一方、別の島に落されたストライクは、後を追ってきたイージスと切り結んでいた。
 いや、『切り結んで』という表現はあまり似使わしなくないもの。雷鳴を連れて来た雲が降らせる雨の中、互いの機体が地を蹴り、構えた銃口がビームを放つ。



「アスラン、おねがいだ! もう僕たちに構わないで、AAを行かせて!!」

 ストライクのビームライフルが、ライフルを撃ち抜く。
 咄嗟にそれを投げ出したイージスは、シールドを掲げて爆発から身を守る。


「そんなに行きたいなら、俺達を倒して通ればいいだろう!」

 イージスは掲げたままのシールドを横投げに飛ばし、それはストライクのライフルを弾き飛ばした。


「でも、僕は君と戦いたくない!」

「俺だってそうだ! しかしキラ! お前は足付きを選んだ!」



 両機ともビームサーベルを手にして、再び大地を蹴った。
 ガァンッ!と甲高い音を立てて、サーベルを持った腕がぶつかる。
 投げ出したイージスはもちろん、ストライクもすでに、シールドというものは手にしていない。
 身を守るものを装備していない分、お互いの攻撃にためらいが生まれる。
 自分の一撃が相手を死に追いやってしまう、その恐れが動きを僅かに鈍らせる。
 言葉ではどんなにわかっていても、頭では倒すべき相手だと認識していても、それでも決定打となる一撃を繰り出せないのは『幼馴染』という絆がなせる業なのか。



「アスラン、もうやめて、やめてよっ!」

「甘ったれるなキラ、これがお前の選んだ道! そして俺が選んだ道だっ!」

「でも僕は君を殺したくなんかないっ! お願いだから投降してっ!」

「そんなことができるわけがないだろう! どのみち、足付きだってもう堕ちてるさ!」

「……え……」

「俺の放ったスキュラが足付きの左舷を貫いたのを見ていなかったのか!
 あっちにはブリッツだってバスターだっている。だけで相手にできるわけがない」


 そう言われて、キラは小島に落ちる前の出来事を思い出した。
 スキュラがAA左舷のバリアントを撃ち抜いて、周辺を誘爆させて……そして……CICからはブリッジクルーの悲鳴が聞こえてきて……。


「……僕はっ……僕はと誓ったんだッ……!」

「え……?」

「AAは守り抜いて、絶対にアラスカに連れて行くって、両手を組んで一緒に誓ったんだ!
 もう1つの誓いは守れなかった。だからっ……。
 ……だからこれ以上、彼女との約束を破らせないでッッ!


 キラの中で、何かがはじけた。それは、以前感じたことのある感覚。
 すべての雑念が消えうせ、ただ目的は……AAの敵、目の前の脅威を排除する……そのことだけ。


 一瞬にして膨れ上がった殺気に、思わずアスランは身震いしてしまう。

「……なんだ、キラの様子が変わった……?」

 ビームサーベルを腰だめにして突っ込んできたストライク。その切っ先は、先ほどまでは絶対に狙わなかったイージスのコックピット。
 しかしやはり訓練を受けていない差というものだろうか、がむしゃらにただ一点のみを狙い突っ込んできたストライクを、イージスは余裕を持って避けた……はずだった。



 すれ違う瞬間、横に動いた腕。
 ストライクのビームサーベルが、イージスのハッチに擦れ、シートを剥き出しにする。


「うわぁ!」


 今まで命を狙わなかった優しい幼馴染。その彼が、自分をためらいもなく殺そうとした。
 信じられないという思いとともに、憤怒がきっかけとなり、アスランの中ではじけた。



「アスラァァァァァァァァンッ!!!!」

「キラァァァァァァァァァ!!!!」


 互いの名前を叫びながら、2体の鋼鉄の巨人がぶつかり合う。

 濁った紫の瞳が映すものは赤い機体、そして、切り裂かれた隙間から見える少年。
 同じく光を鈍らせた緑の瞳が映すのは、トリコロールの機体、ハッチの奥に隠れている少年。


