--------------------------------------------------------------------------------
ツヴァイ >
「お前達、電車の中はお前達二人だけがいるわけではない。少し静かにしていたらどうだ?」
その野太い声に、二人が顔を上げた。
そこには、厳つい、そして傷のある顔の大男が立っていた。醍醐も巨漢だが、それ以上の巨漢
だ。
あんた誰だ、とヒロが言おうとしたが、スズが先に声を上げた。
「紫暮さん!」
その名前には、ヒロも覚えがあった。K−1ワールドグランプリで日本人として初優勝を飾っ
た男だ。
しかも、その優勝の影にはもう一つのエピソードがあった。
前日、オヤジ狩りに遭っていた男性を助けた際、左足にナイフを深々と貫かれていたのであっ
た。
にも関わらず、決勝戦では必殺の右ハイキックで、20世紀最強のキックボクサーと呼ばれた
ピーター・アーツをマットに沈めたのである。
「俺の事を知っていてくれるのは嬉しいが、ここは公共の場だ。人の迷惑になる事は控えるもの
だ」
「すみません……」
二人は深々と頭を下げた。
--------------------------------------------------------------------------------
テイル >
「ん……オマエ達……魔神の生徒か?」
「? そうですけど……なにか?」
スズがおそるおそるきいてみた。
「ん? ああ、すまんな。知り合いに魔神の者がいてな……」
(へーそうだったんだ。まさかこの人まで葵センセの知り合いって事は……まさかな。そう都合
いいわけないか)
--------------------------------------------------------------------------------
遼来来 >
「もしかして、美里葵って先生を知ってるか? 確か、母校に就任しているはずなんだが」
なんと、紫暮選手の方から水を向けてくれた。
これを見逃すヒロではない。が、スズの表情も険しくなった。
「ハイ! 実は僕らの……んぶっ」
勢い込んで答えようとするヒロの口を、スズの掌がすかさず封じこめる。
「ハイハイ、騒ぐなって言われたばっかりでしょ。……偶然ですね、紫暮さん。
私たち、その美里先生の担任するクラスの生徒なんです」
「ほう」
--------------------------------------------------------------------------------
テイル >
「そうか……元気か?」
「もうばっちしです。」
「そうか……なら言ってもらいたい事があるんだが……いいか?」
「はい……いいですが……」
スズはなんだろと思いながら話を聞こうとした。
掌底くらったまま気を失っているヒロを無視したまま……。
「アイツは元気か? と聞いてくれ。それだけでいい」
「それだけですか?」
重要な事とおもいきや……タダ元気かときくだけ……?
「それぐらいなら! ってアイツって?」
「美里にとって大事な奴だよ。美里だけでない……俺にとっても大事な奴だ……」
--------------------------------------------------------------------------------
草薙珠璃 >
大事な奴と耳にしたヒロ。クサい、実にクサイ、不謹慎にもそう思っていた。
恐らく小蒔辺りが聞いていたならば、初対面コークスクリューは確実であろう。
「ひーちゃんッ。そんなに根掘り葉掘り聞いたら失礼でしょッ」
と、スズは小声で注意すると、ヒロの頬を思い切りつねった。
「いッ、いでででででで……」
「お前等……人の話を聞いていたか?」
とうとう、紫暮の顔が引きつった笑いを浮かべた。
-------------------------------------------------------------------------------- |