「……ねぇ、ディアッカ……」

「ん?」

「イザーク、今頃怒り狂ってますよねぇ……」

「……だな。モンロー艦長もカワイソーに……」

「今度無事に会えたら、白髪染めでも贈りましょうか?」

「育毛剤の方がいいかもな」


 たちが出ていってしまってから、何もすることがない2人は、壁越しの会話を続ける。


「僕たち、どうなっちゃってるんでしょうね」

「ブリッツもバスターも動きを止められた時点で発信止まってるだろうしさ、MIAだぜ、きっと」

「アスランのイージスも反応が消えているでしょうし……。捜索……されてると思いますか?」

「あいつが強硬しようとしても『ここはアラスカに近すぎるんだ!』とか何とか言われて止められてるぜ」

「でしょうね。
 それでも諦め切れずに『あいつらだって伊達に紅を着ているわけじゃない!』とか叫んでそうです」

「そーそー。何とか押さえることに成功しても、モンロー艦長の頭は後退していくっと」


 ディアッカとニコルは声を合わせて笑った。
 しかし、想像どおりのことが潜水母艦・クストーのブリーフィングルームで行われていたことなど、当然のことだが彼らは知らない。


「……なぁ、ニコル。お前がさっき言ってたのって……」

「ストライクのパイロットのことですか?」

「ああ。そいつ、アスランと仲……よかったんだろーな……」

「僕もあまり詳しくは聞いていないんでよく知らないんです……。
 でも、あなたも一度会っているはずですよ?」

「一度、会って……?」

「オーブのモルゲンレーテ。ほら、覚えてるでしょう? あの、フェンス越しの彼です」

「覚えてるけど……って、あいつがぁ!?」

「……何をそんなに驚いているんですか……」

「だってさ、本当にあいつ作業手伝ってるだけの、ただの子供っぽかったじゃん。
 戦闘なんか不釣り合いですって言わんばかりの……」


 それを聞いていたニコルは、こらえ切れなくなってとうとう吹き出し、クスクス笑い出した。


「僕もに同じ反応を返したんですよ。
 そしたら『彼も守りたいものがあるから戦ってるだけだ』って怒られちゃいました。
 彼の守りたかったものとの守りたかったものと微妙に重なってて、一緒に戦ってたんです。
 でも……彼が命を投げ出して守ったものが、最後にはを傷付けたんですけどね……」

「……それで、あんまりあっちにいたくないなんて言ってたのか……」

「ええ……」

「……そろそろ……あいつ壊れるんじゃねーの?」

「かも知れませんね。……今行っている場所で起こることが引き金になって……」

「そうなったら俺たちだけじゃ心もとないぜ?
 一旦ブチ切れたときのあいつの戦闘能力は、俺たちと引けを取らなかったしな」

「自分に敵意を向ける相手には、容赦なく引き金を引きますからね。
 なまじ、いつもと変わらないように見えますから余計に……って、誰かやってきますよ?」

「……の足音……じゃないな」





「お前ら! 少尉を止めてくれっ!」

 血相を変えて階段を駆け下りてきたのはナタルだった。
 彼女がどういう立場なのかは知らないが、士官を示す白い軍服を身につけている以上、それなりの地位を持っていることは伺えて。

「……まさか……」

「……だな……」

 ディアッカとニコルは開かれた牢から飛び出した。そして銃声を頼りに走っていく。












「「ッ!!!!」」

 彼らが走りついた先には、ピストルを構えて兵士を見下ろしている少女の姿があった。
 彼女の後ろには、同じ年頃の少年3人に少女が2人。ディアッカはモニター越しにしか見ていないが、ニコルには覚えがある。1人はブリッジで『代わりに死ねば……』と呟いた少女である。

「やめろ、!」

 ディアッカの声に重なるようにして引かれた引き金。ドンドンドン、と撃ち込まれる銃弾。
 断末魔の痙攣を起こしていた兵士は、やがて動かなくなる。

「私から……守るべきものを奪う相手は……みぃんな敵なの……」

 顔を上げてニタリと笑ったに、思わずゾクリとする2人。
 の後ろにかばわれている彼らの顔からは、すでに血の気が失われている。あまりの変貌振りに驚いたというより恐怖を感じているらしい。
 服を染め、顔を彩っている赤黒いものは誰の血か?
 そんなことは言葉にしなくても予想はつく。なぜなら、彼の覚悟の一言を聞き取ったのだから。

