚ました。
……3−Cの卒業生で晴れ舞台と言う事は……。
「おらッ!何してんだよ!走るぞ!」
モーリス・グリーンをも超える勢いで走り始めたヒロ。
--------------------------------------------------------------------------------
遼来来 >
結局、そのまま直で後楽園ホールまでへもやって来てしまった二人。
アツいファンですし詰め状態の、5階ホールへ向かう階段で、二人は開場を待っていた
「もう。こんな学生服(カッコ)であたしたち浮いてるじゃないの。なんでそんなに急ぐのよ」
「ぐふふ〜、試合開始前の控室にこそ用がありけり、だからだ」
「はあ?」
「お、係員が出てきたぞ。開場だ!」
--------------------------------------------------------------------------------
ツヴァイ >
その時、ヒロの頭の中ではジェームス・ボンドのテーマが流れていたに違いない。
しかし、係員が姿を見せると、ボンドならば首筋に種痘を叩き落とし、悲鳴ひとつあげさせ
ないのだろうが、情けなく隠れる辺り「にわかボンド」だ。
そしてたどり着いた控え室。呼吸を整え、ノブに手を掛ける。
先ほどからスズは黙っていた。呆れ「過ぎて」いる。
「関係者以外立ち入り禁止」を踏み越えようとしているのだから。
慎重にドアを開けると、そこには厳つい巨体とショートカットの女性、そして――。
-------------------------------------------------------------------------------- |