広い庭には不釣り合いなほどの人数。式の出席者はお父様を始めとする叔父たちオーブ首長家の皆。そしてAAから連れてきた2人ぐらいなもの。
 中央に設けられた祭壇の前に立つ白いタキシードのラスティとかいう男の横に、やはり白いドレスのが小さなブーケを手に並んでいる。

……」

 司祭の重々しい祝辞と共に、ついに結婚式は始められた。
 まっすぐに前を見ているラスティとは対照的に、のヴェール越しの顔は少しうつむいていたが、小さく唇を噛んでいる様子が、はっきりとわかった。それが痛ましくて、何も助けてやれない無力さを感じながら、私は自分のドレスを掴み握りしめる。
 同時に、会場に来ているはずなのに姿を表さないキラに対しても、こみ上げてくる憤りを覚えていた。





「君は今、他の男になるための祝辞を、どんな気持ちで聞いているのかな……」

 庭から少し外れた場所の木の上で、僕は風に乗って流れてくる響きを聞いている。
 一言一句が神聖なものでも、当事者じゃない僕にとっては、ただの煩わしい説教にしか聞こえない。

「……時間かな……」

 腕時計を見た僕は飛び降りると、会場へと歩きながら、内ポケットから出した小型コンピュータのエンターキーを押した。





「主任、大変ですッ!」

 キラがエンターキーを押したのと同じ頃。
 モルゲンレーテの研究室で新しいプログラムを組み立てていたエリカ=シモンズ主任は、慌てて転がり込んできた研究員に目を丸くした。

「何があったの?」

「M1がっ……M1アストレイがっ……」

「アストレイに何があったのッ?」

 オーブの守護神ともいうべきMS、その名前が出て、エリカの表情が変わった。

「……アサギ、ジュリ、マユラの各パイロットを乗せた機体、バッテリー充電済の全機体が………」

「だから何、何が起こったの?」

「一斉に阿波踊りを始めましたッ」





「何ですってぇぇぇぇぇぇ????????」




 さすがに予想していなかった事態に、彼女の声は軽く1オクターブは上がった。

「それで、アサギたちの確認は?」

「取れてます。3人とも無事です」

「動き始めたのは何体?」

「現在わかっているだけでもパイロット搭乗機が3体すべて。あとはメンテナンスベッドにいた約10機……」

「ちょっと待って、それじゃあパイロットなしで動いてるって言うの?」

 工場へ向かって走っていたエリカは立ち止まった。

「はい。自分で接続プラグを引き抜いて踊り始めて……。
 それと、動き出したアストレイには共通点がありまして……」

「え?」

「あの、ストライクのパイロットが作ったサポートOSが搭載されているということで……」

 それを聞いたエリカの脳裏に、いかにも人畜無害な表情を向けていた彼の笑顔がよぎった。





 モルゲンレーテの騒動は、ウズミたちの元にも届けられた。

「阿波踊りだと、そんな馬鹿なことはありえん。アストレイの管理はどうなっている!」

『それが、何らかの信号を受信したらこちらの指示を受け付けることなく動かせるようにしてあったようで』

「何だと、それはどこの誰の仕業だ!」

『……サポートOS開発者です……』

 ホムラの剣幕に、モニター越しの研究員は気の毒なほど首をすくめていて。その後ろを、踊りながら横切っていくマユラ機が写って。
 思わず顔を引きつらせた首長一同。その横でカガリは思わず吹き出した。、ニコル、ディアッカ、ラスティは滑らかな動きと見事な踊りに言葉を失っていて。
 最早、結婚式の最中であったことを思い出すものはいない。取り残された司祭が祭壇の前でぽつんと立ちつくすだけ。

「楽しんでいただけています?」

 ニコニコと現れたのは、紫の目の少年。

「ようやく来たな、キラ」

 駆け寄ったカガリに軽く胸を殴られ、キラは柔らかな笑みを浮かべた。

「お、お前が開発者のキラ=ヤマトかっ!」

「そうですよ。実際に皆さんにお会いするのは始めてでしたっけ。
 前GAT−X105ストライクパイロット、現ZGMF−X10Aフリーダムパイロットのキラ=ヤマトです」

「ばかもん! 挨拶より先に、あのばかげた行為をすぐ止めろ」

「ホムラ叔父、そんなに怒ってるとまた生え際が後退するぞ」

 カガリの言葉に、彼以外の一同は思わず吹き出す。ウズミですら例外でないのだから、ホムラは押し黙る。

「それで、お前は何をしにやってきた?
 ただ、モルゲンレーテを混乱させるためだけに来たわけではないのだろう?」

 ウズミの静かな言葉に、キラは彼の方を向いた。他の者は成り行きを見守るように静かにしていた。

「僕はを取り戻しにきただけです。
 アストレイを動かしたのは、式を中断させるきっかけが欲しかっただけですから」

「それじゃ、お前はを攫いに来た悪者か?」

「……そうかも知れません。でも、僕は無理強いして連れて行こうとは思ってませんから」

 彼女をさり気なく背中に庇ったラスティの言葉に、キラは笑みを絶やさないままで言う。
 そして、アストレイに阿波踊りをさせていた信号を終了させてから。

、君はどうしたい?
 ここに残って彼と結婚する道を選ぶのなら、僕はここで素直に帰るよ」

「……へぇっ。それでどうするつもりですか?」

 ラスティの影から一歩進み出てきたが、ヴェール越しのキラの顔をじっと見つめた。

「AAに戻るだけだけど? あそこにはまだ僕が守らなきゃいけないものがある」

「私は……キラ先輩は私を守るために帰ってきたって言いましたよね?
 また、今回も約束をたがえるんですか?」

「今回のは約束じゃなくて、僕の誓いであり、願いみたいなものだったから。
 が僕以外の人に守って欲しいと思ってるんなら、押し付けたくないから諦めるだけ」

 両者無言のまま、そして周りも無言のままで時は流れる。








































 そしてそれに終止符を打ったのは、流れてきた鐘の音だった。

「おお、もうこんな時間か。ウズミ様、皆々様、申し訳ありませんが私はこれで失礼させていただきます。
 これから30分後には、ハウメアの神殿で夕刻の礼拝を執り行わなければならんのでな」

