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「―――――オーブを離脱!?」 カグヤに集結した皆を待っていたのは、ウズミからの脱出命令だった。 地球連合軍が狙っているマスドライバー施設、てっきりそれを後ろ楯にして抗戦するものと思っていた者達にとってはその言葉は正に、晴天の霹靂に近かった。 少し遅れてやってきたキラと、アスラン、ムウもその言葉に息を飲んだ。 「もはや手遅れなのだ。地球連合軍の影には、コーディネイターを排斥しようとする団体。 ブルーコスモスの盟主ムルタ=アズラエルの姿がある。 ……そしてプラントも、コーディネイターこそが新たな種と信じる、パトリック=ザラの手の内だ」 父の名前にうつむいて、悔しそうに唇を噛むアスラン。キラ達はそれに言葉をかけることができない。 「このまま進めば世界は二分され、互いを認めぬ者同士が争い続けるだけの世界となろう。 それでよいのか、君たちの未来は?」 オーブという、人間が差別なく幸せに暮らしていた場所が失われてしまえば。首相の抱く懸念が現実のものとなるのは時間の問題だった。 ウズミはマリューたちAAクルー、ザフトの少年達、アサギたちアストレイパイロット、エリカたちモルゲンレーテスタッフ、そしてキラと、自分の腕にしがみ付いているカガリを順に見た。 「もし、そなた達が違う未来を知っているなら、明かりを手に前に進んで導いてはもらえぬか?」 彼の提示してきた願いは過酷なものとなるだろう。……恐らく、地球軍に組して戦うよりも、ザフトに戻って戦うよりも。 それでも敢えて、提示してきたのは強い思いだからこそ。このままだと果てなく続きかねない憎しみの連鎖を斬って欲しいと願うからこそ。 ウズミの問いかけに、その場にいた全員が小さくてもはっきりとした頷きを返した―――――。 仮設ドッグに収容されたAAは外装修復作業の傍ら、大気圏脱出用の補助ブースターを取り付けていた。 オーブの宇宙艦“クサナギ”の予備を流用したものだが、それでもパワーは十分だろうという話を、サイが首相の1人から受けている。オーブとヘリオポリスの定期便として使われていたクサナギは、M1アストレイを次々と詰め込んでいく。 「お父様、逃げるなら皆で!」 避難するように言われたのに、それでも、カガリはウズミの後を追いかけていた。 クサナギとAAを脱出させた後に残るという父たちの運命は、地球軍に拘束された後でどうなるかはたやすく予測できること。だからこそ、カガリは彼らを残してなどいけない。しかし、一度決めたことを貫く信念もいやというほどわかっている。無駄なことなのかもしれない、それでも説得をやめることはできなかった。 「ウズミ様のお考え、私は引き継いでいくよ。どこまでできるかわからないけど。 ……これはキラ先輩の意見じゃなくて、自分で考えて決めたことだから」 出発までの僅かな時間、自分の機体をどうするかということで集まったパイロット達。ただし、ラスティはすでにM1アストレイ部隊としてクサナギに搬入済。もをAAに乗せてから現れた。ブリッツとバスター、ストライクもすでに積み込みは終わっている。 ……問題は単体で大気圏突入が可能なフリーダムとジャスティス。 「僕は戦いを止めさせたい。だからフリーダムを受け取ってAAに戻ってきた」 「……だから、どうするんだ?」 「AAが先に出て、クサナギが後に出ることになると思う。そうしたら多分、地球軍も黙ってない。 だったら僕はフリーダムで援護するよ」 「ジャスティス……アスランさんはどうします?」 「俺も一緒かな……何が正しいのか、一応の答えは出たけれど。 それでも本当にそれが正しいことなのか、宇宙に上がって皆と一緒にいて、もう少し考えたいんだ」 「素直に一緒に行くっていやぁいいのに……」 「まぁまぁ、それがアスランなんですよ。 素直に思ったことを行動に移せない優柔不断さが、彼らしいところなんですから」 「…………お前フォローする気ないだろ?」 