中央改札 悠久鉄道 交響曲

「NO-5〜決勝戦、そして…〜」 とも  (MAIL)
NO-5〜決勝戦、そして…〜

 「さあ、いよいよ最後の試合、決勝戦となりました。ここで選手
のご紹介をいたします。まずは東側。旅の魔術師、このエンフィー
ルドでは使われていない形式の魔法を使うイビル選手です!」
 おおおおぉぉぉぉーー!
 観衆の声援が響くが、イビルはおもしろくない顔つきで西側…紅
蓮を睨み続けている。
 「そして西側。さくら亭の名物ウェイター、しかし優勝候補を次
々とやぶっているので結構強かったのか?!紅蓮選手です!」
 わあああぁぁぁーー!
 「紅蓮!やっちまえ〜〜!」
 「紅蓮〜!めったくそにのしたれや!うちが許す!いてもうたれ
〜〜!」
 「ア、アルザさん、お、落ち着いて…」
 アレフもアルザも興奮している。特にアルザは血が騒ぐのか、体
を乗り出し、腕をブンまわして叫んでいる。このままでは乱入しか
ねないので、ティナは必死にアルザを抑えていた。
 「それでは…決勝戦、始め!」
 ゆっくりと対峙する紅蓮とイビル。二人の手に得物はない。次の
瞬間、イビルが魔法を放つ。
 「死ね…」
 『ヴァニシング・レイ!』
 キュォォォォ…!
 白い閃光が全て紅蓮を狙って追って来る。が、紅蓮は動じるどこ
ろかそのままじっと立ち続ける。
 ドドォォ…!
 そのまま紅蓮に当たり、大爆発を起こす。
 「ふん、他愛もな…!」
 紅蓮を見てイビルは驚愕した。多少の傷は負っているものの、無
事だったのだ。気付けば、紅蓮の両手には対アルベルト戦の時と同
じようなものがついている。
 「ばっ…馬鹿な!たかがそんなものごときで我が魔法が…?!」
 「俺の一番の得物…いや、相棒といったとこかな。エネジー・ア
ローの具現化、『双破甲』…。」
 エネジー・アロー…紅蓮達の最初に覚えた攻撃魔法…。ルーン・
バレットと同様だ。最弱と言われればそれまでだが、紅蓮からすれ
ば魔法と言えども最初から世話になってきた相棒なのだ。むろん、
魔法構造を知り尽くしているがため、一度に両方の手に出せるので
ある。これを使った時、それは…
 「エ、エネジー・アローだと?!認めん、認めんぞぉ!」
 「…ようは使いようさ…魔法攻撃力が最弱でも、一番よく知るも
のを具現化するのが一番使い易くていいってコトだ。威力も使い慣
れていない魔法の具現化の比じゃない。」
 パニックになるイビルを見ながら淡々と語る紅蓮。イビルはそれ
を聞きながら次第に平静を取り戻していく。
 「くっくっく…。なるほどな…。通りでヤツ…ガーベルを始末で
きたわけだ。」
 「ガーベル?ああ、あのマッドサイエンティストね…。コトもあ
ろうに俺の仲間を誘拐、実験材料にしよーとしてた馬鹿魔族か。俺
は仲間に害を成すヤツが嫌いでね、速攻でツブさせてもらった。同
じ魔族のカイルとはえらい違いだぜ。」
 「あいつか…。ふん、前まではそのプライドの高さを買っていた
が…。何を血迷ったか人間などという下等生物と相いれおって…。
やはり下級魔族よ。」
 とイビルは吐き捨てるように言う。そして、紅蓮に背を向けると
サッと詠唱をする。
 「先ほどは駄目だったが…今度はどうかな?」
 『ダーク・バインド!』
 デュークと同様、紅蓮も不意をつかれたため闇の呪縛の餌食となっ
てしまう。
 「くっくっく。どうだ?悔しいか?悔しいだろう。ふははは!」
 闇の手によって身動きのとれない紅蓮の顔をのぞき込みながらあ
ざけるように笑うイビル。
 「先ほどのデュークとか言うヤツとは違い、手加減はせん。あの
世で、我の強さを存分に語るがいい!」
 今まで黙りをしていた紅蓮は急に口を開いた。
 「やなこった。ま〜だまだやりてぇコトはたくさんあるんだ。こ
んなとこで死んでたまるかよ。」
 「ふん、口だけだな。消し炭になるがいい!」
 『真紅に染まりし紅蓮の炎よ
  我が意のままに全てを焼き付くせ
  クリムゾン・ナパーム!』
 直後、デュークの時とは比べものにならないほどの火球が現れる。
 ゴオオオォォォオオォ!
 「紅蓮!」
 「…!」
 アレフが叫び、ティナは声にならない悲鳴を上げた。
 「刃よ!」
 その時、紅蓮の声が響き、闇が全て斬り裂かれた。
 「ワンパターンだぜ!もっと…手を考えな!」
 闇がチリと化し、叫ぶ紅蓮の周りを緩やかに漂う。そして、紅蓮
は何を思ったのか火球へ向かって跳躍した。
 「おおおぉぉぉ!」
 気合いと共に腕をクロスするように振り下ろす。紅蓮の眼前にあっ
た火球はそのまま腕の軌跡と同様に斬り裂かれ、ちりぢりになって
消えていった。
 「さて、と…。さあ、仕置きの時間だ。」
 紅蓮は刃の出たままの双破甲をイビルにかざす。
 「俺の本気一歩手前を生で感じ取れたんだ、悔いはねぇだろう。」
 そう、紅蓮はこの双破甲を使うのが本気の一歩手前の証拠だった
のだ。今までに使ったときは今回を入れてわずか数回のみ……。
 「くっ…。」
 逃げの体制に入り、イビルはすかさず詠唱を始めようとする。
 「あまい!」
 ゲシィ!
 が、紅蓮のチョップによって詠唱を中断されてしまう。

