JOSH−A・メインゲートがついに堕ちた。
 明け渡すようにして動き始めたAAとその僚艦に、MS部隊、横一列に並んだ潜水母艦からの攻撃が続く。
 ムウのスカイグラスパーがディンの翼を打ち抜くが、それは焼け石に水にしかならない。おまけに、グゥルに乗ったデュエルまでが現れ、彼は毒づきながらも攻撃の手を緩めることはしなかった。



「リューリュク、自走不能!」
「ロロ、撃沈!」

 次々と飛び込んでくる僚艦の絶望的な報告。

「艦稼働率43パーセントに低下!」

 しかし止まることはできない、許されない。
 そうでなければ、折角ここまで生き延びてきた意味が無駄になってしまう。

「ウォンバットてぇーッ! 機関最大、振り切れぇーッ!」

 すでにブリッジの誰もが足音を忍ばせて近付いてくる死に恐怖し、パニックを起こしかけている。しかし、それを振り払うかのように、マリューは声を張り上げた。

「推力低下、艦の姿勢を維持できません!」

 悲鳴混じりのノイマンの声。
 ついに死神に片足を掴まれたのか、そんな思いがクルー達を恐怖の崖っぷちへと追いやっていく。



 そのとき、攻撃をかいくぐったジンが、AAブリッジの窓に肉迫した。
 向けられた銃口、それを拒否するように固く目を閉じるもの、逆に恐怖から目を開いたままで動けないもの、少しでも逃げ出そうと腰を浮かせるもの、最後の抵抗とばかりに睨みつけるもの……。
 ここの反応はそれぞれでも、収束していくエネルギーは止まらない。










ズガァン!!!!!!










 いきなり起こった至近距離の爆発。
 その音はブリッジクルー達の聴力を一時混乱させた。

 ジンも何が起こったのかわからずに上を見上げ。
 すると舞い降りてきた何かによって、その頭部を切り飛ばされた。

「……援軍……?」

 背を向けていたそれに、ポツリとマリューが呟いた。
 AAに向けられていた脅威を排除したそれは、くるりとブリッジを振り返る。



白い四肢、胴体は灰色と赤のツートン、4本のアンテナをのばした頭部はXナンバーに似ているようで似ていない。青い翼を広げた機体は、戦場に舞い降りた天使を思わせた。



<――こちら、キラ=ヤマト>



 唖然としたままで未知の機体を見つめていたクルー達の元に、飛び込んできたのは聞き慣れた声。

「……キ……ラ……?」

<援護します。今のうちに退艦を!>

 今は詮索無用とばかりにブリッジに背を向けた機体は、両側の翼から出てきた砲身から、両腰に付いた砲身から、そして手にしていたビームライフルから。一斉に光を放ち、敵軍の攻撃力のみを奪っていく。

「すっ、すげぇっ……」

 トールの洩らした言葉はクルー達みなの気持ちを代表していた。
 圧倒的な火力、その威力、そして、一瞬にして複数箇所をターゲットロックするキラの能力。

<マリューさん、早く退艦を!>

 動かないAAに焦れたようにキラの声が入る。それが意識を引き戻した。

「だ、だめなのっ……本部の地下にサイクロプスが……私たちは囮に……知らなかったの!」

 うまく言葉にならないもどかしさを感じつつ、マリューは要点のみを彼に伝えた。
 そうすると少し考えたようなキラが次に取ったのは―――――。



 敵味方なく皆に伝えるための、全周波によるこの場からの撤退指示だった。



「下手な脅しをッ……」

 急に現れた未知のMS。その姿や威力に圧倒されながらも、イザークはAAを守っているそれを敵であると認識していた。
 デュエルを乗せたグゥルは、なおも呼びかけを続けている機体へと突っ込んでいく。

<止めろといっただろう!>

 横に一閃されたビームサーベル。それが間違いなくコックピットを両断すると思っていたとき、不自然な軌道を描いてそれは反れた。
 胴体の代わりにデュエルの両足を奪った機体は蹴り落し、それを下にいたディンが受け止める。

<……もう止めるんだ……>

 スピーカーから流れてきた苦しそうな声は、イザークには自分達と同じ年頃の相手のように思えた。そして、ディンのパイロットに促され、デュエルはそのままその場を離れていった。





