中央改札 悠久鉄道 交響曲

「勘違い NO-1〜発端〜」 とも  (MAIL)
勘違い NO-1〜発端〜


 日の当たる丘公園に紅蓮と朋樹が紙袋を抱えてやってきた。二人は
ちょうど木の影になっているベンチを見つけ、そこへ歩いていく。
 「これ欲しかったんだ。ありがとね、紅蓮。」
 と、朋樹は買ったばかりのバンダナを頭にまく。さっき、洋品店ロ
ーレライで買ったものだ。隣りに座っている紅蓮はそこで買った服か
何かが入っているのだろう、紙袋を膝の上にのせてベンチに腰を下ろ
している。
 「ま、たいして高くねェしな。ともに借りてた金に利子付けて返し
たと思えばいいさ。」
 今は平日の昼時を過ぎた時間帯。今日、さくら亭は夕方頃からの開
店なのだ。答は簡単、パティの父親が昨日の夜から風邪で倒れていた
のだ。まあ、今朝には元気になったものの、せめて営業は夕方からに
しよう、ということになった。しかし、ここで一つ疑問がある。平日
の、しかも授業が終わってもいない時間帯にもかかわらず朋樹がいる
のだ。
 「でもよぉ…。午後の授業、ホントにサボッちまっていいのか?テ
ストで悪ぃ点取っても知らねぇぞ、俺は。」
 実は…朋樹はある特定の授業に限り、脱走の常習犯…いわゆる抜け
だしのプロ(プロもへったくれも無いのだが)であり、級友に一目置
かれているのだ。先日は、級友の授業の自主早退を手引きしたことも
ある。朋樹自身の脱走はバレているが、級友の方は未だバレてはいな
い。しかもサボっているにもかかわらず、テストではしっかりと点は
取っていたりするため、気付いた教師もそのことに対して言うに言え
ないのだ。
 「大丈夫だって、心配性だなぁ。ね、そろそろさくら亭に行かなく
ていいの?」
 朋樹の言葉に、紅蓮は日の傾き具合を確認する。
 「まだ時間あるぜ。夜鳴鳥雑貨店にでも行こうか?」
 「いいね、また紅蓮のおごりでさ。」
 ペシッ
 その言葉に、無言で返事を返す紅蓮。
 「って〜。なにすんだよぉ?!」
 「「って〜」じゃない!バイトの給料入ったんだから自分で買えよ。」
 「あのさぁ…なんで知ってんの?」
 「さくら亭のバイトの金、昨日俺が渡したんだろーが!」
 頭をさすりながら言う朋樹に、紅蓮はあきれたように怒鳴りつける。
 「あ、そうだったね。ね、とりあえず、もう行こうよ。時間無くな
るよ?」
 「んだな。じゃ、さっさと行こうか。」
 と二人は一路、夜鳴鳥雑貨店へと向かっていった。その二人の後を
つけつつ、行動の一つ一つに目を光らせていた人物がいたことを知ら
ずに…

 二人が日の当たる丘公園の南口を出たとき、周りをキョロキョロと
見回していた二人の少女に声をかけられた。ここらでは見たことのな
い顔である。
 「あの、すいません。」
 「なんですか?」
 「ちょっと道をお尋ねしたいのですが…。この辺に夜鳴鳥雑貨店と
言うお店がある、とうかがったのですがご存じありませんか?」
 片方の、金髪の少女は深々と頭を下げながら丁寧な物腰で道を尋ね
る。そして、もう一人の方はと言うと…
 「ちょっと、メア。あんたってなんでいつもそう丁寧に言うわけ?」
 と、頭の上にちょこんと出た耳をピクピクさせながら、メアと呼ん
だ少女の顔をのぞき込む。見たところライシアン族のようだ。
 「由紀…あたしはこの方達に尋ね事してるのよ?お願いだから口は
さまないで。」
 メアも、負けずに由紀と呼んだ少女をにらみ返す。
 「あの〜。」
 「はい?あ…。す、すいません!こっちから話しかけておいて…!」
 「いや、そうじゃなくって…。僕たち、これからその雑貨店に行く
んです。よかったら一緒に行きませんか?」
 真っ赤な顔をしながら頭を下げるメアに、朋樹は笑いながら言う。
 「ありがとうございます。」
 「よかったわね、メア。これでシーラと合流できるわよ。」
 「「シ、シーラぁ?!」」
 由紀の言葉に驚く紅蓮と朋樹。しかし、もっと驚いたのはメアと由
紀である。初対面の男二人がいきなり大きな声を出したのだ、驚かな
い方が変である。
 「な、なによぉ。ビックリさせないでちょうだい。なに?あんたら
シーラの知り合い?」
 「知り合いってうか、友達なんだけどな。なんだ、シーラが帰って
来てんのか?」
 由紀に詰め寄る紅蓮。その反応を見た由紀はニヤリと笑うと紅蓮の
鼻先に指を突きつけ、
 「さてはあんたね?!シーラの恋人って!」
 と自信たっぷりに言う。
 「はあ?」
 あきれてポカンとしていた紅蓮だが、肩をすくめると疲れたように
話を始める。
 「俺じゃねぇよ。お前ら、もしかしてあいつ探してウロウロしてた
んか?」
 「あいつって…知ってんの?ね、どんなヤツなの?年齢は?背格好
は?」
 ちょっと言った途端、好奇心に目を輝かせながら質問を始める由紀。
まるでどこぞの誰かさんみたいである。それを見ていたメアは…
 「ちょっと、由紀ってば…。あなたって、なんでそういう風に知り
たがるの?それに初対面の人に向かっていきなり質問はないでしょう?
すいません、根はいいんですがこういう性格でして…。」
 と由紀を叱りつつ、紅蓮らに謝る。しかし、由紀は全然悪いと思っ
てはいないようだ。 「ちぇ〜。お堅いんだから…。ま、いいわ。こ
れで確信できたから。シーラになんとしてでも教えてもらわなきゃ♪」
 と、気にする様子すら見えない。
 「(ねぇ、紅蓮…。このライシアンの娘ってさ…。)」
 「(ん?ともも思ったか?由羅にそっくりだな…。)」
 そして二人はいろいろと話しながら、メアと由紀を夜鳴鳥雑貨店へ
と案内していった。数分後…四人が雑貨店に入ると、物陰から女の子
が出てくる。その娘はポケットから取り出した手帳になにやらメモを
取ると、どこかへ一目散に走っていってしまった。

