|
「……今さらどんな顔をして帰ればいいんでしょう……」 「今までと一緒、普通にしていればいいよ。 マリューさんたちも、が出ていくわけがないと思ってたみたいでね。 さっき通信したら『部屋はそのままにしてあるから、安心して戻っておいで』って」 「……でも……」 「大丈夫。は僕の側にいてくれればいいから、ね?」 しかしまだ不安なのか、僕が肩を抱いて一緒に歩いている少女は唸っている。 『仕方ないなぁ』と小さくため息をついた後、通りを外れる。の背中を壁に預け、顔の両脇に手をついて逃げられなくしたら、僕は彼女の瞳を覗き込んだ。 「大丈夫だっていってるのに、僕が信用できない?」 「……そういうわけじゃないですけど……」 「ミリアリアたちのことで帰るのを渋ってるの?」 少し目を見開いた彼女は、やがて小さく頷いた。 「あの時に言われた言葉が単なる勢いからのものだったって、私だってわかってない訳じゃないんです。 キラ先輩には話したことありますよね。 両親が死んだ後、プラントに行くまでに、私がブルーコスモスにどういう扱いを受けてたか」 「……うん。覚えてる」 「あの時も『汚らわしいもの』とか『死ねばいい』とか、何度も言われてたんです。 嫌いな人たちから言われた言葉は、耳や記憶に残らないです。 でも今回の場合、ミリアリア先輩から言われたのがすごいショックで忘れられなくて。 見知らぬ人たちばかりのヘリオポリスで、あの人を姉のように慕っていたのに、余計に怖い人に思えて……。 ……ってすみません! 先輩の大切な友達のことを悪く言ってしまって」 「いいよ。僕はカレッジの友達も大切だけど、一番守りたいものはだって教えてあげたじゃない。 がミリアリアたちと話すのが怖いなら、いつも僕が側にいてあげる。手を繋いでてあげる。 ……だから、AAに帰ろう? 皆が待ってるよ?」 壁から手を離した僕は、そのままの右手と左手を繋いだ。でも、彼女は歩き出そうとする気配がなくて。……そろそろ戻らないと、日が完全に落ちちゃうんだけどなぁ……。 「動かないのなら、ここで歩けなくなるようなコトをしちゃって、お姫様抱っこして連れて帰るよ?」 「なっ……キラのエロエロ変態魔人っ!」 「そんなこと言うのはどの口? いつでも塞いじゃうけど?」 「ごめんなさい」 『塞ぐだけじゃ終わらないくせにっ……』とそんな呟きが聞こえたけれど、とにかく彼女が自分で歩き出してくれた。 脇道から通りへ出ると、僕は再びの肩を抱いて歩いた。 「……ちょっとスカイグラスパーで、迎えに行ってくるか?」 「やめたほうがいいですわね。馬に蹴られてしまいますわよ?」 「でも遅すぎるだろ、これはっ!」 ガリガリと頭をかきむしる彼に、彼女は苦笑を押さえ切れない。 現在のAAブリッジにはムウとマリューのみ。他のブリッジクルーたちは食事を取りに行っている。 「2人とも子供じゃないんですし、もうすぐ帰ってくるんじゃないかしら。 だからお兄さんも、もう少し落ち着くべきですわ。ストレスたまってハゲても知りませんわよ?」 「心配ありがたいが。あいにく、うちの家系にハゲの要素は含まれていないのさ。 にしても、艦長さんは心配じゃないわけ?」 少しふくれっ面のムウに、マリューはニコリと微笑んで。 「今まで紆余曲折ありましたけれど、さんがキラ君を選んだのなら、もう心配ないでしょう。 残っている問題と言えば、さんとヘリオポリスの学生たちの確執。 あれはかなり根強いものになりそうですわね」 「まーな、あのニコルって子も、ハウ二等兵に対して本気で怒ってたしな」 「ミリアリアさんがさんに対して言った言葉。フラガ少佐はお分かりになりました?」 「まぁ、何となくだがな。 ……俺の想像が当たってるとすれば、あのお嬢ちゃんに対して緑の坊主が起こるのもわかる気がするぜ」 「同じ年の従妹を溺愛してますものね、あの子」 「それだけじゃないぜ。あのクルーゼ隊の面々、皆のことを可愛がってる。 コーディネイターってのは1人っ子が多いから、年齢的に妹のようなあいつを頬っておけないんだろう。 そしても、1人になってしまった分、余計あいつらに引っ付くようになったしな。 そーいや、ニコルと、同じ年だって言ってたよな? どっちが上なんだ?」 「ニコルですよ。私とは2ヶ月違いなんです」 開いたドアに2人が視線を向けると、ベージュのシャツに黒いズポンをあわせたキラ。そして、同じベージュのざっくりしたセーターと黒の長いプリーツスカートのが立っていた。 「すみません、遅くなりました」 の肩を抱いたままで言うキラ。 「花嫁奪還は成功したようね。カガリさんが笑いながら通信してきてくれたわ」 「アストレイに阿波踊りなんて、お前も考えたな。う〜ん、ナマで見てみたかったなぁ」 「私もよ。MSが格闘を想定して設計してあるのは事実だけど、まさかそんな細かいことができるなんて……」 「突拍子もないことをさせたら、それだけ注意を反らせられるじゃないですか。 でも、エリカさん達には今度謝っておかないといけませんよね」 「あら、彼女ならもうこちらに連絡してきたわよ。 急に踊りだされたときは驚いたけど、その代わり擬似モジュールなどのよいサンプルデータが取れたって。 だから、キラ君にお礼を言っておいて欲しいって」 「そうですか」 『よかった』と一息入れたキラ。 「……で、は? 言うことがあるだろう?」 『ん?』と顔を覗きこまれて、思わず下がってキラの後ろに隠れようとする。 「だめだよ、ちゃんと声に出さないと」 「……だって……今さら……どうやって……」 俯いてもじもじとしている彼女。 「さん」 立ち上がって近付いてきたマリューに軽く体を振るわせた。 「お帰りなさい」 「私まだ『帰りました』って言っても……構わないんですか……?」 「当たり前よ。信じられないのならもう一度言ってあげるわ。 ……おかえりなさい、さん」 「艦長さんッ!」 マリューに飛びついたは声を泣いた。 「寂しそうな顔してますよ?」 「やっぱり、年頃になると男より女に甘えたいのかねぇ……」 「……自分を基準に考えないで下さい」 に押しのけられたムウの言葉に、キラが冷たい答えを返した。 そして。 食堂ではカズイによる『俺達降りられるんだよね?』という言葉に、他の学生が呆れ返っていた。 ![]() 黒マント製作機から 思ったより進まなかった。ごめんなさい……。 To NEXT |