トップガンだな
 そう言ったのは、今まで直属だった部隊の上司。


今度は、俺がお前を部下にしてやる!
 見送ってくれたのは、いつも何かと張り合ってきた1つ上の同僚。


 幼馴染の親友を殺して手に入れたものは、ネビュラ勲章という小さなメダルの栄光と、国防委員会直属の特務隊転属という新しい立場。
 ――どうして人を殺して、褒められなければならないのか。
 今までは不思議に思わなかったことなのに、それが当然のことと思っていたのに、今のアスランにはそれが苦痛で重たいもので、邪魔なものでしかなかった。
 プラントへ向かうシャトルの中。カバンの中には、キラを殺して与えられた勲章が収められている。そんなものは捨て去りたいと思う反面、それを行動に移せない思いを代弁するかのように、アスランはそれを膝の上に置いたままにしていた。

 ボンヤリと窓の外を見ていた彼の目に、一筋の青い光が飛び去って行った。思わず身を乗り出してその機体の先を追うが、青い機体は青い星へと吸い込まれていってしまった。

「……MS……?」

 すれちがった一瞬にはっきりと捉えられた。
 ボディフレームはまるで、今までの愛機にどこか似ているような形状で、でも似ていなくて。アスランはそれに魅入られたように、少しの間動けなかった。






「どういう命令を受けてるんだ!」

 奮戦を続けるAA、その右舷カタパルトに突っ込んできた被弾した友軍機。ヘルメットをむしりとって飛び込んできた『どっかのバカ』ことムウが怒鳴った。

「……少佐……あなた転ぞ」

「そんなことはどうだっていい! それよりも守備軍はどういう命令を受けてるんだ!
 すぐに撤退だ! この海域から離れろ!」

「……え……?」

 首を僅かに傾げるマリュー。目の前の彼女も、周りにいる者も何の疑いも持っていないのだ。
 ムウはマリューの両肩を掴んで、深呼吸した後。

「いいか、よく聞けよ。……本部の地下に『サイクロプス』が仕掛けられている。
 それも、作動したら半径10キロは溶鉱炉になるサイズの代物だ!」

 マリューのみならず、以前から軍属にあるものはその言葉の意味を理解して表情を強張らせる。

「……サイクロプスって……?」

 サイが問いかける。

「強力なマイクロ波発生装置といえば、工業カレッジにいたお前達ならわかるな?」

 搾り出されたチャンドラの言葉に、学生達も一斉に意味を理解した。

「俺達に……ここで死ね……と……?」

「誰もいないことを悟られないように奮戦してな。……もう本部の中には誰もいない。
 いるのはユーラシアの奴らと、向こうの都合で切り捨てられた立場の奴らばかりさ」

 かすれたようなノイマンの声に、ムウは悔しそうに事実を告げる。
 その間にも、自動設定にしてあるイーゲルシュテルンが閃光を生み出すが、それに照らされたブリッジで動くものはいない。


 守るべきものもない――。
 援軍は来ない――。
 奮戦して散れ――。


 言葉どおり、死ぬ思いをしてたどり着いた先で待っていたのは、いたわりでもなく、ねぎらいでもなく、敵をおびき寄せて戦って死ねという命令とともに残された裏切りのみ。
 一体何のためにここまでやってきたのかわからなくなる。

「こういうのが作戦なの……?」

 ポツリ、ポツリと、泣きそうな顔で問いかけてくるミリアリアに、上官たちは咄嗟に何も答えられない。
 爪跡が残るぐらいまでにアームレストを握り締め、そしてマリューはひとつの結論を導き出した。



「……ザフト軍をおびき寄せるのが命令だというのなら、すでにその任を果たしたと判断します。
 本艦はこれより、現戦闘海域を放棄、離脱します!
 僚艦に打電、『我に続け!』――機関全速、取り舵、湾部の左翼を突破します!」

 次々と出された命令に、ブリッジは再び動きを取り戻す。

「心配しなさんなって、俺も出るから」

 振るえ出さないように拳を握り締めるマリューの肩を、ムウは軽く叩いて、ブリッジを走り出ていった。






「……何が起こってるんでしょうね……」

「っかさ、捕虜の俺達の扱いってのはどうなってるわけ?」

「ディアッカは殺されたかったんですか?」

「んなわけないだろっ!」

「でも、本部に着いたはずなのに何も言ってこないのはおかしいですね。
 しかもこの揺れ……、まさか戦闘中なんでしょうか?」

 それぞれの檻の中、たちは言葉を交わす。

「戦闘中だとしても、俺達が出るわけには行かないしなァ……」

「バスターは被弾して壊れてるんでしょ? 敵軍の機体を直しているとは思えませんけど」

はどうなんです? あれはれっきとした地球軍の……」

「無理よ。補給ができたらすぐに出られるけど、大気圏内で動きが制限されるもの。
 それに……もうあんな人たちのために戦うなんてゴメンだわ」

「この艦が沈んでもいいんですか?」

「それはそれでいいんじゃない? それも運命だったってことで」

「……、お前、あれだけ守るって言ってたじゃないか」

「もう守るべきものはなくなっちゃいましたしね。
 ……皆さんと敵対して、同胞の命を奪い去る決意をしてまで守ろうとしていた人たちに、
 『死ねばよかった』なんて言われたら、さすがにもう命かける気は起きませんよ」

「……約束……してたんじゃないのか?」

「いいんです、もう……」

 ディアッカの言葉に、はベッドの上で膝を抱えた。

「キラ先輩と約束したことは終わったんです。先輩との約束は『アラスカまで』だったんです。
 ……それに……反故にしたのはあっちですから」

 微かに揺れが伝わってくるだけの場所で。
 外の情勢がどんなものになっているのかも知らずに、ディアッカ、ニコル、の会話はそこで終わった。



黒マント製作機から
 ちょっと切ります!




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