 カランカラン…
 「イラッシャイ!イラッシャイ!」
 「きゃ!」
 「なに?なんなのぉ?!」
 オウムに驚く二人。紅蓮らは久しぶりに驚いた人間に対し、笑いを
隠せないでいる。最初は自分も同じだったのも忘れて…。
 「あ、よかった〜。シーラ!遅れてゴメンね〜!」
 そして、奥から顔を出したシーラを見つける由紀。やはり、なんと
なくほっとした表情になる。
 「ごめんなさいね、シーラ。由紀が地図無くしちゃって…。そうそ
う。あなたのご友人に道を教えてもらったの。」
 と、メアは紅蓮らを指さす。そして店の奥では、シーラが驚いた目
で紅蓮と朋樹を見ていた。
 「ぐ、紅蓮さん!?朋樹くんまで…。」
 「ふうん…。友達ってのは本当みたいね。」
 シーラの反応を見た由紀は、一応紅蓮らの言ったことに納得する。
そしてシーラに詰め寄ると、紅蓮にやったように指と突きつけると、
 「さ、シーラ!白状してもらうわよ!」
 と言い出す。
 「ええ?!な、なんのこと?由紀さん…。」
 「とぼけても駄目よ!ちゃ〜んとそこの紅蓮ってヤツから聞いてる
んだから。」
 何とかごまかそうとするシーラ。だが、由紀はビッと紅蓮と指さし
ながらもさらに続ける。
 「ふった男は三十人以上、中には学校でトップクラスの美男子もい
たって言うのにキッパリと断っているのよ!よほどのいい男なんでしょ
うね?!あたし達にも紹介しなさいって。親友じゃないの、あたし達は。」
 もはやシーラはぐうの音も出ない。シーラは恨めしそうに紅蓮を睨
むと、ため息をついて由紀に向き直る。
 「…分かったわ。後で、ちゃんと家で教えてあげる。でも、今会わ
せることはできないの…。」
 シーラの言葉が少し止まる。朋樹はそれを察したのか、続きを話し
始めた。
 「ちょっと旅に出てていないんだ。だから、会うのは絶対的に無理
だよ。でも、シーラ。なんで顔出さないの?みんな喜ぶよ?」
 その言葉に、シーラは表情を曇らせる。
 「なに?お目当ての彼がいないから?」
 「由紀!チャチャ入れないの!」
 由紀のからかいの言葉に、メアが檄を飛ばす。シーラはそれを見て
笑みを浮かべると、首をゆっくりと横にふる。
 「違うの。約束が…ね。私、プロのピアニストになって帰ってくるっ
て言ったから…。本当は会いたいけど…、今みんなにあったら…。ロ
ーレンシュタインに戻れなくなっちゃうかもしれないの…。だから…
今は…。」
 ポツリ、ポツリと話すシーラ。その口調からは、今にでも親しい友
人達に会いたいという気持ちがなんとなく分かる。しかし、それによっ
て居心地のいい場所にとどまってしまい、つらいピアニストへの道か
ら逃げ出してしまいそうだ、という気持ちも伝わってくる。
 「シーラ。あんた、いつの間にそんなに意気地無しになったのよ?」
 由紀が急に真剣な顔つきになったかと思うと、シーラに指を突きつ
ける。
 「「戻れなくなっちゃうかもしれない」?そんなの、あたし達だっ
て同じよ。辛くても、自分の夢かなえたくて勉強してるんじゃない?
大丈夫よ。たとえ、あんたが戻りたくないって駄々こねようがなんだ
ろうが、連れ帰っちゃうから。どんな手を使っても、ね。」
 シーラに向かってウィンクする由紀。
 「ふ〜ん。シーラ、向こうでもいい友達いるんじゃねぇか。ここま
で考えてくれるヤツなんてそうはいないぜ。」
 「ありがと♪あんたともいい友達になれそうね♪」
 「友達ならかまわねぇぜ。こっちはいるんでな。」
 由紀に言われ、反論するように言い返しながら小指をたてる紅蓮。
 「そうなの?う〜ん、惜しかったなぁ…。」
