「どうしたんだ?」

「え? 何がですか?」

、いつになくボーっとしてません?」

「そ、そんなことないよ。ただ、あと数時間でやっとJOSH−Aに着くんだなぁって思っただけ」



 そう、あれからなんとか戦闘空域を離脱したAAは、ようやくアラスカの制空圏に入った。さすがにザフトもここまでは追ってこず、クルーは久しぶりに緊迫した状況から逃れられている。
 ここにくるまでにすれ違った皆の顔にも安堵の表情が見て取れた。

 ……ただ、ミリィとは、ヘリオポリス・カレッジの人達と顔を合わせにくくて。

 私はディアッカさんの食事トレイと自分の食事トレイ、ニコルにも自分の食事トレイを持たせて、逃げるようにして食堂を後にした。



「お前がここで食べてくれるのはうれしいけどさ、なんで食堂で食べないの?」

「ディアッカ!」

「……ちょっと訳ありなんですよ。ニコルはその現場を目撃してますから」

「そぉ」

「聞かないんですか?」

「聞いて欲しいワケ? 言葉を濁したから聞かれたくないことだと思っただけなんだけどな。
 つーかさ、今のお前から無理やり聞き出したら、隣の奴に何されっかわかんねーよ」

 そう言われて横を見ると、ニコルがディアッカさんを視殺しかねない勢いでにらみつけている。

「スキありっ!」

「あー私のミートボールっ!」

 少しニコルに気を取られていたら、鉄格子の間から伸びた腕。ディアッカさんのフォークに突き刺さっているのは私のトレイに乗っていた最後のミートボール。それはあっという間に彼の口に消えた。

「ディアッカさんひどいーっ!」

「ニコルに見惚れてたがいけないんだぞ。
 この世は弱肉強食。一瞬の隙が命取りだってことを……てぇっ?!」

「へへーんだ、やられたらやり返すのはイザークさんから教わったことだよー」

 私はディアッカさんのトレイから唐揚げを奪い取って、口に入れる。

「お、い、しーっ!」

「……お、俺の好物を……」

 心底悔しそうに言うディアッカさんを横目に、私はモグモグと口を動かした。

「……いいじゃないですか。唐揚げの1つや2つ……。
 それに元はと言えば、ディアッカが大人気ないことをしたのがいけないんですよ?」

 呆れたように言うニコルに、私は首を動かした。……口の中にまだ物が入ってるからしゃべれないし。

「でも、少しは元気出ただろ?」

 一瞬、彼の言葉の意味が分からなくて、私はきょとんとなる。

「お前さ、プラントでも、1人で抱え込んで溜め込んでたじゃん。
 今回は何が原因で落ち込んでんのかは知らねーけどさ、元気出せって」

「やっぱりディアッカには敵いませんね。が落ち込んでたの、あっさり見抜いちゃいましたか」

「そりゃさ、兄貴を自称してる分、妹の変化を見逃しちゃ駄目っしょ?」

 クスクスと笑い出したニコルにつられて、ディアッカさんも笑う。

「ありがと、お兄ちゃんたち」

 にっこり笑った私に、慌てて顔をそらす2人。……どうしてそんな態度取るんだろ?



