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遼来来 >
聞こえないフリをして、人数分のお茶を煎れ直す神父。 「――まずは、落ちつくことですよ。はい、どうぞ」 神父の、その、ほんわりした笑顔に毒気を抜かれたのか、フリッツも、如月、壬生も、シェ
ラさえもが、思わずその湯呑を受けとってしまった。 ずずーっ。全員がいっせいに茶をすする。ある意味、異様な光景。 「……で、スズはんはどこか、知っとるんでっか? 神父はん」 真っ先に口を開いたのは、三木だった。状況と自身の能力のわりには落ちついている。たぶ
ん、商売柄、慣れているのだろう。全員の視線が、神父に集まる。 「ですから、私はほんま――うう、口調が移った。本当に知りませんよ。でも、まだ無事だろ
うとは思います」 「その根拠は?」 壬生が腕組みをしながら訊く。 神父の視線が、チラリと葵の顔に向けられる。葵、きょとん。 「――そうか」 すっと立ちあがるフリッツ。 「おかしいとは思ったが、その女、遠視能力の持ち主か。そういえば、フィルがいない。私を
ここに釘付けておいて、その隙に――、というわけか……」 「そ、そんなぁ」 ボクたちは、そんなセコくないよ――と、小蒔が抗議の声を上げようとした、その瞬間。 バアンッ! 大きな音とともに、先にフリッツが入ってきたのと同じ扉が凄い勢いで開いた。 入ってきたのは、ヒロだった。恐ろしく険しい表情のヒロ。 ヒロ、びっくりしている一行を無視というより目に入らない様子でダッシュ、真っ直ぐフリ
ッツに駆け寄って、大胆にも、その胸ぐらを掴む。 「スズをどこへやった!?」 掴んだ服をぐいぐい引っ張りながら、大声で叫ぶヒロ。
イクズ・エム(みーやん)>
「ひ、ヒロくん!?」 突然の乱入者に、しばし全員がポカンとなっている中、先に我に帰った葵は驚きの声をあげ
た。名前を呼ばれたヒロは、それに気付く様子もなく、フリッツにスズの居場所を物凄い剣幕
で問いただしている。 「早く教えろっ! スズは何処にいるんだ!」 「ヒロ、少しは落ち着け」 後から教会に入ってきた赤い髪の男――フィルは、ため息をはきつつ、ヒロの服の襟をつか
んでフリッツから引っぺがした。 「何すんだよっ!」 「落ち着けと言ったろ。怒鳴っても何も始まらん」 「じゃあどうすれば良いってんだ!」
コペ>
チャキ… 「……」 ヒロが途端に口を閉じた。こめかみに冷たい感触。視界の端に見える女性の姿。 シェラがヒロに銃口を押しつけていた。 「状況把握もせずにただ怒鳴り散らす素人の坊や。そういう見苦しい姿を見るのは嫌よ?」 椅子から半端に立ちあがった姿勢で固まっていた葵たちの視線なぞ、まるで感じてない様子
のまま、あっさりと銃をホルスターに収めた。 銃の存在よりも、シェラの殺気にのまれていたヒロが、ガクゥっと、腰を落とす。 フィルは同行者のその様子を一瞥し、顔をあげた。 「……さて、状況を説明してくれるか?」
遼来来>
誰から口を切るべきかと、一行が顔を見合わせた時。 ヒロが、ふたたび立ち上がった。 いや、そのままなんと宙に浮き、苦しそうに足をばたつかせる。 フリッツが、ヒロの襟首を掴んで、持ち上げていたのだ。 「……巫女に、会ったのか?」 例の、無感動な声で、フリッツ。 「なんだって?」 服で首が絞まり、苦しそうな声で、ヒロ。 「巫女に会ったのかと聞いている」 「巫女って、スズのことか? お、お前がさらったんだろうが」 「それは、いつだ」 「ふざけんなよ、たった今しがただろ」 「私自身か? それとも、私の仲間と思われるヤツの仕業か」 「はあ?」 「鈍いやつだ。まどろこしい、どうなんだ、フィル」 ヒロを宙にぶら下げたまま、フリッツは首をねじ曲げてフィルに問う。 「……こいつは、ずっとここに居たのか?」 フィルは、フリッツの問いには答えず、一行の方に聞いた。 「ずっとっていうか……ボクたちがこの礼拝堂に来た時には、もうこの神父さんといたよ」 と、小蒔。 「そのあと、スズちゃんの行方をお互いに聞きあってたの」 葵の言葉で、フィルは頷いた。 「聞きあっていた……か」 「なんだよ、どういうことだ?」 騒ぐヒロ。 「だから、少しは推理能力をつけろ。俺たちの会ったのは、ニセ者だ」
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