カチャカチャカチャカチャ・・・
「ふみゅ〜。シーラちゃん、メロディ、カップさんが持てません〜。」
・・・確かにこの大きな手では取っ手に指を通すことはおろか、両手で持つこと
も難しいだろう。
俺はメロディの手を見ながらそう思っていた。放っておくわけにもいかないだろ
う、俺は助け船を出した。・・・横にシーラもいることだし。
「ほらメロディ、俺が飲ませてあげるよ。貸してごらん。」
俺は自分の席をメロディのすぐ横につけカフェ・ラテを飲む手伝いをした。まぁ
メロディの世話は日常茶飯事だしな。
「・・・ふふふ、仲が良いのね。」
そんな俺達の様子を見て思わずシーラが笑った。が、驚いたような顔をして俺が
彼女を見ると、とたんに驚き、そして申し訳なさそうな表情で
俯いてしまった。
「べ、別に怒ったとかそういう訳じゃないからそんなに・・・いじめてない!」
彼女の表情の変化に戸惑う俺を見つめる冷たい視線(メロディ、何時の間にそん
なものを覚えたんだ・・・由羅か。)に気付き、俺は二人分の弁明をする。
「あら、何かしらあれ?」
そう言うシーラの目線を追うと、何か砂煙をあげながらこちらに近づいてくる物
体、いや、人影が見えた。
・・・何か俺、誰かわかったような気がする。
「お〜い、ティ〜ム〜★」
こんな星印をつけながら俺を呼ぶ人物といえば・・・
「はぁ、はぁ。やっと見つけた★」
・・・やっぱりマリアだ。
「どうしたんだマリア、そんなに慌てて?」
そう問い掛ける俺にマリアは答える代わりに一枚のチラシを差し出す。
「何々?ぷれぜんとでかれのはーとをがっちりきゃっち、両思い間違いなしのプ
レミアムアイテム多数放出!?」
ありきたりなキャッチコピーのチラシに俺は普通なら呆れるところだが、それを
マリアが、それもこんなに慌てて俺に見せに来たことに対する驚きの方が強かっ
た。
魔法にしか興味がないと思っていたがマリアもやっぱり女の・・・いや、待て。
「・・・これがどうしたんだ、マリア?」
「どうしたって・・・わかんないの!?人の心を動かすのよ、これはきっともの
すごいマジックアイテムを売っているに違いないわ!」
・・・やっぱり。
マリアは思い込んだら周りが見えない。例え自分の考えに筋が通っていなくて
も、論理が飛躍しても、自分がこうと思ったらどんなことでも彼女にとっては
ゆるぎない真実なのだ。移り気だけど。
会って間もない俺がここまで断言できるのだから、ある意味わかりやすい性格か
も知れない。わかりやす過ぎて困るような気もするが・・・
「どうしたのティーム君、さっきから頭をかかえて?」
心配して覗き込むシーラに、俺は精一杯の作り笑顔を見せた。
「いや、ちょっとね。」
そう言葉を濁すと、俺は頭の中でこれからどうなるかをシミュレートした。
マリアの誘い
↓
断る
↓
マリア怒る
↓
魔法暴発
↓
シーラに迷惑がかかる!・・・駄目だ、これだけは絶対に避けねば!!!
「その、せっかく誘ってもらったのにごめん、俺、マリアと一緒に行った方が良
さそうだから。この埋め合わせは今度必ず!」
当然のことながらシーラは全く事情が飲み込めていないという表情だがそれを気
にしている余裕はない!危機が迫っているのだ!
早く行こうとマリアが騒ぎ出す前にここを離れた方がいい。そう俺の何という
か、本能のようなものが判断したのだろう。
思わず出た言葉をそう自分で分析しながら、『ものすごい魔法使い』は『優秀な
弟子★』に言った。
「君の気持ちは分かった。では早速調査に行こう。」
「さっすがティーム♪」
マリアを先に行かせ門のところで振り返ると、何かいいたげな少女と、自分と彼
女を見つめる少女に俺は言った。
「今日は楽しかった。ありがとう、シーラ、メロディ。」
「ふみ、ティームちゃんまたね〜。」
「じゃ、じゃあ、また。」
無邪気にパタパタと振られる手と、慣れていないのが明らかに分かる精一杯の笑
顔に見送られながら、俺はティータイムの会場を後にした。
ちゃんと埋め合わせをしないとなぁ・・・・・ん?
その時俺は気付いた。
これって、不確かながらもデートの約束を取り付けたってことじゃないか!!!
・・・あなどりがたし、俺。