ボロボロのAAは、地球連合軍本部・JOSH−Aへの入港を果たした。
 最初から目指していた場所、たどり着きたかった場所―――。
 しかし、そこにたどり着くまでに払った犠牲は大きすぎて。
 補給も救援すらもよこさなかったのに。


 それなのに……。


 目の前で行われている光景は何だろう。
 ねぎらいの言葉は一言もなく、一方的に責める彼らに、私は憤りを押さえるのが必死だった。
 膝の上で固く握った拳。食い込んだ爪が手の平を傷付けたのがわかる。
 履いている白いズボンに、鮮血の染みが落ちる。


 わかっていたはずだった。


 プラントに上がる前に、何度かブルーコスモスに捕まって、その度に連合軍の施設に連れていかれた。
 その度に言われた。

 『自然に生まれた者ではないお前たちと馴れ合うことなどできない』と。
 『汚らわしいお前たちに頼る者は、誇り高き連合軍にはいない』と。

 だからといって、目の前の光景はあまりにもひどすぎる。
 確かにここまでMSに乗ってやってきたのは、キラ先輩と私という、どちらもコーディネイターだけれど。
 一方的に責められるだけで、艦長さんは何も言い返さない。
 いくら軍人が階級に弱いとはいえ、これではあんまりで。





少尉」

「……はい」

 俺はこの部屋に入って初めて顔を上げたような気がする。

「君は……わかっているね?」

「何がですか?」

「きさまっ!」

 不機嫌を隠そうともせずに答えてやった俺に、1人の士官が立ち上がるが、サザーランドの奴がそれを片手で制した。

「コーディネイターでありながら、我が軍の重要機密に触れたのだ。それ相応の覚悟はしてもらおう」

「……昔のように、実験動物……若しくはそれ以下になれと?」

「わかってるじゃないか。2年前に急にいなくなってしまった君を、待っている奴は多いんだよ?」

 ニヤニヤと笑うサザーランド。そして取り巻き一同。

「嫌だって言ったら?」

「2年前とは違ってねぇ。君の行動を束縛するカードはいくつもあるのだが。
 ……たとえば、そこにいる君のお兄さん……とかね?」

「なるほどね、拒否権ナシか……」

 こんな奴らの言いなりになるのはごめんなのだが、かといって兄貴たちを見捨てる訳にも行かない。ここはまた俺1人が我慢すればいいだけのこと。

「これで査問会は終わりだ。
 なお、レガール=中佐、ムウ=ラ=フラガ少佐、ナタル=バジルール中尉、フレイ=アルスター二等兵の4人についても転属命令が出ている。明朝08:00に人事局に出頭したまえ」

「……え?」

 バジルール中尉とフレイ嬢。この2人については大方の予想は着いていたから、俺は別に驚きはしない。レガール兄もどちらかといえば、何処かのラボでプログラム相手をしているほうがあっている。しかしそれよりも、解せないのが、ムウ兄の異動。


 ……嫌な予感がする……。


 半眼のままで俺は、押えつけていた殺気を解放した。
 この間AA内で見せたのとは比べものにならない程の冷たくて鋭い殺気。
 俺以外の全員が息を飲んだのがわかったが、だからといって、もう押さえるつもりはない。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 俺の真横にいた兵士が大声で叫んで、次の瞬間ライフルの引き金に指をかけた。
 その銃口の先には、バジルール中尉。咄嗟のことに驚いて動けないらしい。

「……ちっ!」

 出会った頃は何度か衝突して、今でも苦手な部類に入る彼女だが、見捨てておくことはできない。俺はダッシュしてその兵士が引き金を引く寸前に当て身を食らわせ、すばやくライフルと拳銃を奪い取る。
 ついでに振り向き様、サザーランドたちが座っている机に向かって引き金を引いた。

「少尉、あなた何を……」

「あー、ご心配なく。追い出しただけですから」

 机の下からわらわらと出てくる、武装していた兵士が5人。各々が聞き手を反対の手で押さえている。

「……よくもまぁ、あんなせまいところにいたもんだ。命令とはいえご苦労なこって……」

 呆れたように言うムウ兄。

「なぜわかったっ?」

 弾倉の残弾を数えていた俺に、サザーランドから一番離れたところに座っていた士官が声を上げた。

「どうしてって、フツーはわかるだろ?」


「……艦長、わかったか?」

「いいえ……。レガール中佐やナタルは?」

「まったく気がつきませんでした……」

「俺も全然……」


「それより、だ。これは一体どういうことなんだ、え?
 アルテミスといい、ここといい……。
 非武装の人間に銃を向けるのが、誇り高き連合軍とやらの教えなのか?」

 叩き込むようにして弾倉を戻し、俺はオートマチックの銃口を奴に向ける。

「それを言うなら、今の君も同じことではないのかね?
 周りはともかく、私自身は武器を携帯してはおら……」

 言葉を遮るようにして、俺はサザーランドの目の前の箱を撃ち飛ばした。

「確かに、お前は武器を持ってはいなかった。
 しかし、目の前に不自然に置いてあった箱の中身は何だ?」

 俺は奴から視線をそらせないまま、手にしていた拳銃を肩越しに撃った。
 短い呻き声とともに、固い金属が床の上を滑り、俺の足元にぶつかって止まる。

「ナチュラルってのは、人を背後から狙うのがお好きなようで。
 こんな奴らを守るために必死になって戦ってきたのかと思うと……まったく……反吐が出る」

 俺はまっすぐに、サザーランドに銃口を合わせた。

「お、お前がここで大佐を撃てば、ラミアス艦長たちはもちろんのこと、AA全クルーの命はないぞ!」

 取り巻きその2が上げた声に、俺は思わずビクリと震え。そのせいで反応が遅れた。



!」



 突き飛ばされた衝撃に重なる、発射された銃が火を吹く音。
 すぐさま体勢を立て直した俺の目の前で、白い服を赤く染めながらゆっくりと倒れていく体。

「兄貴っ! レガール兄! しっかりしろよっ!!」

 転がるようにして彼のそばに走り寄る。しかし、じわじわと溢れていく鮮血は、床の上に赤い水たまりを作り始めていて。

「……だい……じょう……ぶか……?」

「何処もケガなんかしてない! 心配すんな!」

「……わる……かったな……、おまえ……が……」

「もういい! 何も言うなよっ!」

 咳き込んだ拍子に飛び散った血が、俺の頬を濡らす。

「なあ……もう1人の……に……泣くなって……」

「無理だよ、そんなの! 行かないでお兄ちゃん、私を1人にしないで!」

「ははっ……おまえ……やっぱ……泣き虫だわ……」

 コトリ、と。
 私の握っていた手から滑り落ちた手。

「いやっ……いやっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
 お兄ちゃん、行かないでよぉっ、いやぁっ! お兄ちゃん、いやっ! 嘘よぉ、目を開けてっ!」

 着ている服が染まろうとも関係なかった。
 私は冷たくなっていくレガール兄の胸に取りすがって、泣き叫んだ。



黒マント製作機から
 このキャラが出てきたときから、彼はここでお亡くなりになると決まっていたんですが……。
 実際に書くと、悲しいですね。
 レガール兄さんは、結構お気に入りなキャラだったんだけどな……。


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