 自らが守ると誓ったものに。
 反らすことのできないと決めたものだからこそ、破ることのできない願いだからこそ、少年は己の道を貫くことしかできない。


 何もできなかった自分に戻れない。
 たとえそれがすでに手遅れだとしても、1人で背負っているわけじゃない。志を同じくする仲間を知っているからこそ、少年はその道を違えることはできない。


 だから、彼らは戦うしかない。
 剣をぶつけ、どちらかを倒して、自分の正しさを証明するしか、その方法を知らない。







「……なかなか注入できないですね」

「仕方ないわよ。着底のショックで電気系統がトラブっちゃったって言うんだから」

「僕も修理手伝ったほうがいいですか?」

「うーん、行かないほうがいいかもね。ほら、ニコルは敵だったんだし。
 私は平気だけど、事情をよく知らない整備員はコーディネイターってだけで嫌な顔するだろうから」

「それはそうですね……。ここはナチュラルの戦艦……なんですもんね。
 でもそれにしても、は心配じゃないんですか?」

「心配してるに決まってるじゃない。ストライクのことだって、イージスのことだって。
 あの2体がバッテリー切れを起こして力尽きててくれたらいいんだけど……」

「……さっきから聞こうと思ってたんですが、ストライクのパイロットってアスランの知り合いなんですか?」

「幼馴染だって」

「えっ!」

「この話はキラ先輩と私しか知らないことだから、ニコルも言わないでね」

「……わかりました」

「でも……本当に探しにいきたいなぁ……」

「あそこの戦闘機はだめなんですか?」

「スカイグラスパー2号機? うん、だめ。他の人に無茶させないようにってバッテリー積んでないの」

「……それじゃあ、今の僕たちには待つことしかできませんよ」

「そうだね……」







 激しさを増した雨が、両機体に打ちつける。
 ストライク、イージスの顔面を滴るそれは、泣くことを許されていない搭乗者の分も代わりに流す涙のよう。
 すでに何度叫びながら切り結んだのか覚えていない。

 目の前の敵を排除する。

 それだけがお互いの思考を占めていた。



 経験値の差か。
 ストライクのビームサーベルごと切り飛ばしたイージス。自分もサーベルを投げ出すとMA形態に変形し、4つの鉤爪で抱え込んだ相手を拘束する。

「……これで終わりだ!」

 アスランはスキュラの発射トリガーを引いた。
 しかし、カチカチとむなしく音を立てるだけ。そしてそのときになって、ようやく自らがバッテリー切れを起こしていたことに気が付く。ストライクを拿捕した瞬間、落ちたのだろう。

「そんなっ……これで終わるとッ……」

 ハッチの隙間から見えるストライク。自分達と相容れない、存在。
 こいつのせいで同僚が、……同胞が何人も死んだ。
 この機体だけは許せない、操縦している奴も、何度も説得したのに応じないキラも許せない!

 アスランは隠されたテンキーを出して、そこに数字を打ち込むと、メインモニターに『10:00』という数字が現れ、カウントダウンを始める。
 動き出したのを確認して、ハッチを開き、飛び出したアスランはその場からバックパックを噴射して離れる。
 ストライクのキラは、それをただ見つめているしか出来なかった。
 クローにしっかりと固定されたコックピットはハッチを開くことすらできない。





「……えっ……」

 消火に、修理に、それぞれの活動に従事していたAAのもとにも爆発の轟音は届いた。

 『SIGNAL LOST』

 小さな電子音とともに現れた、受け入れがたいその真実。

「ハウ二等兵、何があった?」

 目を見開いている彼女に気が付いたレガールが声を掛けるが、それはミリアリアに届いていない。

「……ストライクの反応が……消えました……」

 あまりにも呆然としている少女を気遣って側に行ったトール。彼もモニターに写っている文字を否定したいと思いながら、小さな声で報告した。



黒マント製作機から
 ストライク爆散、キラMIA。
 キラとアスランのやり取り、書いてて辛かったです。いろんな意味で。
 これからは、ほぼヒロイン視点になりますので、アラスカメインになります。
 アスカガは適当に流して、キララクはもっと適当に流します。
 でも今の話展開だと、ニコルとヒロインが仲良いです。……ま、同じ年だしね。


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