バルトフェルド隊長の確認で、ラクスを襲った相手がプラントの特殊部隊だということが判明して。
そして、マーナさんがカガリさんからの手紙を持ってやってきて。
回りは一気に慌ただしくなった。
そんな中、私は独りで小型の電気炉を作り上げ、あるものを作る。



「……それじゃ……」

キラの軍服姿を見るのは久しぶりだった。母親のカリダさんと抱擁を交わす彼。
その後ろには同じ軍服を来たバルトフェルド隊長やマリューさん、そしてアークエンジェルの元クルーの皆さん。
羽織を着て髪を上げたラクスの姿もある。
……あぁやっぱり。彼女は連れていくんだね。
そう考えると、あのときの言葉が嘘じゃなかったのかと思う。
馬鹿みたい。
気まぐれで囁かれた言葉に浮かれてた自分が惨めで。ポケットに忍ばせた包みをクシャリと手で握る。

「……ごめんなさい、朝から調子が悪くて……。立っているのもつらいので、先に家に帰りますね。
 皆さん、いってらっしゃい。最後までお見送りできなくてすみません」

少し顔を青ざめさせていたと思う。
もういろいろとショックで、あの場にいること事態が苦痛だった。
深くお辞儀をして、私は仮住まいへと戻っていた。




「……もぉ、ヤだっ……」

誰もいない部屋の中は静かで。
辛うじて焼け残っていたソファに座る前に、私はひざの力が抜けてその場にしゃがみ込んでしまった。
エターナルを降りてここで生活を始めて。その時からずっと我慢していた分まで泣いた。
泣いても泣いても止まらない涙。
止める方法なんて知らないし、止めようとも思わない。
泣きすぎて体中の水分が出尽くしても構わない。
泣きすぎによる脱水から死に至るなんて、前ならみっともなくて考えつかなかったけど。
今はそれでもいい。

「……気まぐれで……好き……なんて言わないでよッ……」

さっきの光景を見ていてわかった。
あの2人の間に、私なんかが立ち入る隙間はない。
ううん、今までもいやとなるほど見て理解してきたのに、あの言葉に浮かれてただけ。
あの時はきっと、彼女を守るために私を落ち着かせて、鍵を回させただけ。
キスだって、鍵を出してくれた礼だったんだと思う。

「……バカ……みたい……」

ポケットから出した小さな紙袋。中に入っているのはあの銀の鍵。
もらってもいいか聞いたら、隊長は笑って頷いてくれた。
だから私は、それを真ん中にして回りを銀粘土で囲って電気炉で焼き固めてシルバープレートにした。
革紐を付けて、首から下げられるようにしてある。

「……も、いいか……」

私はふらりと立ち上がって袋の口を開けないまま、窓の外へ投げ捨てた。
一瞬遅れてパシャンと水音が届く。
本当は、私もここから自分を投げ捨てたい。
っていうか、実行しちゃおうか。
調子が悪いって帰ってきてるから、ふらついて海に落ちたと考えられるかもしれない。
私は窓枠に手をかけ、重心を窓の外に持っていく。
もう少し重心を移動させたら、体は宙に躍り出る。その瞬間を思って、私は目を閉じた。




「何してるの!!!!」

飛び込んで来た声と腕に引き戻され、勢い余った私は床の上に転がった。

「もう少しで海に落ちるところだったんだよ。何でそんなことしたの!」

「……キラには関係ない……ほっといてよ……」

私は起き上がって再び立ち上がった。

「皆待ってるんでしょ、早く行かないと怒られるよ。バルトフェルド隊長って、本気で怒ったら怖いんだから」

「僕はバルトフェルドさんからを連れて来てって頼まれたんだから、怒られないよ」

「いや。もう軍属じゃないから、命令には従わないって隊長に伝えて」

私は身を翻すと、素早く窓枠に飛び乗った。

「……キラありがとう。……あの時の言葉で、少しだけ幸せな時間が過ごせた……。
 でも、これ以上は駄目なの」

「……な、何を言い出すの……?」

「限界なんだ。キラとラクスを見ているのがつらくて苦しくて耐えられない。
 だからもう見なくていい道を選ぶから……ごめんね……」

思いっきり窓枠を蹴って、私は背中から外に飛び出した。
伸ばされたキラの手が空を掻くのが見えた。


重力に引かれて落ちる私の体。
耳元で鳴る風を切る音が、怖くないといえば嘘になる。
高台にある家の窓から落ちたのだから、結構な高さもある。
これが5メートルぐらいの高さなら、私だってうまく着地できる。
今回はその10倍以上はある高さ、おまけに私に生きる意思がないから受け身を取る気もない。
背中から水面に叩き付けられたとはいえ、着水の衝撃で後頭部の頭蓋骨陥没による即死が待っているだろう。
でも、それでもよかった。
……これ以上あの2人を見ているぐらいなら、死んだほうがマシ。
もう何も考えたくないから……。
私は目を閉じて、最後の瞬間を待った。それから先の意識はない。