「それが作戦だったっていうんですかっ?」

 マリューたちの話を聞き終えて、キラは思わず身を乗り出した。改めて口にしてみると、説明をした士官2人も同じ思いに囚われる。
 AA艦長室には部屋の主であるマリュー、そしてムウとキラの3人しかいない。キラはブリッジで話しても構わないと言ったのだが、マリューはそれを拒んだ。





「……どうしてそんなひどいことをッ……こんなことをしたって戦争は終わらないっていうのにッ……」

 着慣れた地球軍の制服姿となったキラは、きつく拳を握り締めた。

「キラ……それとだな……お前にはもう1つ悪い知らせがある……」

「え……?」

 静かに口を開いたムウに、キラは戸惑いの眼差しを向けた。

「お前さっき、島でのことを口にしたよな?」

「はい。でもそれが何か?」

「……は、もういないんだ……」

「嘘、ですよね……?」

 搾り出されたムウの言葉に、後ろに数歩よろめいたキラは縋るような目をマリューに向けた。今のムウの言葉を否定して欲しい、その願いだけを込めて。

「……本当よ、キラ君……」

「だって、だっては無傷であったじゃないですか!
 彼女と約束したんですよ! 一緒にAAを守るって! 絶対守ってみせるって!」

 身を乗り出したキラは、マリューの襟元に掴みかかる。

「キラ、やめろっ! 落ちつけッ!」

「これが落ち着いていられますか! 僕は、僕はッ……」

 マリューから手を離れ、机の上に置かれた拳。そこにボタボタと水滴が落ちる。

「僕はまだあの子に何も伝えてない、ちゃんと謝ってないッ!!!!」

 島で見た顔が大人びたように見えたのは、自分が進むべき道を決めたせい。
 だが、今ここにいる彼は、拳を握り締めて泣き崩れる姿は年相応の少年。



「キラ、はもういないとは言ったが、死んだわけじゃないんだ」

 その言葉にガバッと飛び起きたキラ。

「………………もしかして、僕を騙して楽しんでますか?」

 背中から湧き上がる黒いものに恐れを感じつつ、ムウは言葉を続ける。

の横にいたブリッツとバスターには気が付いたか?」

「あ、はい」

 袖で涙を拭いながら、キラは頷く。

はそのパイロットたちと一緒に、地下牢に入ってる」

「なんでっ!」

「……それはね……」

 静かに告げられた言葉に目を見開く。



 本部の査問委員会に連れていかれたこと―――。
 そこで起こったこと―――。
 逃げ帰った先で、AAで行われてしまったこと―――。
 それを目撃したがどうなったか―――。




「今の俺たちには、あいつを謹慎という形でしか皆から引き離す手立ては思い浮かばなかった。
 も他の奴らと一緒にいたくなかったようだしな。
 それに……暴れるを押さえるために手伝ってくれたブリッツのパイロット。
 そいつがな、ハウ二等兵に、敵意むき出しで怒ってたんだ。
 どうやら、彼女がお前が死んだものと混乱して、に対して何か言ったらしいんだがな……」

「そう、ですか……」

「キラくん。
 貴方がどうやって助かって、なぜプラントに行って、そこで何があったのかはもう少し後で聞くわ。
 今は少し休んで、ね?」

「……すみません……」

 自分がいない間に、友人たちとの間に何が起きたのかわからない。
 あまりにも表情を失ってしまったキラが気の毒になり、マリューは話を打ち切った。






 僕は以前与えられていた部屋と同じ部屋を使わせてもらえることになった。
 真っ白いシーツの上には小さな段ボール箱が1つ。
 ……死んだと思われていたんだから、身の回りのものを片付けられているのは当然で。



『トリィ』

 飛び込んできた小鳥が、僕の肩に止まる。

「……なんかさ、電源切っちゃうのももったいなくって、ずっと俺のところにいた。改めて、お帰り」

「あ……ありがとう……」

「お前さ、なんかさっきからぎこちないぞ? 俺に何か言いたいことでもあるんじゃないのか?」

 つかつかと歩いてきたサイの指が、僕の鼻頭をはじいた。

「サイ、フレイが行っちゃって寂しいんじゃないの……?」

「まぁな。でも、命令だっていうなら仕方ないし。……彼女はアルスター家のお嬢様なんだから。
 本部としても、前線で命のやり取りをさせたくはなかったんじゃないか?」

「……そうだよ、ね……」

「フレイと何かあったのか?」

「え、何でそう思ったの?」

「キラがあの子のことより先にフレイのことを聞いてくるなんて、どっか変だと思ったし」

 ―――――ドクン、ドクン、ドクン。
 心臓の音がサイにも聞こえるんじゃないかと思えるぐらい、激しく鳴り響く。
 聞きたくない、確かめたくない。……それでも言わなきゃいけない、聞かなきゃいけない。

「……あのね、サイ、君はフレイになんて言ったの?」

「なんてって何を?」

「アラスカ前の最後の日の朝、フレイは僕に言ったんだ。
 ……フレイは僕のことが好きで諦めきれないって……。だから、サイの元にもいけないって……。
 1回だけでも抱いてくれたら、それで諦められる。サイもそれを望んでるって……」

 その言葉を聞いていた彼の顔から、はっきりと色が失われていくのがわかった。

「その言葉を鵜呑みにして、お前はフレイを抱いたのかっ!!!!!!」

 いつもの彼からは想像できない気迫。僕は襟首をつかまれ、壁に押し付けられた。

「……ごめん」

 それ以外の言葉は見つからない。

「……過ぎたことだから、俺はもう何も言わない……。
 真相を問いただそうにも、もう1人の当事者はここにいないしな。
 だけど……お前がそういう行動に出たのなら、あの子がどういう行動に出るかは知らない」

「わかってるよ、そして僕にはそれを止める権利も咎める権利もないって言いたいんでしょ……?」

「お前がフレイを抱いたってこと、あの子は知ってるのか?」

「出撃前に指摘してくれたよ……。真新しいキスマークがついてるって」

「そっか……」

 サイはふーっと息をついて、僕の襟から手を離してくれた。

「艦長たちから、本部の査問委員会でのこと、AAでのことは聞いたか?」

 僕が小さく頷いたら、サイは言葉を続けた。

「俺はミリアリアがどう言ったのかは知らない。
 トールやカズイも聞いてないって言うし、いくら聞き出そうとしてもできなかった。
 でも、緑の巻毛の子の怒り様はハンパじゃなかった。
 ミリアリアはあの子に、相当キツいことを言ったんだと思う。
 キラ、お前からそれとなく聞き出してみてくれ」

「……話してくれるかな?」

「お前がらみでのことだ。俺たちには無理でも、お前なら話してくれるかも知れない」



黒マント製作機から
 ちょっと長くなってきたので切ります。




To NEXT