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連載リレー小説「ヒロとスズ」そのろく
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 遼来来 >

  その時、駅への到着を知らせるアナウンスが流れ、電車は次のホームへとすべりこんだ。
 「仲がいいのは結構だが、もう少し大人しくしてくれよ。美里先生にも迷惑かかるぞ」
  と言うと、紫暮選手は開いた扉から、ホームへ降りてしまった。
 「なっ、仲っ……」
  真っ赤な顔でうろたえるスズ。 
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 テイル >

 「いやだな柴暮さん!!こいつと仲がいいなんてブフゥ!」
  ヒロが言い終わる前に、スズのストレートが綺麗に入って、ヒロは血をブフウ! と出して倒
 れた。
 「スズいてえ!! ……スズ?」
  ヒロは始めてスズの顔が赤いと知った。
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 山椒亭Gまる > 

 「……? スズ、どうしたんだよ……?」
  いつもなら拳の後に間髪入れず飛んでくる毒舌がない。
  それどころか、肩をすくめたままじっとうつむいている。
  あまりの様子のおかしさに、ヒロはもう一度、自分の幼馴染に向かって声をかけた。
 「おい、どうしたんだよ……。具合でも悪いのか?」 

 「……ッ、なんでもないっ……!! あたし、今日もう帰るから!!」
  そういって、スズは走り出していってしまった。
 「お、おい!!」
  あまりに様子のおかしいスズを、ヒロは慌てて追おうとしたが、ちょうど電車から降りてきた
 人の波に行く手を阻まれ、次の瞬間には彼女の姿を見失っていた。
 「……ま、いいか。明日学校に来る頃にはいつも通りに戻ってるだろーし……」
  なんとなく、後味の悪さに鈍る足を動かし、ヒロは帰路についた。
 「……そういえば、なんで葵センセは、あんな嘘をついてまで醍醐さんに会いにいったんだろう
 ……。なんか、やけに深刻そうな声だったよな……」
  もやもやする気分をかえるため、ヒロは必死でスズとは関係のない話題を探そうとしていた。


 「……あ、そういえば、宿題のプリント、教室に忘れてきちゃった……」
  帰る、といったものの、結局すぐに家に帰る気にもなれず、駅のあたりをぶらついていたスズ
 は、ふと自分が忘れ物をしたことに気がついた。
 「7時半か……。今ならまだ間に合うかな。……取りに行こ……」
  明日の朝、誰かに写させてもらえば済むものを、取りに行こうとさせたのは、やはり今だけは、
 近所に住むヒロのことを避けたかったからだろう。
  スズは、学校に向かってとぼとぼと歩き出した。
  すでに日は沈み、どんよりとした暗雲と不気味な濃紫色の空が、新宿の空を覆っていた。 
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 テイル >

 「紫暮さんの言ってた事となんか関係あるのかな……」
  ヒロはそうも思った。
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 遼来来 >

 「そー言えば、葵せんせの大事なヒトって誰だろ!? 由々しき問題だよなぁ」
  耳にした瞬間から、めちゃくちゃ気になっていたことも考えてみた。
  だが、スズとのもやもやは晴れなかった。

  いつ家に帰りついたか、夕食になにを食べたかも覚えていないくらい上の空で、ヒロは2階の
 自室のベッドに横たわっていた。
  スズの態度、紫暮の言葉、葵せんせと醍醐選手たちの会話……。
  いろいろなことが頭の中をぐるぐると巡るうち、少し眠りかけていたようだ。
  と、1階の据え置き電話が鳴り響く音が聞こえて、目が醒めた。
  母親が応対する声が、かすかに聞こえる。
 「ええっ!」
  突如、その母の声が驚きの叫びに変わった。
  どたどたどた。階段を駆け上がってくる音。
  ヒロは、何事かと、ドアの外に顔を出してみた。
 「あ、ヒロキ! 帰り、スズちゃんとは一緒じゃなかったのかい?」
 「……今日は、先に帰っちまったけど」
  なんとなく、「途中で」とは言いにくかった。
 「スズちゃん、まだ帰ってないって! あんた、心あたりは!?」
 「な……!?」
  反射的に時計を見上げる。夜の10時。スズは、夜遊びするタイプじゃない。
 「!」
  次の瞬間、ヒロは物も言わずにダッシュしていた。
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