 「あ〜!あれ、ボクの専売特許なのに…。」
 「ト、トリーシャちゃん。せ、専売特許って?」
 ふくれるトリーシャの言葉に、汗を垂らすティナだった。

 「さて、おとなしくしてろよ。」
 そういうと、紅蓮はイビルが逃げないように服の裾を踏みつける
と詠唱に入る。
 『右に集うは魔力をうち消す負の力
  左に集うも等しき力
  我が身通じて一つとなれ
  デストラクト・マジック!』
 紅蓮の手で輝く光球が、イビルの体の中に入っていく。そして…
 「?…ふん、失敗のようだな。」
 イビルは何の影響も無いようだ。紅蓮はそれを見ると、とんでも
ないことを言い出した。
 「おい、俺にヴァニシング・レイでもぶっ放してみ。」
 「………後悔するなよ。」
 言ってイビルは詠唱に入り…
 『ヴァニシング・レイ!』
 魔法を放つ。
 ひょろひょろ〜〜〜…ぽすっ
 放ったのはいいが、出たのはちゃちい光の玉。ふわふわ浮かぶよ
うに紅蓮の元へ飛んでいく。体に当たってもぽすっと情けない音を
出すだけだった。
 「こ、こんなことがあっていいのかぁ〜〜〜!」
 イビルは今起こっていることが信じられず、地面に突っ伏してい
る。
 「後悔したのはそっちの方だったようだな。」
 勝ち誇った笑みを浮かべる紅蓮。イビルは怒気を含んだ目で紅蓮
をにらみながらスクッと立ち上がった。
 「…我が力…あなどるなぁ!」
 言ってイビルは、両手を高く掲げる。
 「?なんだ?変なモンでも呼ぶんか?」
 「ふん…我と共に在りし力よ!我が元にいでよ!」
 イビルの言葉の直後、雷鳴と共にイビルの両手には漆黒の刃を持
つ曲刀が現れた。
 「あれ?魔力の大部分消し去ったはずなのに…。しつこいなぁ…。
まるでゲームのラスボスみてぇだな…。」
 「わけのわからんコトを…。この曲刀は、常に我とあるもの…。
たとえ魔力が消されようが、封じられようが我が意一つで我が元に
舞い戻る!」
 そして、イビルは曲刀を掲げる。
 「曲刀に在りし魔力よ…汝、我が身に宿りて力となれ!」
 途端に曲刀が禍々しく光り出し、イビルに魔力を供給し始めた。
 「くっくっく…。この曲刀がある限り、我が魔力は何度でも蘇る!」
 イビルは薄気味悪い笑みを浮かべると、詠唱を始め…
 『汝、力を統べし者
  我が身に宿りて力となれ!
  エーテル・マキシマム!』
 四つの属性の輝きがイビルに宿った。
 「へぇ…。ふふ…くっ…あははは…。」
 イビルの行動の一部始終を見ていた紅蓮は、いきなり笑い出す。
 「ふん、気でもふれたか?」
 「べっつに。楽しいんだよ。一筋縄じゃいかないってとこがね。」
 なおも笑い続ける紅蓮。イビルは、それを半ばあきれたように見
つめている。
 「な、イビル。おまえ「この曲刀がある限り」っつったよな。」
