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「私たちは一体どこへ行きたかったのでしょうか―――――」 プラント・アプリリウス市の街頭モニターに、今日も非戦を訴え続けるラクス=クラインの姿が映し出される。 彼女を否定するのが、別の場所の同じ街頭モニターに映し出されるパトリック=ザラ。 淡々と静かに語り続けるラクスに対して、彼は口の中の唾液を飛ばしかねない勢いで叫ぶ。 「彼女を信じてはなりません。ラクス=クラインは地球軍に軍の重要機密を売り渡した、反逆者なのです!」 最新鋭のMSを奪ったのが彼女だということから、オペレーション・スピットブレイクが失敗したのは情報が漏洩していたせいで、それをやったのもクライン派だと決め付けられ。 そのことを知らされた市民は、モニターに映るピンクの歌姫を憎しみのこもった目で見る人々と、彼女の言葉に耳を傾けながらも日常生活を続ける人々と、半々だった。 追っ手から逃れるために、父と娘は別れ、次から次へと拠点を移さざるを得ない。 そんな中で、とうとう、恐れていたことが起きた。 「……そうか」 執務室にもたらされた知らせに、パトリックは黙祷するように、僅かに目を閉じた。 彼の自業自得だとはいえ、自分がその命令を出したとはいえ。 同じ時代を生き、そして、同じ辛さや苦しみを味わった。 「……お前も虐げられた時を知っているというのに……バカな男だ………」 小さく唇を動かしただけの名前は、その場にいた誰にも届かない。 そして、パトリックは顔を上げた。 「まだ、娘の方が残っている……」 短い返事の後で退室していった兵士。そして、室内にはパトリック1人になる。 こんなことさえなければ義理の娘になっていた少女を思うと、その若い命を摘み取るのは残酷なことのようにすら思えた。 しかし、もう遅いのだ。 自分の命令で、彼女の父の命を奪った。 そのことを知った時、少女は自分を恨むだろう。 恨みを捨てて争うことをやめようと訴えかけている本人が、捨てなければならない感情に支配されることとなるだろう。 「手遅れなのだ……もう……」 小さい言葉を聞く者は、そこには存在しない―――――。 「キラ、ちょっといいか?」 クサナギの展望デッキ。眼下にはメンテナンスベッドに固定されているM1アストレイが並んでいる。 うつむきがちに入ってきたカガリに、談笑していたキラ先輩、アスランさん、それを眺めていた私はその注意を彼女に向けた。 「お前に話したいこと……あるんだ」 神妙な面持ちのカガリを見て、邪魔をしてはいけないと思った私はそっとアスランさんの腕を引いた。 アスランさんはその行動に少し眉を動かしたものの、私が言いたいことを悟ってくれたみたいで。そして、その場を離れようと軽く床を蹴った。が、それはカガリの腕に捕まえられて。私も同様にキラ先輩に捕まえられた。 「アスランと2人で逢引させないからね」 「お前は、自分を基準に物事を考えるなっ!」 すかさずアスランさんの手が、キラ先輩の頭をぺしっと叩いた。 ……なるほど、キラ先輩がボケ担当で、アスランさんがツッコミ担当なのか……。 って、冷静に分析している場合じゃなくて。 「カガリが用事あるのはキラ先輩だけみたいだし、部外者の私たちがいたら邪魔でしょ?」 「そんなことないっ!……私にもよくわからなくて……だからっ、に側にいて欲しいんだ。 あの時、一緒にお父様からの話を聞いたお前だからっ……」 私がそれに聞き返すまもなく、カガリがポケットから出したものをキラ先輩に押し付けた。 あれは、ウズミ様が最後にカガリに渡した写真―――――。 「これが……何?」 キラ先輩がわけがわからないといったふうに呟く。 私もアスランさんも、好奇心に駆られてそれを覗き込んだ。 薄い茶色の長い髪の女性に抱かれている、2人の赤ちゃん。 これと同じ写真を、どこかで見ている―――――。 そんな既視感が、私の心を揺さぶった。 「裏……」 カガリが一言だけ発した言葉。 何の疑問を抱くこともなく、キラ先輩は言われたとおりに裏返した。 『キラとカガリ』 走り書きで残されていた文字に、そこにいた誰もが言葉を失った。 もちろん、僕も何も言えなかった。 「これ……どこで……?」 ようやく絞り出せたのが、そんな言葉で。 「クサナギが発進する時、お父様に渡されたんだッ……おまえにはきょうだいもいるって……」 「渡された現場は、私も見てるよ。……その時はどんな写真か、見てなかったけど……」 僕は写真と……そして、カガリの顔とを何度も見比べた。 「どういう、ことなんだっ……」 「そんな……僕にだってわからないよ……まさか、こんな……」 「……ふた……ご……?」 アスランが呟いた言葉に、自分でもびくりと震えたのがわかった。 この写真で、赤ん坊を抱いているのは、僕の知らない人。 でも、彼女は僕とどこか似たような風貌を持っていて。そして、カガリにもどこか似ていて。 …………だとしたら。 彼女が僕の本当の母親で、今まで育ててくれた両親は、本当は両親じゃないということで……。 「じゃあっ、じゃあお父様はッ……、私はオーブの獅子の娘じゃない……?」 カガリも僕と同じ考えに当たったらしい。 大きく開いた琥珀の瞳から溢れる水滴が、無重力に漂う。 「たとえ僕とカガリが『きょうだい』であったにしろ、カガリのお父さんはウズミ様だよ」 「……それでいいのか?」 「カガリはウズミ様の娘であることを、誇りに思ってるんじゃないの?」 「あ、当たり前だっ!」 「ならいいじゃない。僕だって、今さらヤマト以外のファミリーネームを名乗る気はないよ。 だから、カガリもアスハの娘であることを、ウズミ様の娘であることをやめちゃ駄目だよ?」 そう言った瞬間、僕はカガリに抱きつかれていた。大泣きしている彼女を引き離すこともできず、しばらくその状態だった。 「好きになっちゃ、いけなかったんだ………………」 話に夢中になって手が離れていたのも幸いした。 私は静かに展望デッキを離れ、居住区に向かって移動していた。 でも頭を占めるのは、あの写真のことばかりだった。 「どうしてっ……もう、止められないのにッ……」 ドン、と壁に背を預けて。 私は両手で顔を覆うしかなかった。 ![]() 黒マント製作機から フレイ嬢にかかわるシーン、意図的じゃないんだけど避けてます(苦笑) 逃亡ラクスと追いかけるパトリックさん。お亡くなりのシーゲルさん。あっさり終わらせる。 カガリとキラの双子写真。 これについては、ヒロイン過剰反応。思わずその場から逃走。 しかし捕まえていた方も周りの方々も驚きすぎて、逃げられたことに気が付いていないです。 To NEXT 連載TOP |