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真・Water Gate Cafe

唐栖は、冷酷にそう言うと、車の屋根からひょい、と飛び降りた。
「あ……どこへ行くの?」
「帰るんですよ。もう、ここに居る理由は、なにもありませんからね。
あなたも、早くお帰りなさい。そのタクシーを使えばいい。車くらい、運転できるんでしょう?」
「ま、待って」
 すたすたと立ち去ろうとする唐栖を、絵莉は引き止めた。
「どうして私を助けてくれたの? それに、どうしてわかったの?」
「この騒ぎのことは……、この鴉(こども)たちが、教えてくれたんです」
 唐栖は、右肩に留まっている鴉に、愛しげな視線を送った。
「そして、あなたを助けたのは……あなたが、雷人(あいつ)らの行動の、
役に立ちそうだから……ですか、ね」
「あの子たちの……? じゃあ、あなたも……!」
絵莉の顔が、ぱっと輝く。

が……、
「……残念ですが、僕があいつらの仲間になる、というのは――

期待するだけ、ムダというものですよ……」
唐栖の答えは、そっけなかった。

「あいつらは、相変わらず、人の優しさを信じる……なんてことを、言っているのでしょう? 
僕は……やはり、人は粛清されるべきだ、という考えを、捨ててはいませんからね」
「か、唐栖クン……」
絵莉は、すこし寂しそうに、目線を落とした。
「ただ、物には順番がある……とは、思い直しましたがね。
弱いものを、片端から殺してみたところで、何も変えられはしない――」
こんどは、唐栖も、視線を落とした。
「汚れた水を、綺麗にしようと思うなら――、

面倒でも、水を汚しているゴミから、順々に取り去るしかない。
そう、そこに転がっているような、愚かなゴミから……ね」
唐栖は、倒れている運転手を、指差した。
「そして、あいつらには、もっと大きな……特大の粗大ゴミを片付ける、
大仕事をしてもらわなければいけません。
ヤツもあいつらを、あいつらもヤツを狙うことになりますから、
これは残念ながら、僕の仕事じゃない」

絵莉は、はっと目を上げた。
「その……粗大ゴミって……? ヤツって……まさか……」
唐栖は、くすっと小さく笑いながら、
「残念ですが、それについては、ノーコメントです。
まあ、物事には、潮時というものがありますからね……。時がくれば、明らかになるでしょう」
そして、こんどこそ、もう帰るぞという意思を示すように、
黒いコートをマントのように翻して、ふもとへと歩き始めた。
「唐栖クン……あなたは、これから、どうするの?」
絵莉は、その背中に、声をかけた。
歩みは止めず、肩越しに振り向いて、唐栖は答えた。
「ヤツは、今回の火怒呂のように、小さなゴミを撒き散らかしています。
僕は、そのゴミどもを、この黒い翼で、掃き清めてまわりますよ。
闇の掃除人、Dark Sweeperとしてね……」

「Dark Sweeper……」
「まあ、自然界での鴉の本来の役割は、そういう掃除屋ですからね。
おかしくは、ないでしょう。では……」
立ち去る唐栖から、笛の音が流れ始めた。
どこか、寂しげな音色が。
同時に、絵莉の周りや、樹の上にいた鴉たちが、一斉に飛び立った。
雲のようにたくさんの鴉たちが、
おそらく街の方のねぐらをめざしてだろう、飛び去るのを、
絵莉は、なかば呆然として見上げていた。
そして、地上に視線を戻した時、唐栖の姿はもう、なかった。
鴉たちと共に、飛び去ってしまったかのように。

 
 
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あとがき

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