「……ディアッカ……大丈夫だと思いますか?」

 小さく息を飲んだニコルは、途中倒れていた兵士から拝借してきたピストルを構えている。

「……さぁな。でもこのまま放置しておく訳にも行かないだろ」

 ディアッカもピストルを構え。

「ここにイザークかアスランがいたら、よかったんですけどねぇ……」

「いないやつらのことを言っても始まらないぜ。俺たちだけで止めるしかない」





「……あなたたちも、ミリアリアたちを殺しにきたのね……」

「はやいっ!」

 構えを解いて、突っ込んできたを避けるニコル。

「ぐぅっ!」

 ピストルを構え直す前に、のピストルの台尻が叩き落とされ。背中に受けた衝撃に、彼は小さく呻いた。

「ニコル!」

「平気ですよっ! こんな一撃で倒れちゃ、紅の名が泣きます!」

「今度は油断するなよっ! 、俺だ! ディアッカだ!」

「……キラとね、約束したんだ……みんなは守るって……」

 クスクスと笑いながら、の射撃が追いかける。それでも何とか避け切っているのは、やはり彼も、紅の一員という実力者ゆえ。





「ここまで彼女が壊れるなんて、一体、何があったんですっ?!」

 ようやくやってきたムウ達に、ニコルは応戦しながら問いかけた。……問いかけというより、ほとんど叫びに近かったが。

「お兄さんが、の目の前で撃たれたのはわかりました。でもその後に、まだ何かあったんでしょっ!」

「……連合軍の兵士が……」

 トールに抱き抱えられるようにして声を上げたのは、顔を蒼白にしているミリアリア。

や艦長たちが帰ってきたとき……。
 ちょうど、連合軍の兵士がブリッジの私たちに銃を突きつけていて……。
 そのうちの1人が撃った銃弾が、トノムラ軍曹の脇腹を掠めて、軍曹が倒れてッ……。
 そしたらが叫んで、あっという間に全員を撃ち殺したかと思うと、廊下に走り出て……」

「それでこの状況、というわけですか。
 ……まったく、悪いことというものは往々にして重なるものですね……。
 とりあえず、僕とディアッカでの暴走は止めます。
 でも、その後のことは責任は持ちません。というより、持てません。
 あの子の心を傷付けてボロボロにしたのは、他でもない貴女なんですから」

「……え……?」

「ブリッジで呟いた一言、忘れたとは言わせませんよ。
 貴女達を失いたくない一心で、僕たちとも敵対する道を選んで戦ってきたのに。
 それなのに、友人が死んで混乱していたとはいえ、よくもあんなことが言えましたね。
 仮にが許したとしても、僕は許しませんから」

 冷たい目ににらまれ、ミリアリアはそれに射竦められてしまったように動けないでいた。
 キラ以上に女の子と見間違うような優しい顔立ちをしている分、その鋭さは形容しがたいものだった。
 腰を半ば浮かせていたミリアリアが力なく座り込むと、ニコルは彼女を一瞥してその場から走り去る。





「……何、今の……あんな子が、あんな冷たい殺気を出せるなんて……」

 呆然と呟いたマリュー。

「ってかーさ、殺気っていうより半分怒気だな、ありゃ」

 ディアッカとニコル、2人を相手にしても引けを取らないの戦闘能力の高さに感心しつつ、ムウはわしゃわしゃと頭をかきむしった。

「あいつらだって恐怖はあるだろうに……それほどは大切なんだろうなぁ……」

「そうですわね……」










「ディアッカ、プロジェクトC、発動しますよ!」

「ここまでなってるに効果あんのかよっ?」

「わかりませんけど、一瞬でも動きを止めることができれば!」

「……気乗りしねーなァ……」

「僕だってしませんけど!」

 そう言いながら、前後に分かれたディアッカとニコル。


















「「おとなしくしないと、変態仮面隊長に売り飛ばすぞっ!!!!(売り飛ばしますよっ!!!!)」」


















 物陰になる通路の端では、マリューたち士官組が崩れ落ちていて。
 ディアッカとニコルはどうなるかと息を潜めていて。
 は動きを止めていて。























「仮面はいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」























「おっしゃ、大成功!」

、いい加減に落ち着いてくださいっ!」

 その隙を逃さず、ニコルの回し蹴りがの鳩尾にめり込む。



「……あ……ニコル……」

「ニコルじゃありませんよ。……まったく貴女って人は……」

 ぎゅっと抱きつかれて、も小さく謝りながら抱きつき返した。

「また……やっちゃったんですか……?」

 伸ばされた彼女の指先が、血の滲んだディアッカの頬に触れる。

「もう慣れたって。ただ、久しぶりだったし俺とニコルだけだったからちょっと手間取ったけど」

「……ごめんなさい……」

「謝る相手が違うって」

 苦笑するディアッカが後手に指したのは、マリューたちで。

「……すみませんでした……さっきので余計、AAの立場を悪くさせてしまいました……」

「いいのよ、気にしないで。……こちらこそごめんなさいね。お兄さん、守れなくて……」

 その言葉に『やっぱり……』と僅かに顔をしかめて見合わせたディアッカとニコル。

「……いえ……」

「それで今回のあなたの処分だけど……」

「待ってください、彼女は俺たちを助けてくれてたんですよ!」

「サイ先輩、下手な同情はいりません」

(……こりゃ、本当に溝ができちまったな……)
 言葉を発した人物を見ようとしない彼女の様子に、ムウだけが気が付いていた。

少尉。貴女には食事の受け取り以外、AA地下牢での謹慎を命じます。
 クルーゼ隊の2人も同じように地下牢に戻っていただけますね?」

「……わかりました」



黒マント製作機から
 うちのヒロイン、クルーゼ隊長は写真でしか知りませんよ!
 その割に、彼が変態だと、危険人物だと認識しています。
 プロジェクトCの『C』は仮面です(笑)


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