中央改札 悠久鉄道 悠久交響曲 第三章 第五章

究極のせ・ん・た・く★ 第四章

信(小説)←亜村有間(絵)

<第四章:もう一人のお嬢様>
「あ、えっと、これで全部かな?」
なかなか彼女が顔を上げない原因が、自分がずっと見つめていたからだと気付い
た俺は、照れ隠しに慌てて持っていた楽譜を渡した。
「えぇっと・・・」
手渡すときに少し手が当たった。それだけのことなのに楽譜を受け取る彼女の手
は震えていた。そこまでされると、なんかこっちまで緊張するなぁ。
「あれ、No.25の楽譜がないわ!」
というシーラの声。間発入れずに
「ねぇねぇシーラちゃん、ティームちゃん、あのがくふさん、たのしそうにおそ
らをおよいでいるよ〜。」
さっきまでシーラと一緒に慌てて楽譜を追っていたことなど忘れてメロディーが
さも面白そうに言った。
「シルフィード・ウイング!」
何か言いかけたシーラの言葉を遮って、今日三度目の俺の呪文の詠唱が完了し
た。
残りの一枚の楽譜を手にし、今度こそどこにも風に舞う楽譜がないことを確認す
ると俺は地に足を付けた。
「はい、今度こそこれで全部かな?」
「え、ええ。あの、ありがとう。」
ぎこちないながらも必死に笑みを浮かべて、シーラはそう言ってくれた。クムナ
ックで俺が出会った少女とは少し違った、けれど素敵なお嬢様がここにいた。
「あの、そんなに俺ってこわいのかなぁ。」
「え!?」
「いやぁ、クリスから、あぁ、正確にはアレフってことになるのか、まぁ恥ずか
しがり屋だとは聞いていたんだけど、ここまでされると。」
「ご、ごめんなさい。私、お父さま以外の男の人とお話する機会なんてあまりな
いから。」
「ふみ〜、ティームちゃん、シーラちゃんをいじめちゃだめなの〜!」
完全に誤解したメロディーのこのセリフで、俺とシーラは初めて一緒に笑うこと
が出来た。
何やら楽しそうだと思ったのだろう、メロディーまでが一緒になって笑ってい
る。
「そう言えばさっき『あなたが』って言ったけど、俺のことを知ってるの?」
「えぇ。アリサおばさまは街の人みんなが知り合いだから。」
彼女の笑顔を見ていて、ふと俺の中によぎった一つの感情。
アレフには渡さない!!!
この時、俺は初めてあの時のあいつの表情の変化の意味を知った。
シーラの顔が頭に浮かんで一瞬たじろいだが、この街のトラブルメーカー、マリ
アもお嬢様である事を思い出し、
逃げ道として、また、興味も手伝って俺に紹介したのだという事を。そうか、
『俺がマリアのことを好き』っていうのは、そういう意味だったのか!
「どうかしたの?」
シーラの問いかけに、俺は自分が考え込むあまり周りが見えなくなっていた事に
気づいた。
「い、いや別に。それより、自己紹介がまだだったね。」
そういうと俺は片膝を突き片腕を胸の前に持ってきて仰々しいポーズを取ってみ
せた。
薄手の上着が風になびいてマントのようだ。う〜ん、感じが出るなぁ。
「あ、あの・・・」
「お初にお目にかかります、私、ティーム・マルアと申します。以後お見知りお
きを・・・って、これじゃアレフか。」
「え!?ふふふ、本当、アレフ君みたい。」
「うみゃ〜、ティームちゃん、アレフちゃんのまねしてるのだ〜!」
メロディと仲がいいんだなぁ。彼女の笑顔を見ながら俺はそう思った。
クムナックで子供の世話をした時こういうおとなしいタイプの子が何人かいた
が、始めの頃は全然笑ってくれなかった。
それはその子達が人見知りするせいであった。(これは俺が何度も話題に出す少
女に教えてもらったことなのだが。)
だからこういう子の笑顔を何度も見るというのは本当に希なのだ。特に俺のよう
に初対面だと。
「ふみ?ティームちゃん、ず〜っとシーラちゃんのかおばっかりみてるよ。」
シーラの服の裾を引っ張りながらそう言うメロディ、また顔が赤くなるシーラ。
がしかし、一番恥ずかしかったのは俺だろう。顔が熱くなって自分でも赤くなっ
ているのがわかった。
「あ、ご、ごめん。その、あの、いや〜、何て言うか、そう、別に変な気は全然
なくて、あれ、何言ってるんだ俺?」
「あの、そんなに赤くならなくても大丈夫だから・・・」
「でもシーラちゃんもまっかなのだ〜!」
その言葉に俺とシーラは顔を見合わせまた笑った。今回は今までと違い、照れ笑
いだったが。
俺はまた彼女に見とれそうになったが、慌てて横を向いた。今日は・・・何だか
良い日だぞ!
「あの・・・」
「は、はひ!?わらひになにかごようれありまほうか!?」
思わず顔が緩みそうになったところへ突然声をかけられたものだから、こんな我
ながら訳の分からないことを
上ずって高くなった声で言ってしまった。
「え!?な、何それ!?うふ、ふふふふ。」
照れもあってか、俺まで顔が赤くなったのが自分でも分かった。
そんな俺達を、メロディが不思議そうな顔で交互に見ていた。
「ねぇねぇティームちゃん、メロディ、これからシーラちゃんのおうちに『かへ
らて』のみにいくの〜。
ティームちゃんもいこうよ〜。」
「か・へ・ら・て?あぁ、カフェ・ラテか。でも・・・」
「あ、あの楽譜を集めてくれたお礼に、一緒にどうかしら?」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて。」
「うみゃ〜、ティームちゃんもいっしょに、か・へ・ら・て、だぁ〜!!」
この時俺にはメロディの笑顔が天使のそれに見えたのは言うまでもない。
・・・後でアレフに事細かに報告して、お礼言っておこう〜っと。

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