「……ディアッカ……僕、自信ないんですけど……」

「堪えろニコル……、マジで近親相姦になるぞ……」

「う゛、それだけは勘弁してほしいです……」



「ねぇ、2人とも何コソコソ話してるの?」

「何でもない、何でもないよなぁ、ニコル?」

「そうですよ、男同士の話なので、には関係ないんです!」

「そーなの?」

 首を傾げた私に、勢いよく首を上下させるニコルとディアッカさん。……首、千切れて飛んでいくんじゃ……と思ったけど、一応口にはしなかった。





「おーい、嬢ちゃんいるかぁー?」

 廊下のほうから声がする。

「何ですか?」

 階段を上がると、そこにはやはり髭のおじさんこと、マードック曹長。

「艦長が探してたぞ。
 あと10分もすればJOSH―Aに入るから、お前も査問委員会に出席しろだとさ」

「えぇ? 私はただのパイロットですよ?」

「それと同時に、お前も階級持ちの士官だろうが」

 大きな手の平が頭の上に置かれる。見上げると、レガール兄の姿。

「すまないな、わざわざ曹長の手を煩わせてしまって」

「いいってことですよ」


 去っていくマードック曹長を見送った後。

「クルーゼ隊の2人、下にいるんだろ?」

「いますケド……、でも、本当に私も出なきゃいけないの?」

 階段を下りるレガール兄を追いかけながら、私は聞き返す。

「そりゃ私も少尉ではあるけれど、それはパイロットであるからだけであって……」

「決定事項だ。拒否権はない」

 何を言えばいいのか、子供とはいえ敵であるコーディネイターの私が、お偉いさんたちの前に出ても仕方ないっていうのに。

、お前は1回ブリッジに行って来い。艦長が何か言いたそうにしていたからな」

 1人で行くのはごめんこうむりたいけれど、呼び出しがかかってるんじゃ仕方ない。私は後のことを頼んで、ブリッジに向かった。





「こんなところまでご足労ありがとうございます」

「……ディアッカくんの顔がそう思ってないのはバレバレなんだけど?」

「だって、貴方みたいな方がここに現れること自体が珍しいですし」

「ニコルくんの毒舌は、俺を警戒しているからだと受け取っておこうか」

 若者2人の敵意をさらりと交わして、にこりと笑うレガール。

「別に、今回は君達に仇なそうと思ってきたわけじゃないさ。個人的な用件で来た。
 ……ただ、プラントでは妹が世話になった礼を言いたくてね。昨日は満足に話せなかっただろ?」

「あ、はい、そういえばそうですね……」

「……これからもあいつのこと、守ってやってくれな?」

「え? 何だよそれ?」

「何だ?って、言葉のとおりさ。
 ……俺はもうすぐ行かなきゃならないから、のそばにいてやれなくなるんだ。
 だから、俺の分をお前達に託したい。大切な妹を守ってやってくれるか?」

「……レガール中佐……」

「あんたが何を考えてるのかわかんねーけどさ。
 俺達が側にいるより、半分でも血の繋がった兄貴がいてくれたほうがうれしいと思うぜ?」

「そうしてやりたいのは山々なんだがな。それじゃあの子を守れない。
 これからJOSH-Aで行われる査問委員会、その席ではまた連合軍の実験体として連れて行かれる。
 あの子はそれに抵抗しないつもりだろうが、俺はそれを断固として阻止したい」

「……もしかして、体を投げ出してでも彼女を守るつもりですか?」

「場合によってはそうなるかもな」

「駄目ですよ、そんなの! お兄さんを犠牲にしてまで助かりたいと思うじゃありません!
 これ以上、彼女に哀しい思いをさせないでください……」

 きゅっと拳を握って俯いたニコルの頭を、レガールは優しく叩いた。

「君は優しい子だな。戦争さえなければ、銃を取って戦うことを覚えずにすんだのに……。
 ……は今、ヤマトを失ったショックからか、ヘリオポリスの仲間や兄ある俺ですら避けている。
 だからこそ、ディアッカ、ニコル。あの子の支えとなってやってくれないか?
 自分と同じコーディネイターだからこそ、君達の存在を否定しないんだからね……」

 立ち上がったレガールは腕時計を確認して、そして、ディアッカの横の独房を開く。

「ニコルくん、が帰ってくるまではここに入っていてもらえるかな?
 君はあの子といつも一緒という条件で投獄を免れている身だ。
 しかし、はこれから査問委員会に出頭せざるをえない。さすがに、連れてはいけないから」

「わかっています」

 開かれた鉄格子の中へ大人しく身を入れる。

「それじゃ、俺はもうそろそろ行くよ。君たちに会えてよかった」

「レガール中佐!」

 立ち去りかけた彼に、鉄格子に張り付いたニコルが叫ぶ。

「……実はに口止めされてたんですけど……やっぱり言います。
 ストライクのパイロットの彼は、実は……イージスのパイロットの彼と幼馴染だったって……」

「……え……?」

「マジかよ、ニコル!」

「こんなことを冗談で言いますか?
 3年前に月の幼年学校で別れて、そして、今回のヘリオポリス襲撃のときに再会したって……」

「戦争って、本当にイヤだよな……」

 その呟きだけを残して、レガールはその場から立ち去った。



黒マント製作機から
 ディアッカとニコルとヒロインと。この3人の会話を書くのが楽しいです。
 というわけで、前半は明るい感じで。
 うって変わって後半は、ちょっとシリアスっぽくなりました。
 ……レガールの覚悟ってのを書きたかった。


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