--------------------------------------------------------------------------------
遼来来 >
その時、駅への到着を知らせるアナウンスが流れ、電車は次のホームへとすべりこんだ。
「仲がいいのは結構だが、もう少し大人しくしてくれよ。美里先生にも迷惑かかるぞ」
と言うと、紫暮選手は開いた扉から、ホームへ降りてしまった。
「なっ、仲っ……」
真っ赤な顔でうろたえるスズ。
--------------------------------------------------------------------------------
テイル >
「いやだな柴暮さん!!こいつと仲がいいなんてブフゥ!」
ヒロが言い終わる前に、スズのストレートが綺麗に入って、ヒロは血をブフウ! と出して倒
れた。
「スズいてえ!! ……スズ?」
ヒロは始めてスズの顔が赤いと知った。
--------------------------------------------------------------------------------
山椒亭Gまる >
「……? スズ、どうしたんだよ……?」
いつもなら拳の後に間髪入れず飛んでくる毒舌がない。
それどころか、肩をすくめたままじっとうつむいている。
あまりの様子のおかしさに、ヒロはもう一度、自分の幼馴染に向かって声をかけた。
「おい、どうしたんだよ……。具合でも悪いのか?」
「……ッ、なんでもないっ……!! あたし、今日もう帰るから!!」
そういって、スズは走り出していってしまった。
「お、おい!!」
あまりに様子のおかしいスズを、ヒロは慌てて追おうとしたが、ちょうど電車から降りてきた
人の波に行く手を阻まれ、次の瞬間には彼女の姿を見失っていた。
「……ま、いいか。明日学校に来る頃にはいつも通りに戻ってるだろーし……」
なんとなく、後味の悪さに鈍る足を動かし、ヒロは帰路についた。
「……そういえば、なんで葵センセは、あんな嘘をついてまで醍醐さんに会いにいったんだろう
……。なんか、やけに深刻そうな声だったよな……」
もやもやする気分をかえるため、ヒロは必死でスズとは関係のない話題を探そうとしていた。
「……あ、そういえば、宿題のプリント、教室に忘れてきちゃった……」
帰る、といったものの、結局すぐに家に帰る気にもなれず、駅のあたりをぶらついていたスズ
は、ふと自分が忘れ物をしたことに気がついた。
「7時半か……。今ならまだ間に合うかな。……取りに行こ……」
明日の朝、誰かに写させてもらえば済むものを、取りに行こうとさせたのは、やはり今だけは、
近所に住むヒロのことを避けたかったからだろう。
スズは、学校に向かってとぼとぼと歩き出した。
すでに日は沈み、どんよりとした暗雲と不気味な濃紫色の空が、新宿の空を覆っていた。
--------------------------------------------------------------------------------
テイル >
「紫暮さんの言ってた事となんか関係あるのかな……」
ヒロはそうも思った。
--------------------------------------------------------------------------------
遼来来 >
「そー言えば、葵せんせの大事なヒトって誰だろ!? 由々しき問題だよなぁ」
耳にした瞬間から、めちゃくちゃ気になっていたことも考えてみた。
だが、スズとのもやもやは晴れなかった。
いつ家に帰りついたか、夕食になにを食べたかも覚えていないくらい上の空で、ヒロは2階の
自室のベッドに横たわっていた。
スズの態度、紫暮の言葉、葵せんせと醍醐選手たちの会話……。
いろいろなことが頭の中をぐるぐると巡るうち、少し眠りかけていたようだ。
と、1階の据え置き電話が鳴り響く音が聞こえて、目が醒めた。
母親が応対する声が、かすかに聞こえる。
「ええっ!」
突如、その母の声が驚きの叫びに変わった。
どたどたどた。階段を駆け上がってくる音。
ヒロは、何事かと、ドアの外に顔を出してみた。
「あ、ヒロキ! 帰り、スズちゃんとは一緒じゃなかったのかい?」
「……今日は、先に帰っちまったけど」
なんとなく、「途中で」とは言いにくかった。
「スズちゃん、まだ帰ってないって! あんた、心あたりは!?」
「な……!?」
反射的に時計を見上げる。夜の10時。スズは、夜遊びするタイプじゃない。
「!」
次の瞬間、ヒロは物も言わずにダッシュしていた。
-------------------------------------------------------------------------------- |