「……何も、ああいうことをした次の日に、あんな態度を取らなくてもいいじゃないかっ……」

 姿が見えなかったら少しは収まると思っていたのに、それは逆効果だったらしくて。
 行き場のない怒りを抱えたままの僕は、マニュアルを持っていない手で頭をかきむしった。

「坊主ー、艦長が呼んでるぞー。話聞きたいから、ブリッジまで来いってさー」

「わかりましたー」

 マードックさんの『坊主』って声も久しぶりだ。そんな些細なことが、僕が今いる場所を教えてくれる。
 ザフトでもプラントでもなく、AAに帰ってきたんだということを実感させてくれる。
 ラダーを使って下に降りて、声をかけてくれるそれぞれに短い返事を返しながら、僕はブリッジを目指した。





「遅くなりました」

 どうやら僕が一番最後だったらしい。申し訳なさに少し首をすくめると、ドアの脇の壁際にが立っていたことに気がついた。……しかも、隣の彼の腕をしっかりとつかんでいる。
 見ていられなくて、胸が痛くて、僕はさっと視線を反らした。

「キラ君。昨日聞けなかった話の続き、ここで聞かせてもらっていいかしら?」

「はい」

 イージスに小島に蹴り落とされたこと。何度も刃を交えて、途中から相手を殺すつもりで戦ったこと。
 組み付かれて逃げられなくなって……。

「その時の爆発で、僕も自分が死んだものだと思っていました……。
 イージスのパイロットは脱出していましたが、それが間に合ったのかどうかもわかりません……。
 爆発のショックで気を失った僕が次に意識を取り戻したのは、プラントでした」

「プラントぉ?」

「……またえらく遠くまで飛ばされたもんだ……」

 カズイの上擦った声に、ムウさんが感心したんだか呆れたんだかわからないような呟きをもらす。
 それに対して、僕は苦笑を禁じえない。

「違いますよ。……たまたま僕とアスランの戦闘を見ていたジャンク屋がいたんだそうです。
 それで爆発で動かなくなったストライクから非常用シャッターをこじ開けて、僕を助け出してくれて。
 そのあと、マルキオ導師の伝導所へ送り届けてくれたんです。
 そこから彼がプラントまで連れて行ってくれた先がクライン邸、ラクスの家でした」

「ラクス・クラインって……あのユニウスセブンで拾ったポッドに乗っていた子よね?」

「ピンクの髪の女の子だよな? あのほわほわとした感じの」

「マルキオ導師と彼女との関係は知りませんが、とても親しい間柄のようです。
 彼女が以前、AAにいた時の事をあの人に話していたらしくて、それで僕を連れていったのだと聞きました」

 僕の話を、ブリッジクルーのみんなや、マリューさん、ムウさんは時折頷きながら聞いている。
 ちらりと見たは、居心地が悪そうに顔をしかめていた。相変わらずニコルの腕にしがみついていることにイラ立つけれども、何とかそれを表に出さないように頑張る。

「で、お前は治療のためにクライン邸にとどまっていたんな?」

「ええ……。彼女は僕がアスランと戦ったことについて、怒りもしなければ責めもしませんでした。
 取り返しのつかないことをしてしまって泣く僕に対して、ただ『敵と戦ったのでしょう?』と言っただけで。
 幸い、時間だけはたくさんありましたから、それからずっと考えていたんです。
 自分があの場所にいていいのか、いるべき場所はどこなのか、やらなきゃいけないことは何なのか、
 自分が本当にやりたいことは何なのか、色々と考えました。……そして、あの知らせを受けたんです」

「何、知らせって?」

「いつものように庭に出て考えていた僕の元へ、ラクスがティータイムに誘ってくれたんです。
 そこには地球に戻ることができないマルキオ導師もおられましたし、後からシーゲルさんも現れて……。
 それまでは普段通りだったんですが、そこに、1本の通信が入りました」










『シーゲル=クライン! 我々はザラに欺かれた!
 発動されたオペレーション・スピットブレイクの目標は、パナマではなくアラスカだ!』










「この一言を聞いたとき、僕の震えは止まらなくなりました。
 それと同時に自分が今どこにいるべきで、やらなきゃいけないこと、やりたいことにも気がついたんです」

「ちょっと待て、それってプラントでもアラスカを狙うってことを知ってたのは……」

「ノイマンさんの気付いた通りです。
 ……プラント最高評議会の中でも一部にしか知らされていませんでした。
 何をやるべきか気がついた僕は、地球に戻ることにしたんです。
 ラクスには『僕一人が行ってどうなるんだ』って言われましたけどね。
 『何もできないって言って、何もしなかったら、もっと何もできない。だから行くんだ』って告げて。
 その後、僕は彼女に導かれるままに、ザフトの制服を着せられ、秘密工廠に連れて行かれました。
 そして託された力が、あのMS……ZGMF−X10A・フリーダム。
 Xナンバーの技術を転用して開発された、ザフト最新鋭の機体です。
 工廠を飛び出して一気に飛んで……その後は皆さんが見ていた通りになります……。
 こんな感じでいいでしょうか?」

 マリューさんの方を見ると、彼女は優しく笑ってうなずいてくれた。

「ヤマト、質問があるんだけどいいか?」

「僕に答えられることでしたら」

 そう言って、僕は手をあげたトノムラさんの言葉の続きを促した。

「さっきの話の中で、お前、イージスじゃなくてアスランって言ってただろ?
 前に砂漠で少尉が言ってたのも、同じ名前じゃなかったか?」

 そう言えば、確かにそう言ってた気もする。ついつい名前が出てたのかな……。
 他の人も聞きたそうにこちらを見ているし……。まぁ隠しておくのもそろそろ潮時かな。

「イージスのパイロット・アスラン=ザラは、僕の幼馴染であり、大切な親友です。
 僕の母とアスランのお母さんが友達で、コペルニクスでは4才から13才までの9年間を共に過ごしました。
 3年前、コーディネイター第2世代のアスランはプラントに移住しました。
 でも、両親がナチュラルの僕は中立のヘリオポリスへと行くことになりました。
 別れてから連絡も取れずにいましたが、3年後に偶然再会したのが、モルゲンレーテだったんです」

「え、それってどこなの?」

「ストライクの上で撃たれたマリューさんの側に、僕が駆け寄ったとき。
 覚えてませんか? ナイフを振り上げて突っ込んできたザフト兵が動きを止めたの……」

「……おぼろげに覚えてはいるけれど……あの時の彼?」

 僕は小さく頷いた。

「だったら、お前もそいつも、自分が戦ってる相手が誰かってことは最初から知ってたってことか?」

「わかっていました。それでも、僕はAAにいることを望んだから……」



黒マント製作機から
 ちょっと切ります。


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