アスランの答えに呆れたように言うディアッカ。そして苦笑しながら言うニコルに、その彼にため息をつきながら言うラスティ。 ほんの一時だけ、その場に穏やかな笑い声が響いた。 「レーダーに反応あり、MSじゃぁ!」 最年長の首長から上がった声に、一気に管制室に緊張が走った。 「AA……マリュー殿、発進を!」 「わかりました! キラくん、アスランくん、頼むわね!」 「絶対に近付けませんから!」 「後でお会いしましょう!」 マスドライバーのレールの上、フリーダムとジャスティスを見送った後、ブースターをつけたAAがゆっくりと動き出す。 「“ローエングリン”発射!」 AAの主砲が放たれ、同時にブースターが点火。一気にレールを滑りあがった白亜の艦は大空を切り裂くように飛び上がり、数分後には大気圏を脱出していた。 「後はクサナギだけなのにっ……」 一向に姿を現さない2隻目。 作戦上、フリーダムとジャスティスはマスドライバーからはあまり離れることができない。 だから、相手にしている3機の攻撃をレールに当てまいとビームをシールドで防ぎつつ待つしかなかった。 「いい加減にせぬか!」 いつまで経っても離れようとしないカガリの手を引いて、ウズミはクサナギの連絡通路を歩いていた。 「嫌ですっ……皆が残るなら私もッ……」 「思い継ぐ者がなくばすべて終わりぞ! 何故それがわからん!」 立ち止まって振り返り怒鳴った父に、娘の喉はひくりと音を立てる。 「……ウズミ様の言うとおりだよ。ここで皆死んじゃったら、オーブの理念は完全に消えるよ?」 「にキサカ、このバカ娘を迎えに来てくれたのだな」 彼のその言葉に、は少し困ったような笑みを浮かべた。 「カガリは父親思いのいい娘です。ウズミ様のことが大好きで大切だからこそ、離れたくないんですから」 「わかっておるよ」 娘の腕をキサカに託し、ウズミは心底愛しそうにカガリの頭を撫でた。 「お父様ッ……」 「そんな顔をするな、獅子の娘が」 「でも……」 刻々と近付いてくる別れの時。それを思うと、カガリの目には涙が溢れてくる。 その様子をとキサカは、静かに見守っていた。 「確かに父とはここで別れる。しかし、お前にはキョウダイもおる」 「え……?」 渡された1枚の写真。そこに写っているのが誰か、には見えなかった。 「お父様、これはっ……」 「そなたの父であれて幸せだったよ」 ウズミはキサカと目配せする。キサカがカガリの腕を掴んで、クサナギ内部へと引き込んだ。その後をが乗って、そして音を立ててしまるハッチ。 動き始めたことで、父と娘の距離は少しずつ離れていく。 「お父様ッ、お父様ァッ」 傷付いたレコードのように同じ言葉を繰り返す彼女を、隣の2人は掛ける言葉もなく見守っているしかなかった。 「来たッ!」 レールの上を滑りながら加速していくクサナギ。 キラはスロットルを踏み込んで僅かな突起物へとしがみ付いた。そして、やや遅れ気味のアスランに向かって賢明に手を伸ばす。 2機の手が重なって、ジャスティスも無事にクサナギにしがみ付くことができた。 「キラ!」 「わかってる!」 フリーダムとジャスティス、一斉に火を噴いた。 海面を打った攻撃は激しい水蒸気を巻き上げ、追いかけてきていた3機を足止めさせる。 その隙間を縫うように、淡いグリーンのクサナギは空へと飛び上がった。 「…………これでいい。種は飛んだ…………。 彼らも、そしてこのオーブも、いいようにはさせん!」 始めは見間違いと思いたかった。 しかし、2度3度と立ち上る火柱は、離れていく窓からも十分に確認できた。 「あ、ああ、ああああああっ…………」 オーブ首相家の娘は言葉にならない声を上げながら、眼下の光景から目をそらせなかった。 「お父様ァァァァァァァァ!!!!!!!!!」 少女の悲痛な叫びを残し、南海に浮かんでいた平和の国は、ゆっくりとその終わりを迎えた。 ![]() 黒マント製作機から ちょっと駆け足っぽくなったナァ、と反省。 次ぐらいで3クール終了させます。多分。 To NEXT 連載TOP |