モルゲンレーテが見えてきた頃。私はフリーダムに通信を開いた。

「キラ先輩、をアスランさんの方に渡してくれますか?」

、僕に連れられてるのが嫌?」

「そう言うんじゃなくってですね。を抱えていれば両手が塞がります。
 手が塞がっていれば、攻撃する気はないって証明できるじゃないですか」

 ふてくされたように言ってきた先輩に苦笑しながら、私は言葉を返した。

「……わかった。アスラン、この通信は聞こえてたよね?」

「ああ、確かにの言う通りだな。俺も考えつかなかったよ」

「落としたら承知しないからね」

「わかってるさ」



 そして案の定、モルゲンレーテ工場脇に降り立った見知らぬ機体に向かって、ストライクを始めとするMSの銃口が狙ってきた。

「みんな銃を降ろしてよ。彼は敵じゃないんだから!」

「そうですよ。その証拠にを運んで来てくれたんですよ。
 側にいるのに、フリーダムはを彼に委ねてたんですから。
 攻撃しないとわかってるからこそできる行為でしょう?」

<そ、それが一番説得力あるかも……>

 そう思ったことは一致していたが、皆、口に出さない。
 キラがを他人任せにすることなど、ほとんどない。だがしかし、いつも彼女にひっついている彼がおとなしく彼女の乗ったを預けている。

を抱えているために両手が塞がっているんですから、攻撃する意志のないことは明白ですよね」

 その言葉にバスターが構えていたライフルを降ろし、そして、それに習うように降りていく銃口。

「とりあえず、みんな戻ってきて。
 地球軍も完全に撤退したわけじゃないから、また戦闘になるかもしれないでしょ。
 機体のメンテナンスにはいらなきゃ」

 エリカからの通信に、それぞれが所属場所へと戻り始めた。……とはいっても、みんな向かう先は一緒で。

「君もを連れて来て。はエネルギー切れで動けないんだしさ」




「あれに乗ってるのは誰なんだ?」

 フリーダムから降りてきたキラに、カガリがつめよった。

「俺も知りたい」

 バスターから降りてきたディアッカ。そして、その向こうから走ってくるムウとラスティ。AAブリッジクルーたちやキサカやエリカもやってくる。

「きっと驚くと思いますよ」

 キラの横にたどり着いたが言う。

「もう降りてきて構いませんよ!」

 ニコルの上げた声に、せり上がったシート。ラダーに捕まって降りてくる人物が来ているのは赤のパイロットスーツ。フルフェイスのヘルメットと、少しうつむいているせいで、顔は見えない。
 床についた彼はゆっくりと、皆の集まっている方へと歩んでくる。

「……おい……まさか……」

 ディアッカの小さな呟きに呼応するかのように、その人物はヘルメットを脱ぎ去った。そして現れたのはさらりとした艶やかな藍色の髪。

「……久しぶり……でいいのか?」

 止まって顔を上げた彼の、少し照れたような笑顔。エメラルドグリーンの両目が穏やかな光を見せる。

「確かに久しぶりだな。まさか、お前まで新型奪ってきたとか?」

「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでくれないか」

「そうですよディアッカさん。奪うのはこれからです」

「おぃっ?」

「だって、私たちを助けてくれた時点でそうですよね、アスラン=ザラさん?」

「えええッ!!!!!」

 彼とは初対面な人たちから上がる声。

「どうしてそんなに驚いているんです?」

 キラの問いかけはたちの意見を代表していて。

「だって、どう見たってお前らと同じ年だろ……?」

「だから僕と幼馴染みだって言ったじゃないですか。
 それに、僕より年下のニコルやだって、立派なパイロットですよ?」

「そーそー、ただでさえも、そいつは同期の中で総合1位の成績優秀な奴だったし」

 1歩出てきた彼に、アスランはその動きを止めた。

「あ、驚いたら動けなくなっちゃうところは、昔から変わってないんだ」

 くすくすと笑うキラ。

「ラ、ラスティ……」

「おうよ。いっとくけど足がある幽霊でもないし、誰かに乗り移ってるわけでもないからな」

「いや、別にそこまでは思わないが……」

「とにかく、詳しい話はあと。パイロットはみんな着替えてこい! アスランの分も作業服を用意してやれ!」




「……むちゃくちゃだな、それは……」

「……でしょ、僕もそう思う。―――――ううん、僕だけじゃなくて、さっき戦ったみんなそう思ってる」

「別に、白か黒か、はっきりしてしまわなくてもいいと思う。
 2つに分かれたら、それが際限のない争いを生むんじゃないかと私は思うの」

 隅に屹立させたままのフリーダムとジャスティス。
 その前に置かれた木箱の上に、僕とアスランはを挟むようにして腰かけた。ニコルやディアッカ、ラスティ、カガリは側にいるけれど、マリューさんとムウさん、そしてカレッジの友達、M1アストレイパイロットの彼女たちは少し離れた位置で見ている。

「アスラン、お前の目的はフリーダムの奪還もしくは破壊、そしてパイロットの抹殺……だな?」

 ディアッカの言葉に、隣にいたが体を震わせ、僕の腕にしがみついてくる。

「抹殺破壊対象はパイロットだけじゃなくて、それに関わった人物や施設も入っている。
 理由は……わかるだろう?」

「Nジャマーキャンセラーの技術を外に出さないため……ですね」

 ニコルの言葉に小さく頷いたアスラン。

「で、お前はそれを遂行するわけ? 何てったって国防委員会直属の特務隊なんだろ?」

「今はしないさ。……俺自身、父の言葉に従ってキラを撃つ道を取ってよいのかどうか迷ってるしな。
 俺自身の信じる『正義』を見つけ出すまでは、何もできないと言ったほうが正しいが……」

「アスランさんの『正義』ですか……?」

 見上げたの頭を軽く撫でる。

「プラントを出る前、ラクスに言われたんだ。
 『本当の正義は誰かに教えてもらうものではなく、自分で見つけ出すものだ』とね。
 確かに俺は、今まで誰かに決められた『正義』に踊らされてきたような気がする。
 だから今度は、自分が本当に正しいと思った道を進んでいきたい」

「……できるよ、アスランにも。自分の『正義』を見つけ出すことができる。
 僕だって何度も悩んで迷って、そして本当の『自由』を知ったからここにいるんだから」

「そうですよ、アスランはキラさんより頭がいいんでしょ?」

「そうそう、僕はいつもアスランにマイクロユニットの……ってニコルッ!」

「だって、が教えてくれた情報によると……」

 そっと箱から降りようとする彼女の腰に手を回して、僕は捕まえる。

「いつの間にそんなことを吹き込んだのかなぁ?」

「…………吹き込んでませんよ。
 キラ先輩はアスランさんにマイクロユニットを手伝ってもらってたっていう、事実を伝えただけですから」

「確かにそれは事実だ。キラはいつも提出期限ギリギリまでやってなくて、俺に泣きついてきてたからな」

「へぇ、そうなんですかぁ」

「トリィにしたって、最初はキラが作りたいだなんて言い出してさ。
 俺でさえも難しいのに苦手なキラにできるかって言ったら泣きそうになり……」

「もう、アスランもも、人を引き合いにして笑い合わないでよ!
 ニコルもディアッカもラスティもカガリも笑わないでっ!」

 思いがけずに暴露されてしまった過去。放っておいたら、アスランにあることないこと全部言われちゃう!
 僕は真っ赤になりながら、彼らの言葉を遮った。



黒マント製作機から
 前半まじめに、後半はお笑いっぽく。
 会談はもう少し続きます。


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