「サイクロプス起動ーーーーーーッ!!!!」

 悲鳴のようなサイの報告。

「機関全速、退避ーッ!」

 命令されるまでもなく、皆が死に物狂いだった。
 基地中心部から静かに広がっていく王冠は電磁波の影響か。青い光の中で次々と動きを止めるMSは次の瞬間には爆発して、建物は砂の城のように崩れ落ちていく。
 僅かに遅れた1機のジンを、キラの操るMSが捕まえ、加速する。
 もうすでに敵味方なく、その場からの退避が最優先であった。少しでも足を止めたら飲み込まれる。それがわかっているからこそ、ボロボロのAAも残されているだけの力を振り絞った。



 そして。
 グランドホローのあった場所を中心とする半径10キロにも渡る巨大なクレーターが北海に誕生した。
 大量の水蒸気を巻き上げ、狂ったように揺らめく7色のオーロラを生んだそれは、ナチュラル・コーディネイターそれぞれ大勢の命を奪い千切ったという証だった。





 AAはそんな場所から少し離れた小島に突っ込むように着底していた。
 誰しもが助かったという安堵からか大きく息をついたあと、マリューを先頭にするようにして艦を降りた。側に着陸したスカイグラスパーのムウも降りてくる。
 翼を持ったMSは、AAに近い内陸部にいた。ブリッジで見たときと色が異なっており、どうやらあの機体にもPSが使われていることに気が付く。
 ヘルメットを取り去ったパイロットの少年は、隣のMS・ジンからそのパイロットを引きずり出していた。時はすでに遅かったのか彼は息を引き取ったらしく、少年が悔しそうに地面を叩いた。が、立ち上がった彼は、マリューたちの元へとゆっくりやってきた。

「間に合って、よかったです……」

 皆の沈黙に耐え切れなくなったのか、茶色の髪の少年はぎこちなく微笑んだ。

「……本当に……キラくん……なの……?」

 マリューの問いかけに、静かな笑みを称えたままのキラはゆっくりと、それでもしっかりと頷いた。

「キラァっ……」

 はじかれたように飛び出したミリアリアが彼に飛びつき、彼女ごとキラを抱きしめるトール。そして、ブリッジクルー達や整備員の皆が彼の生還を祝った。
 輪の中心でもみくちゃにされるキラを、少し離れてサイとカズイが見つめる。

「お帰り、キラ」

 サイの呟きは風に乗って、キラの耳へと届いた。しかし、振り向いた彼の視線が何か言いたげに見えたのは、サイの気のせいだったのか。

「マリューさん、の姿が見えませんが……」

 辺りを見渡した後に発せられたキラの言葉。それに反応して、びくりと体をこわばらせたミリアリアに彼は気が付いていない。

「わかってるわ。……キラ君も色々と言いたいことも聞きたいこともあるでしょうしね」

「ええ」

「……お前、ザフトにいたのか?」

 ムウの言葉に、皆が改めて気が付いたというように顔を上げた。確かに彼が身にまとっているのは、ザフトレッドのパイロットスーツ。

「そうですけど……でも、僕はザフトではありません。――――――そして、もう地球軍でもないです」

 予想通りの答えだと、マリューは思った。
 艦長という役名でも少佐という地位でもなく、普通の知り合いに呼びかけるようにされたときから、全周波で撤退指示を出した彼を見たときから。

「とにかく話をしなければ何もわからないわ。とりあえずAAに戻りましょう?
 キラ君、あの機体はどうすればいいの?」

「補給や整備のことをおっしゃっているのなら、今のところは不要でしょう。
 あれにはNジャマーキャンセラーが搭載されていますから……」

「核で動いてるっていうのかッ……」

 『Nジャマーキャンセラー』、その一言は皆の顔から表情を奪い去った。確かに『Nジャマー』を開発したのがプラントである以上、それを打ち消すことのできる装置も作ることができるが……。

「データを取りたいとおっしゃるのでしたらお断りして、僕は今すぐここを離れます。
 奪おうとなさるのでしたら、敵対してでも守ります。
 核の強大な力を再び使わせてはならない、この機体を託された僕の責任です」

「……わかったわ。それでは今後一切、あの機体には手を触れないようにします。皆、いいわね?」

 静かな紫の瞳の奥に込められた決意に抗えるわけもなく、マリューの言葉にその場にいた全員が頷いた。



黒マント製作機から
 キラが帰還したけど、ヒロインと接触できず〜〜〜。
 すいません! 次では必ず!




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