 「そんなこと言ってもぐらつきもしないよ、紅蓮は。ティナ命だから」
 いらないこと言う朋樹。案の定、紅蓮からきついお仕置きを喰らっ
ている。
 「い、痛いってば!」
 「あっさりと言うなよ。お前こそトリーシャとディアーナ、本命は
どっちなんだよ?いい加減、決めちまえって。」
 「へぇ、そこのメガネくんも好きな娘いるんだ?よかったらあたし
に相談してみない?いい解決方法教えたげるわよ?」
 紅蓮と由紀の言葉に、朋樹はむくれながら言い返す。
 「…いいの!僕は僕なりに考えてやってるんだから。それより紅蓮
だってあれから全然進展してないじゃないか。人のコト言えないじゃない。」
 「ふふふっ。由紀ったら…。紅蓮さんや朋樹くんも相変わらずね…。」
 三人の口論を見ていたシーラが不意に笑い出す。その反応に一瞬言
葉を忘れる三人。
 「…あほくさ。なんか馬鹿らしくなっちゃったわ。」
 「同感。なんか俺達ピエロみたいだな。」
 「十分ピエロだったと思うけど?」
 直後、三人は言い争う気も失せ、ドッと疲れたような顔をする。
 「でも、シーラってば、ここに来てもほとんど笑わなかったじゃない?」
 「そうなのか?」
 「ええ、昨日着いたばっかりだったんですけど、メイドさんのジュ
ディや私たちと話しているとき以外は…。」
 やはり由紀も心配していたのだろう。ホッとしたような表情を見せ
る。メアも、同じようにホッとしたような表情をしてみせながら、紅
蓮の問いに頷く。
 「ふ〜ん…。でもさ、気が向いたらさくら亭に来いよ。いつものヤ
ツ、やってやるからさ。」
 シーラの肩を叩きながら、カラカラと笑い出す紅蓮。シーラは嬉し
そうにするが、由紀とメアには「いつものヤツ」というのが想像でき
ず、困ったような顔をする。
 「ちょっと!なんなのよ、いったい。わけ分かんないじゃないよ!」
 「ああ。見たけりゃ、シーラ説得してさくら亭に来るこった。断っ
とくが、シーラがいないとならねぇからな。シーラは「行きたくない」
って言ってるからな。頑張って説得しろよ。ああ、今日は夕方からだ
から、急に来てもやってないから。そこんとこよろしく。」
 「あはは…。」
 「ったく!シーラ!行くの?!行かないの?!」
 紅蓮のからかいの言葉に、ムキになる由紀。シーラやメア、朋樹は
その光景を見て笑っている。
 カーン、カーン…
 「ん?そろそろ約束の時間か…。んじゃ、俺はここらで失礼するわ。
じゃーな。」
 鐘の音を聞いた紅蓮は「説得頑張れよ」と言葉を残し、雑貨店から
出ていった。
 「あc僕もそろそろ帰ろっと。宿題残ってるし。じゃーね、三人と
も。シーラ、頑張って由紀の攻撃に耐えてね〜。」
 と、朋樹もいらんコトを言いつつ帰途についた。そして…
 「さあ、シーラ。ここの買い物終わったらじっくり話し合いましょ
うね。さくら亭に行くか行かないかを…ね。」
 とりあえず雑貨店を出てから、シーラの家での話し合いを提案する
由紀。目には得体の知れない光が宿っている。シーラは「絶対行くこ
とになるんだろうな…」と一人思うのだった。


 後書き

 ども、ともです。今回はシーラ絡みのSSを書いてみました。
っていうか、やはりお約束ですね。(^^;
 シーラの友達に関しては、特にありません。単なる趣味です。(爆)
シーラがシーラでないみたいになっちゃいましたが、お見逃し下さい。

 最近、SS書きたくても書く暇がありません。一日四十八時間だった
らいいな〜とおもふ今日この頃です。みんな同じでしょうか…?

 そんなわけで。SS読んでくれてる方、どーもTHANKSです。
では、また。ともでした。
中央改札 悠久鉄道 交響曲