 「それがどうした…。まさか、我が曲刀を破壊するとでもほざく
のか?!なめるな!人間風情が!!…貴様の仲間、すべて殺してく
れようか?!」
 怒り始めるイビル。が…
 「…そうか。なら、恐怖ってヤツを少しばかり教えてろうか…?」
 『右に集うは猛き炎 左に集うは大いなる風…』
 「させるか!」
 詠唱を続ける紅蓮に、イビルが斬りかかる。
 フォン!
 『フレイム・ウィンド!』
 一瞬早く紅蓮が魔法を解き放ち、風のようにあっさりとそれをよける。
 パキィィィン!
 直後、一足飛びにイビルに近づいた紅蓮は、苦もなくその二本の
曲刀を砕いた。
 「ひ…!」
 イビルは、すれ違いに合った紅蓮の眼に小さな悲鳴を上げる。仲
間をやられた怒気を宿した、紅蓮の鋭い眼光に恐怖したのだ。
 「…これくらいの眼光に圧倒か。言うほどおまえは強くはねぇみ
てぇだな…。カイルなら、この程度じゃ怯まず闘い挑んでくっぜ?」
 「くっ…。ばかな…。我が曲刀が…?」
 イビルの言葉に、紅蓮はため息をつく。
 「馬鹿か?物なんて永遠じゃねぇんだ。いつかはぶっ壊れる時が
くんだろ。」
 たいして興味もなさそうに言い放つ紅蓮。その横で…
 「…………」
 ぶつぶつと詠唱をするイビル。
 「さらばだ、紅蓮!」
 「じゃぁかしいわ!」
 ゲシィ!…ぱたっ
 「逃げんぢゃねぇ!氷づけの上、ローズレイクのど真ん中に浮か
べられてぇのか、おのれは!」
 「……」
 怒鳴る紅蓮。しかし、イビルは聞いちゃいなかった。魔法を解き
放とうとしたときに紅蓮に食らったチョップが、見事に急所に決まっ
てたのだから。
 「イビル選手気絶により、試合続行不可とみなします。よって、
紅蓮選手の優勝です!」
 わあぁぁぁぁぁぁ!
 「おっしゃぁ!」
 「ようやったで!」
 「よかった…。」
 いろんな歓声が続く。その中、紅蓮は…
 「お〜い。いーかげんにおーきーろー。お〜い。」
 ぺしぺしぺし
 「ん…?」
 「おう、起きたか。」
 イビルのことを起こしていた。
 「今さらなんだ…?」
 うっとうしそうに答えるイビル。
 「ああ、やり残したこと♪」
 紅蓮はなぜか満面の笑みを浮かべると、イビルが答えた途端に詠
唱を始める。
 『右に集うは金色の旋風…』
 それを聞き、急にイビルの顔が青ざめた。
 「や、やめ…」
 「却下♪…ヴォーテックス!」
 紅蓮はイビルの言葉を強制的に中断し、魔法を放つ。
 ゴオオオォォォォ!
 明らかに「いつもよりよけいに魔力を込めました」といっている
ような、巨大な旋風…いや、竜巻がイビルを巻き込み、
 「のあああぁぁぁ〜〜〜!」
 気持ちいいぐらいに勢いよく吹っ飛ばしたのだった。合掌…
 その直後、紅蓮は優勝賞金その他を辞退。引き止めようとする自
警団員から事も無げに逃げ出し、一時その姿をくらましたのだった。

