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オーブの飛行艇・アルバトロスのサブシートに座っているカガリは、窓の外を見ながらずっと爪を噛み続けていた。 「いい加減にやめないと、またマーナに泣きつかれるぞ?」 パイロットシートのキサカが、彼女の世話係の大柄な女性を思い出しながら苦笑する。 「だって、が無事に戻ったって知らせ受けたと思ったら、今度はキラの行方がわからないって! こんなときに落ち着いていられるかよっ……」 「そうだとしても、お前がイラついていても速度は上がらない。到着はもう少しだ、我慢しろ」 彼の言う通りなので、とりあえず、カガリは爪噛みをやめた。 「ッ……そういえばAAはっ?」 「バスターおよびブリッツは拿捕したらしい。デュエルは早々に攻撃不能にされ、戦線離脱している。 そして、追撃隊を何とか凌いで、今はアラスカの防空圏に入ったとの連絡を受けた」 「よかった……」 わずかな間でも共に過ごした人々の無事を聞いて、心からカガリは胸を撫で下ろした。 救援要請を受けた場所はオーブ本土からあまり離れていない群島、そのうちの1つだった。 「……こんなのって……」 想像していたよりもはるかにひどい惨状が、彼女の目の前に広がっていた。 原形をとどめていない鉄の塊が点在し、打ち寄せる波に洗われている。 ビームによって溶かされてガラス状に固まっている白い砂、大きくえぐれた地面。 艶やかに咲き誇っていただろう花々も、生命力をみなぎらせていたであろう樹木も、無残に倒れ押し潰され、ここで行われた激しい戦闘の様子を垣間見せるだけだった。 そして少し離れた位置にあったものに気がついたカガリは、愕然となる。 「ストライクの……頭……?」 半分ほどしか原形をとどめていないが、何度も見たXナンバーのフレームには覚えがあった。 「……ここで戦って……赤い機体が自爆したのか……」 キサカの言葉にハッとなるカガリ。 点在する破片の中には、明らかにストライクのものではないものも混ざっている。 バスター・ブリッツがAAに捕まり、デュエルが戦線を離れたというのなら、残されたのは赤いフェイズシフト装甲のイージス。そのパイロットの顔を知っているだけに、何ともやるせない気持ちが押し寄せてくる。 先に着いていた兵士達が、ストライクの胴体を取り囲んでいる様が目に映った。 「カガリ!」 キサカの声など耳に届かないかのように走った彼女は、勢いよく飛び上がり、兵士を押し退けるようにしてコックピットに目をやる。 ドロドロに解け落ちたシート、爆発で砕けた計器類、ズタズタに裂けた内装。 想像以上の惨状に立ち上がったカガリは数歩後退り、足を滑らせて落下する。しかし、間一髪でキサカがそれを受け止めた。 「だから見るなと……」 「いないんだ!」 「え?」 「キラが……キラがどこにもいないんだ!!!!」 彼の言葉を遮って、服を掴んで見上げて叫ぶ彼女。キサカは慌てて上の兵士達を仰ぎ見る。 「カガリ様のおっしゃるとおりです。パイロットとおぼしき人物の姿は影も形もありません」 「もしかしたらッ……キラは脱出してっ……」 「すぐさま周辺を探せ!」 キサカの命令が飛び、下ろされたカガリも周辺を走り回って、青いパイロットスーツの彼を捜し求める。 「向こうの浜に!」 その報告にカガリは走る。 「キラッ!!!!」 名前を叫びながら取り囲んでいる兵士を押し退けた。が、そこには青いパイロットスーツの少年ではなく、赤いパイロットスーツの人物が横たわっていた。左腕が折れているのか奇妙な方向に曲がっていたが、ぱっと見たところの外傷はなさそうに見える。 「……やっぱりお前だったのか……アスラン……」 焚き火越しに見た、緑の瞳が印象的な少年の名前を、カガリは小さく呟いた。 小さな呻きを漏らして、アスランの意識は徐々に覚醒していった。 ベージュ色の天井。 『天国にも、天井ってあったんだな』と、彼はぼんやりと思う。 「気がついたか?」 聞き覚えのある声に慌てて身を起こしてみれば、体中が悲鳴を上げ、顔をしかめざるを得なくなる。 「……君は……」 「ここはオーブの飛行艇の中だ」 「オーブ? オーブが何で……」 「ストライクを捜しに行ったら、浜に転がってたお前を見つけた。 あのままほっといたらお前は死ぬかもしれない。朝夕の寒暖の差があるところだからな。 お前が死んだと知ったら、そうしたらに泣かれるから、仕方なく連れ帰ってきた」 「? =を知っているのか?」 思いがけない名前に、思わず声を上げるアスラン。それに対して、カガリは小さく頷いた。 「あいつは私の幼馴染みたいなものだからな。で……ストライクをやったのはお前だな?」 カガリの問いかけに、今度はアスランが頷く番。 「イージスで組みついてスキュラを放とうとしたらPSが落ちた。 だから、そのまま自爆コードを入力して……」 「……それでお前は逃げて、ストライクのパイロットは……」 「がっちり組み付いてたからな……逃げられたとは思えない……」 覚悟していた。 浜でキラではなくアスランが見つかったときに、覚悟できていたことだった。 しかし、込み上げてくる悔しさを抑えることはできなかった。 「なんでっ! 何でキラがッ! を守りたい。 友達を守りたい、AAを守りたい、それだけで必死に戦ってきただけなのにッ……。 泣き虫でおっちょこちょいで、それでも自分の決めたことを一生懸命にやってて……。 なのになんで、こんなところで殺されなきゃならないんだよォ!」 距離を取っていたことも忘れ、カガリはアスランの胸倉を掴み上げた。 「俺だって殺したくなかったさ! こっちへ来るように言ったのに、それでも手を振り払ったのはあいつだ! 俺にはもう、幼い日の思い出を共有できる相手はあいつしかいないっていうのにッ……」 顔をそらしたアスランは、右手で固くシーツを握り締める。その言葉に、眉を潜めたカガリの手からは僅かに力が緩んだ。 「……思い出を……共有……だと?」 「……ああ……。 あいつとは……キラと俺は……幼馴染だ……。 月の幼年学校では……いつも一緒だったんだ……」 静かにアスランの頬を伝う涙。 「ならなんでッ! 余計なんでお前達が戦わなきゃならないんだよ! 小さきときからの友達だったんだろ? 仲良かったんだろ? そんな奴らが何でお互いに銃を向け合って、命の奪い合いをしなきゃならないんだよォッ!!!!」 『戦争の根を学べ』 以前言われた父からの言葉、それが今のカガリには重くのしかかっていた。 そして室内に、少年と少女、失われた1人の少年を思っての嗚咽が大きく、哀しく木霊した。 ![]() 黒マント製作機から うわぁ、キラどころかヒロインも出てきやしねぇ。<名前変換はかろうじてあるけど。 そして書き始めて思い出す、オーブではヒロイン側を書いたから、ウズミ様たちが出てきてねぇっ! というわけで、ウズミ様の名台詞はカガリの回想のみで使わせていただきました。 ご覧のとおり、うちのカガリちゃんはキラを猫可愛がりしております。 恋愛感情は皆無ですが、興味は持ってる。カガリにとってキラは何となく放っては置けない存在なんですよ。 To NEXT |