中央改札 悠久鉄道 悠久交響曲 第二章

究極のせ・ん・た・く★ 第一章

信(小説)←亜村有間(絵)

もし、あの会話があと一月だけ後だったら、こんなことにはなっていなかっただ
ろう。
もし、あの会話がさくら亭でされていたら、こんなことにはなっていなかっただ
ろう。
もし、
もし、
もし・・・あぁ〜、言い出したらきりがない!

<第一章:全ての始まり>
「で、好きなタイプは?」
その会話は、そんなひとことで始まった。いや、正確にはもう少し何か言ってい
たようだが、
こいつの会話は大抵がたわいの無い世間話だし、考え事があったので聞き流して
いた。
「おい、ティーム!聞いてるのか?」
さっきより幾分大きな声でそう問われ、俺はようやく視界に目の前の男、アレフ
を入れた。
そうそうティームとは俺、ティーム・マルアのことである。
「悪い悪い、ちょっと考え事をしててさ。で、何の話だっけ?」
「お前なぁ・・・だから、好きな女の子のタイプだよ!」
「あぁそうだったそうだった。」
「まったく。そうやってボーッとしてるから、女の子にももてねーんだぜ。ルッ
クスは
まずまずなのによ。」
「放っといてくれ。」
「いいや!放っとけないなぁ、大親友としては。」
返す言葉もなかった。一カ月前に知り合ったばかりのこの『大親友』アレフは、
ことあるごとに俺をナンパの頭数合わせに利用してくれる。彼にはクリスという
よく一緒にいる
友人がいるのだが、わけあって女性恐怖症のため必然的に俺のところにくるので
ある。
「じゃあ何か、それを言ったらお前が俺の理想通りの女の子でも紹介してくれる
のか?」
別段乗り気でもなかったが、相手の調子の良さにあきれて俺はそう言ってみた。
「おうよ!ま、エンフィールドにいる子でお前の理想にあいそうな子がいれば、
一回デートする
くらいなら取り持ってやれるぜ。」
「・・・お嬢様」
「は!?」
「お嬢様がいいって言ったんだ。」
「おいおい、えらいところをついてくるなぁ。」
(・・・タイプか・・・)
苦笑するアレフをしりめに、俺はある少女のことを思い出していた、が。
「こら、また遠い目をしやがって!」
アレフに髪を引っ張られて現実に引き戻された。
「何でタイプの女の子が、『お嬢様』なんだよ。」
「この街に来る前にさ、クムナックっていう街でのことなんだが、俺、木から降
りられなくて泣いてる
子供を助けたことがあったんだよ。」
「その子が、お嬢様だったのか?」
「子供だって言ってるだろ、第一その子は男の子だ!・・・でだなぁ、その子を
連れて木から降りてくると、
紺色の髪の女の子が俺に、『ありがとうございました。』って言ってきたんだ。
話を聞くとその子は孤児で、
彼女はその保護者代わりの、近くの女学校の生徒だったんだ。」
「で、その子にお前は一目惚れしたというわけか。」
「お前なぁ・・・まぁそういうわけだよ。その子とそれから少し話をしていたん
だが、思いやりがあって
料理なんかも上手で、とにかく、素敵な子だったんだ。」
「ふぅん。その子がお嬢様だったわけだ。でも、お前よく覚えてるなぁ、記憶喪
失のくせに。」
「記憶をなくした後のことだからな。」
「でも俺なら、旅の途中でそんな子に会ったら絶対その街に居続けるけどな
ぁ。」
「その子はそこの生まれじゃないって言うし、その時俺は記憶を取り戻そうとし
てエンフィールドに向かう
途中だったんだ。言っただろ、今はなくしちゃったけどこの街の地図を何故か俺
が持ってたって。」
「あぁ。そうそうところで、」
「その子の名前なら教えないぜ。お前ならそれだけを頼りに世界の果てまで追い
かけそうだ。彼女に迷惑がかかる。」
「お前、会って一月しか経たないのに容赦ないな。」
「だって、『大親友』なんだろ!?ところで、どうなんだよ!?どうせそんな子
いないんだろ?」
俺の問いにアレフは一瞬ひるんだが、すぐにまたいつもの笑顔に戻った。
「このアレフ様に任せとけって!お嬢様だな?」
「あ、あぁ。」
今考えれば、アレフのあの笑顔は明らかに、いたずらにひっかかる人を待つ子供
のそれだった。
そのことを見抜けなかったのは、やはり知り合ってから日が浅かったせいに他な
らないだろう。

中央改札 悠久鉄道 悠久交響曲 第二章