 そして、数日後。昼のラッシュが過ぎたさくら亭…
 「ふん!やっぱり、こんなとこで働いてるヤツなんて誘うんじゃ
なかったわ!」
 「んだと…!」
 睨みあう紅蓮と公安維持局員のパメラ。一触即発の雰囲気の中、
いきなりパティが割り込んできた。
 「ちょっと!うちの店が「こんなとこ」ですって!?うちにイチャ
モンなんてつけないでよ!そんなにいやなら、たまったツケさっさ
と払ってから言ってちょうだい!」
 「…!こんなとこ、もう頼まれたってくるもんですか!」
 ばん!
 パメラは、怒りのこもった眼で睨みながら金をカウンターにたた
きつける。
 「ただでやる気のないあんたらより、お金かかってもやる気のあ
るジョートショップや自警団の方が何十倍もマシよ!」
 「…邪魔したわね!」
 カララン!
 そして、荒々しくドアを開け放ってパメラは去っていった。
 カララン♪
 入れ違いに、リカルドとアルベルトが入ってきた。すれ違いの時
にでもパメラに睨まれたのか、外を見ながら…。
 「失礼するよ。ん?ちょうどいい。紅蓮くん、少し話があるんだ
が…」
 「ごめん、俺、自警団に入る気はないですゥら。」
 話も聞かず、いきなり即答する紅蓮。リカルドは驚きながらも紅
蓮に聞き返す。
 「なぜ私の言おうとしたことが?」
 「朝っぱらからいろんなとこから勧誘が来ててね。魔術師ギルド、
エンフィールド学園、公安と来たら後は自警団しかないから。トラ
ヴィスは朝飯食いに来たけど全然関係ないって言ってたから別だけ
どね…。」
 力無く言う紅蓮。本当に疲れているようだ。
 「そうか。なら、もうなにも言わないことにしよう。」
 「なあ、紅蓮。疲れてるとこ悪いけどな…」
 「わかってる。約束だし、今出すから。」
 ちょっとすまなそうなアルベルトの言葉を制し、詠唱を始める。
 『右に集うは一条の紅き閃光
 我が意に準じし姿とならん…』
 紅蓮の右手には、光と共に現れた一本の槍が握られていた。それ
は、アルベルトが見間違えるぐらいにアルベルト愛用の槍と似かよっ
ていた。
 「ほれ。んで、これ敵に突きつけてブレイクっつってみ。カーマ
イン・スプレッド出っから。威力は俺の魔力に相当してる。扱いにゃ
十分気ィ付けろよ。」
 ひょいっと槍を投げる紅蓮。アルベルトはそれを受け取り、しっ
くりくることに驚きながらも礼を言った。
 「ありがとな。大事に使わせてもらうぜ。」
 「ああ。けど、そいつはよほどとんでもないことがおきない限り
壊れることはねぇからな。手加減せずにぶんまわせ。」
 「サンキュな、紅蓮。」
 「あ、ちょい待った。」
 と、紅蓮は思い出したようにまた詠唱をし…
 「これ、フィドルに渡しといてくれ。昨日、あいつの剣ぶっ壊し
まった詫びだ。使い方はアルベルトの槍と同じだからさ、教えとい
てくれ。」
 と一振りの剣をアルベルトに預ける。
 「分かった。フィドルに渡しとく。」
 アルベルトはしっかりとそれを持ち、うなづいた。そして、リカ
ルドも紅蓮に礼を言うと、二人は自警団の仕事へ戻っていった。

 ちょっと後日談…
 ・イビルはその後、ある一軒家に墜落した。間の悪いことに、そ
この住人と客の二人の魔族の男女と二人の人間の少女の四人にはち
合わせし、ギタギタに打ちのめされた上、その街の自警団に突き出
されたという。そして、イビルはその後一切、エンフィールド近辺
には寄りつきすらしなくなった。
 ・フィドルは元々だが、アルベルトは紅蓮から具現化による槍を
正式に譲り受けた。紅蓮曰く「多少なりとも強化は必要だ。」だそ
うだ。それともう一つ、デュークには「魔法も得意だから、そんな
に魔法は関係ないけど。」と、やはりデュークの愛剣と似かよった
具現化による剣をデュークに譲った。一方だけに譲ることはフェア
じゃないと思ってのことだろう。が、なぜ紅蓮が具現化の武器を譲
ったかは分からなかった。


 後書き

 ども。ともです。三作目、やっと完結です。これを書いている時
期にテストが重なり、あげく愛機の故障という始末…。とにかくい
ろんなことが重なって大変でした。
 さて。前に出した問題。「イビルの言っていた『ヤツ』と『あい
つ』は?」というものでしたが…。「ヤツ=ガーベル」「あいつ=
カイル」でした。どうでしょう?分かりましたか?
 さて。今回も名前伏せたキャラが四人出てきましたね。ま、どっ
ちにしろ二人は後で出てきますが。(^^;
暇な人は考えてみてください。エタメロが分かる人にとってはすっ
ごく分かりやすい組み合わせだと思います。一部、ちょっとネタば
れになりますが…。
(今となってはネタばれも何もないと思いますけどね。(^^))

それでは、また。ともでした。
中央改札 悠久鉄道 交響曲