「お時間を取らせて申し訳なかったのはこっちです」

 司祭が数人の弟子を連れてその場を去っていく。

「じゃあ、そろそろ僕も帰るね。の答えはもう出てるようだし。
 ウズミ様、皆様、本当にお騒がせしました。
 ラスティさん……だっけ。結婚式を邪魔してしまって済みませんでした」

 キラは深くお辞儀をして、彼らに背を向けて歩き出した。

、本当にいいのかっ?」

「キラさんと別れていいんですか? 彼が好きなんでしょう?」

「……ディアッカ、ニコル、は俺を選んだんだ。お前達がもうとやかく言わないでくれ」

「そう……ですね……。じゃあ、僕たちもAAに戻りましょう」



 そして、広い夕焼けの庭には、2人だけとなる。
 俯いたまま、自分の袖を握り締めてくるの肩にラスティは手を回した。
 彼女の滑らかな頬に唇を寄せようと、ラスティはのヴェールを持ち上げて動きを止めた。

「……あれ……、私……なんで泣いてる……んでしょう……」

 自分でも信じられないといった風に、は右手で流れ落ちる涙を押さえた。

「泣くなよ。俺がお前を守ってやるから、これからあいつの変わりにずっと……。な?」

「ありがとうございます。……でもやっぱり……やっぱりラスティさんじゃだめなんです」

「わかってる。そー言われると思ってたんだよぁ。ホラ、俺ってカンがいいから。
 さっき、あいつが現れたとき、の口元が小さく微笑んだの見てるし」

 『ホラ、ちゃんと謝って来るんだよ?』と、ヴェールの上からラスティはの額に軽く口付ける。大きく頷いて走り去っていく彼女を見送る彼の横に、長身の男性が現れた。



「君にはそんな役どころをさせてしまってすまないな」

「いいえ、こちらこそ。
 せっかく遺伝子再調査というお手数までおかけさせてしまったのに、結局フラれちゃいました。
 でも、今から行って間に合いますかね?」

「こちらが頼んでいなくても、うちの娘が引き止めているさ」





 私は小さい頃の記憶を必死で総動員しながら、玄関を目指して走った。
 すでにヒールは走り辛いので脱ぎ捨てているが、毛の短い絨毯の敷き詰められた廊下では痛みはない。もうすでに屋敷から帰ってしまったかもしれないけれど、それでも私は精一杯走った。

「このドアだッ……」

 外に出るための大きなドア。一息深呼吸して、私は観音開きのドアを力いっぱい押し開けた。

「いだっ!!!!!!」

 鈍い音とともに、人の声。どうやら私が開いたドアに、誰かがぶつかったらしいけど……。すごい音したし結構ひどくぶつけちゃったみたいで……。

「……ご、ごめんなさい……」

、お前ッ……」

「え?」

 後頭部を抑えた人が振り返る。それは、すでに帰ってしまったんじゃないかと思っていた彼で。

「さっきの、キラ先輩の頭にぶつけちゃったんですね。ちょっとみせてッ……」

「触っちゃ駄目」

 私が伸ばした手は、やんわりと押し返された。

「キラ、は心配して……」

「でも、誤解されちゃうでしょ。僕だって、自分以外の男に彼女が触れてたらイヤだし。
 彼女でない子に触られるのもイヤ…………え?」

「……もう、私のことは好きだって言ってくれないんですかっ……」

 後から後から、涙が溢れてくる。止めようと思っても止まらない。

「もう、私から触ることさえも許してくれないんですか……?」



 いつの間にかカガリの姿はなかった。ここまで全力で走ってきたのだろう。
 綺麗に整えられていた髪は崩れ、ティアラは半分ズレ落ち引っかかっている状態。さっき別れたときに見た白いサンダルは、脱ぎ捨てられていた。

「……は一体何がしたいの?」

 びくりと跳ね上がった肩を視界に捕らえたけれども、僕は言葉を続けた。

「はっきりと言ってくれなかったけど、はラスティさんを選んだから、ずっと彼の袖を握ってたでしょ?
 なら、もうこれ以上、僕が『好きだ』って気持ちを押し付けるわけには行かないじゃない。
 ……いくらなんでも、人妻に気持ちを押し付けるわけにはいかないよね」

「違うッ! 私はッ……」

 短い叫びとともに、僕の胸に飛び込んできた彼女。しっかりと背中に手を回されてしがみつかれて、離すことは出来ない。

「私はラスティさんを選んだわけじゃない。私が好きなのはキラだけ、キラだけなのっ……」

「ホントに?」

「うんッ!」

「その言葉、信じてもいいんだね?」

「信じてくれるまで離れない!」

「じゃあ、信じてあげないから離れないでね」

 再び泣き出しそうな目で見上げてきたの目尻に唇を落とし、僕はそのまま呼吸すら奪いかねない深いキスを奪った。



黒マント製作機から
 長いなぁ……。ここまで読んでくださって、勇者と褒め称えます。
 次はようやく本編かな?


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