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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのさんじゅうに
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遼来来 >

 雨紋が振り下ろした槍の穂先から、激しい放電が起きた。
 電撃はまるで光線のように、遠ざかるフリッツの背中に真っ直ぐ追いすがり、閃いた。
 だがフリッツは、いきなりハンドルを持ったままバイクを飛び降りると、その怪力でハンドル
を引き上げ、バイクそのものを盾として、電撃を受けとめた。
「ゲッ! なんでアンなことできンだ、アイツっ!?」
「それより、止めろ雨紋! 反撃がくる――」
 フリッツの反撃は、盾としたバイクそのものを投げつけるという、たいそう荒っぽいものだっ
た。
「うわあっ」
 急ブレーキをかけ、思いきり車体を傾けて、横に滑りながら、廻り込むように避ける雨紋。
「キャーーーーっ!」
 猛烈に振りまわされて、悲鳴を上げる美里。
 だが、オトコどもは彼女を労るどころではなかった。
 フリッツは、バイクを投げると同時に剣を抜き、突進して来ていたのだ。
 腰に美里がしがみついている雨紋は、迎え撃てない。
「ちっ」
 後部座席で半ば立ち乗りしていた如月が、忍者刀を抜きながら飛び、彼らの前に立ちはだかっ
た。
「飛水流奥義、水裂斬!」
 如月を、まさに己の剣の間合いに捕らえようとしていたフリッツの目の前に、突如激しい水柱
が噴出した。
「ぬうっ?」
 水圧と、驚きと、視界を奪われたことで、一瞬動きの止まるフリッツ。
「邪妖、滅殺――!」
 そこに、渾身の斬撃を打ち込む如月――。
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コペ > 

「――かはッ!」
 水柱をつき抜けてきた手が、如月の首をわし掴む。
「甘い――」
 平均より軽いとはいえ、人一人を片手で掴み上げ、フリッツは薄く笑っていた。
「如月サンッ!」
 ようやく自由になった雨紋が、槍に雷氣を纏わせる。が、その動きが止まった。
「うおッ!?」
 小石のような軽々さで投げられた如月の身体を支え、雨紋が地面に倒れ込む。
 倒れている〈イナズマ〉改に背中をしたたかにぶつけ、雨紋の呼吸が一瞬止まった。
「くッ――!?」
 顔をあげた如月と雨紋の視界に、剣を振り上げたフリッツの姿があった。
「終わりだ」
 小さく告げ、人ならざる力で凶刃が振り下ろされた。
「む――」
 フリッツの剣が音もなく、止まる。二人の胴を薙ぎ払う直前に。
 光が二人を包み、フリッツの剣を押し返していた。
「この《力》は……」
「美里サン…」
 二人のすぐ後ろ、〈イナズマ〉改の側にいた美里の身体が光を――《力》を放出していた。
 輝きが強くなる中、《力》が空中に投影され、《天使》の姿を映し出す。
 フリッツが後ろに向かって跳ぶ。しかし、光はそれを追うように広がり、フリッツを包み込ん
だ。
「――ジハード!」
 凄烈なエネルギーが光の中を駆け巡る。それは如月たちをすり抜け、美里の《力》に敵と認識
されたフリッツのみを薙ぎ払った。
「――」
 弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる直前、フリッツが懐から取り出した珠を放った。
 珠が砕け、一瞬にして《闇》が広がった。
「くそッ! 奴サン、逃げる気ですよ!」
 雨紋の叫びの通り、闇の向こうでフリッツが立ちあがり、背を向けた。一瞬、グラつくが、す
ぐに立てなおし、恐ろしい速度で駆け出した。
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遼来来 >

 闇が明けると、フリッツの姿はもう、なかった。
「追いましょう、如月サン! 奴サン、ダメージ負って、バイクも無くして、簡単に追いつける
ハズですよっ」
 バイクにまたがり、吠える雨紋。
「……まあ待て、雨紋。『レディには優しく』が、お前のポリシーだろう?」
 如月に言われ、びっくりした雨紋は、「レディ」――美里に目を向けた。
 美里は――胸を抑えてうずくまっていた。
「み、美里サン! どうしたんですかッ!? どっか、打ったんですかッ!?」
 あわててマシンを飛び降り、駆け寄る雨紋。
 美里の側にかがみこみ、なにやら丸薬を渡す如月。
「はあ、はあ……5――ううん、6年振り――?」
 如月に貰った丸薬を飲んで、ようやく一息ついたのか、つぶやく美里。
「――えっ?」
「美里さんが、あの《力》を使ったのが――だよ、雨紋。もともと彼女は、攻撃的な方向に
《力》を使うのは、嫌いだし苦手なんだ。ましてや数年振り――相当な負担だったんだろう」
「う……オトコとして、面目ねえ……」
「同感だ。――それにな」
 如月はゆっくりと立ち上がると、道の向こうを指差した。
「奴は、他に手が無いから、バイクを盾にし、投げつけてきたわけじゃない。『もう要らない』
から、投げたんだ。――見ろ」
 如月が指差すその先には、遠目にもわかる、外壁が天井めがけて斜めに這い上がるという一種
独特な造りの、壮大な建物が見えていた。
「あれは――?」
「あれが――ボクたちの当の目的地。東京カテドラル聖マリア大聖堂――だよ」
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