目の前から飛び立った彼女を追って、僕もためらう事なく飛び降りたけど。
結局海面に付くまでに追いつくことができなくて。
水面に叩き付けられた白いシャツは、波間に消えていった。

『キラ、お前はいつまで何をやってる!』

襟元から声がした。
既にアークエンジェルの発進シークエンスは完了したのだろう。
しかし、僕たちが戻らないせいで飛び立てないらしい。
僕は立ち泳ぎを続けながら、通信機に向かって叫んだ。

「……バルトフェルドさん……彼女が……が……海にッ……」

『何だって! すぐに俺も行くから!』

叩き付けられたような音に、僕は耳が痛くて、少し襟元から耳を離した。

『キラくん、聞こえる? 用意が出来次第、バルトフェルド隊長も出てくれるそうよ』

「わかりました、僕は引き続き捜索に当たります」

『お願いね』

通信が切れたことを確認して、僕は大きく息を吸い込んだ。
そして再び海中に潜る。



約1時間後、僕はようやく助け出した彼女の体の冷たさに驚いた。
脈は弱々しく打っているものの、楽観視できないことは確かで。

!」

バルトフェルドさんの操るボートの上。
僕は彼女の体を毛布で包み、ひざの上に抱きかかえて名前を叫んだ。
そして軽く、頬を叩いてみたりする。

「……っん……」

形のよい唇から、小さな呻きが届いた。そして、ゆっくりと開かれる瞼。
僕の愛してやまない、ブルートパーズの瞳が顔を覗かせる。

! 気がついたんだね」

うれしくて、その細い体をしっかりと抱きしめた。

「……だ……れ……?」

「……え?」

驚いて体を離した僕は、彼女の視線を真っ向から受け止めた。
そして、は見る見るうちにガタガタ震え出した。

「……やだ怖い……紫の瞳は怖い……」

、僕だ、キラだよ。キラ・ヤマトだよ!」

「来ないで怖いのあっちにいってっ、お願い、誰か、誰か助けてぇッ!!」

逃げようと泣きながら半狂乱になって暴れる
僕は突然の変貌に驚きながら、彼女を捕まえている手を緩めない。



「アンディおじさまっ!!」

止められたボート、振り返った人に彼女が叫ぶ。
僕は、彼女の口調に驚いて、思わず力を緩めてしまった。
その隙を逃さずに、は僕の腕から逃げ出してバルトフェルドさんに飛び付いた。

「……お父さんとお母さんがっ……」

わぁぁぁと声を上げて泣き出した彼女を、バルトフェルドさんは優しく抱きしめていた。



「キラ、ラクス。お前たちにはちょっと言っておきたいことがある」

僕たち3人を収容して、アークエンジェルは飛び立ち、再び海に潜った。
落ち着いた頃、バルドフェルドさんが立ち上がって僕たちを呼んだ。
ちなみには別室で泣きつかれて眠っている。

「なんですの?」

「ここじゃ何だから……開いている部屋にでも行こう」

歩き出した背中を見ながら、僕とラクスはその後を追いかけた。
そして、部屋に落ち着くなり。

「キラ・ヤマト、ラクス・クライン。お前たち両名は、しばらくに近付くな。
 できるだけあいつの視界に入ることも避けてくれ」

「な、なぜですっ?」

突然の指示に、思わず僕は声を上げた。

「そうです。ちゃんとした理由をお聞かせ願えないのなら、私だって納得いきませんわ」

「理由は……キラ、お前は船の上で見ただろう」

「え……?」

はな、俺がプラントで親しくしていた夫婦の娘なんだ。
 俺が地球に降りてしまってからも、時々家族で遊びに来てくれたこともあってな。
 あいつの機械整備に関する知識は、レセップス時代に駐留しているみんなが代わる代わる教え込んだものだ。
 知ってのとおり、俺はキラとの戦いで瀕死の重傷を負い、プラント本国に戻された。
 そしてそろそろ復隊できそうだと、あいつらの家にまで報告に行ったときだった」