中央改札 悠久鉄道 悠久交響曲 第一章 第三章

究極のせ・ん・た・く★ 第二章

信(小説)←亜村有間(絵)

<第二章:お嬢様の現実!?>
「ねぇ、あんたがマリアのこと好きだっていうティームって子?」
「は!?」
突然そんなことを言われて戸惑う俺に、その少女は同じ質問を俺にした。いささ
か怒気を含ませて。
「だ・か・ら!あんたがマリアのことを好きだっていうティームって子かって聞
いてるの!」
どう見ても俺より年下のその少女に『子』呼ばわりされることもいささかひっか
かるものがあったが、
この際そんなことは小さな問題であった。
「ちょ、ちょっとストップ!俺は確かにティームだけど、マリア・・・って君だ
よね、君のことを
俺が好きとかどうとかって、誰がそんなことを言ってたの?」
「誰って・・・アレフが『親友のティームがベランダから外を眺めるマリアに一
目惚れした』っていうから、
忙しいのにわざわざこうしてデートしてあげるために来たんじゃない!」
俺はもちろんマリアとは初対面だったが、その時全然忙しくなかったことや結構
自信過剰なことなどは、
勘が特別鋭いわけでもない俺にもすぐにわかった。
「ぶ〜★こんなことなら家で昨日買った魔法書読んでた方がよっぽど良かっ
た!」
「ご、ごめん。」
と、そのマリアという少女はおもむろにウエストポーチから薄手の魔法書を取り
出した。
「カーマイン・スプレッドか。」
「え!?」
思わず出た俺の呟きに、頬をふくらませ不満一色だった彼女の表情が一転した。
「何であんたが高レベルの物理魔法のこと知ってんのよ!?」
「別に。ただこの間の仕事で同じものを目にしたことがあるだけだよ。」
という俺の説明は、彼女の言葉によって阻まれ、いや、抹消された。
「ひょっとしてあんた、実はものすごい魔法使いなの!?じゃあ、マリアに何か
とっときの魔法を一つ教えてよ!」
「いや、別に俺はそういうわけじゃ、」
「何よ〜!いいでしょ、別に減るもんじゃないんだから。」
「だから俺は・・・」
自分の素性すら忘れてしまった男が魔法なんて覚えているわけないのに・・・。
とりあえず、事実を述べても今の彼女を満足させられないのは火を見るより明ら
かだった。
「よし、じゃあ俺の得意な魔法を教えてあげるよ。」
「本当!?何、何の魔法なの!?」
俺はこの状況の突破口をみつけた。仕事に便利だからと覚えた魔法、あれならそ
んなに一般的じゃあないし、
何とかなるだろう。
「−我は天空を自由に舞い、駆ける見えざる翼を得る。風の精霊シルフィードの
加護のもと−シルフィード・ウイング!」
段々マリアが、エンフィールドの街が小さくなっていく。俺が唱えたシルフィー
ド・ウイングは、そう、飛翔の呪文だ。
「やっぱり風を感じるのは気持ちいいなぁ。・・・このまま逃げちゃおうかな
ぁ・・・やめとこ。」
下の方で大騒ぎしているマリアのもとへ下りていくと、彼女の翡翠のような両目
は生き生きと輝いていた。
「今の呪文、マリアに教えてくれるの!?」
「そ、その・・・魔法のじゅうたんか何かで飛んだ方が気持ちいいと思う
よ・・・って聞いてない・・・」
「どうやるんだっけ?印が複雑なのにティームったらさっさと切っちゃうんだか
ら覚えられなかったじゃない。」
「はいはい。じゃあよ〜く見てて。まず、ここで右手を左手の上にかざし
て・・・」
最初こそマイペースなこの少女に困惑していた俺だったが、熱心に俺に魔法を教
わる様子を見ていると、次第に
こういうのもいいなと思うようになった。
ちなみに、彼女が俺の『タイプ』の『お嬢様』であったことはこの時は全く知ら
なかった。

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