前頁戻る次頁


 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのさんじゅうろく
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
遼来来 >
 
「そいつはどっちへ逃げた」
 虚を突かれてぽかんとなるヒロを放り出して、フリッツは聞いた。
「……地下だ」
「ちよっと、答えてどうすんのよ、フィル」
 あくまでも不信の態度を続けるシェラ。
「いや、この際、彼女の身柄を確保するほうが先でしょう」
 どちらに肩入れするでもなく、如月。
 
南風野 >
 
「そうっスよ。敵の『敵』は味方!」
「ウン。今はスズちゃんを見つける方が大事なんだし」
 如月の言葉に雨紋と小蒔が首を縦に振って肯定を示す。
 葵も口にこそ出さないが、無駄な争いは避けるべきと瞳が訴えている。
 彼らの目的はスズを助ける事。吸血鬼を退治する事では無いのだ。
 
コペ >
 
「敵の敵、ねェ……」
 シェラが半ば呆れている。目の前ののん気な男女は、自分達が
どんな職種なのか、忘れているんじゃなかろうか、と。そのスズ
という少女を見つければ、シェラは躊躇なく撃つ。他の二人もだ。
 その時、思い違いだったと気づくだろう。均衡が崩れれば、す
ぐに三つ巴になる関係だということに。
「まあ、いいわ。さっさと追――」
「うふふふ〜〜〜」
 一瞬前までこの場になかった声が、シェラの背後から響いてきた。
『!?』
 シェラ、フィル、来須が動き、それぞれが壁の側まで飛びのいた。
すでに各々の武器を構えている。
「あ、ミサちゃんッ」
 軽く弾む小蒔の声が、一瞬で場を支配した緊張を、さらに一瞬で
崩壊させる。
 わずかに下がった銃口の先には、黒いローブに妖しげな首飾り、
そして、ビン底をそのまま使ったような眼鏡をした女性が立っていた。
「うふふ〜〜、ミサちゃんびっくり〜〜」
 驚いたのはこっちだ、と三人は声を揃えて叫ぶところだった。気配が
まったくなく、後ろに立たれていた。今も、神秘的というか妖しげな
存在感を放っており、本当にそこに立っているのかも疑わしくなって
くる。
「紹介するね。ボクたちの友達の裏密ミサちゃん。こういった事に詳
しいからボクたちが応援に呼んでおいたんだよ」
「ウフフ〜〜〜、よろしく〜〜」
 
みーやん >
 
 小蒔に紹介された元真神の黒魔術師は、昔と少しも変らない
不気味な笑顔を浮かべた。
 共に学生時代を過ごして慣れた女性二人を除いて、場がまた
もや凍りつく。葵が話し掛けた。
「ミサちゃん、久しぶりね」
「ウ〜フ〜フ〜。変ってないわね〜〜葵ちゃんも〜。懐かしいわ〜」
 ――そりゃ、こっちの台詞だっ!!――
 学生時代の彼女を知る者は、心の中で共通の叫びをあげる。
「う、裏蜜さん? スズの居場所、分かる?」
 比較的影響の少なかったヒロが尋ねると、彼女は黒いローブ
の中から、手のひら大の水晶玉を取り出した。
「ウ〜フ〜フ〜〜、ミサちゃんにお任せ〜〜」
 ヒロの質問に応えるように、黒魔術師はとっても楽しそうに
水晶玉を掲げ、懐かしの呪文を呟き始めた。
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 


前頁戻る次頁
感想はコチラ↓
談話室

戻る