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居住区へ通じる通路の隅に、よくこんなところに入り込めたものだと思う場所に、探していた姿はあった。 狭くて見落としてしまいそうな場所で、自らの膝を抱え込んでじっとしている彼女。それをあっさりと見つけてしまった幼馴染は得意気に笑う。 「そこで何してるの?」 見ればわかるだろうに、それをあえて口に出して問いかけるのは何故だろう。俺にはちょっと理解できない。 「さ、AAに帰ろう。カガリが『も少し休ませてやれ』って言ってたし」 「やめてくださいッ!!!!!」 彼女の二の腕を掴もうと伸ばされたキラの手。拒否の言葉とともに弾かれたそれは、3人だけの場に乾いた音を響かせた。 「おいおい、どうしたんだ?」 「……あ、アスランさ……」 どうやら、俺の気配に気がつかなかったらしい。 声をかけられて初めて気がついたんだろう。彼女にしては珍しいこともある。 びくりと肩を震わせて顔を上げたは、そのままキラを突き飛ばして俺の胸に飛び込んできた。 「もー、抱きつく相手が違うでしょ。僕はコッチ」 ふてくされたように言ったキラが、の肩に手を伸ばした。 「嫌ッ、触らないで!」 ぎゅうっと俺にしがみついてくるは、小刻みに震えている。何か繰り返し呟いているようだったけれども、あまりにも小さな声で拾うことができない。 2度もはっきりした拒絶をぶつけられたキラの方は、訳がわからないといった風に眉根をしかめていて。 「、キラの方に行ったほうがいいぞ」 「……行きたくないんです」 何があったというのだろう。先ほどまでは、正確にはカガリの写真を見て静かに出ていった後の彼女は、キラとの接触を避けているようで。俺は『やれやれ……』とため息をついた。 「とにかく、AAに戻ろう。も少し休まないとダメだろ?」 「は……?」 「こっちにおいて行けばいい。俺の膝に乗って帰ればいいから」 こくんと頷いたは『それじゃ着替えてくる……』とその場を離れていった。 「アスラン、に変なことしたら承知しないからね」 少女の姿が見えなくなってから聞こえてきた声。 「変なことって、何をするんだ?」 「に頼りにされてるからって、押し倒さないでってことだよ!」 「……だから、お前を基準にして考えるのはやめてくれ。 第一、妹にしか見えないあいつをそんな対象に見たことなんてないぞ」 幼馴染は子供みたいな我儘全開。今にも噛みつきかねない表情でこちらをにらんでくる。そしてふと真剣な顔付きに戻って。 「どうしては、急にあんな態度をとるようになったんだろ……」 「俺にだって見当つかないさ。とにかく、俺たちもパイロットスーツに着替えよう」 「……うん……」 着替え終わってMSデッキに入ると、既に着替え終わっていたは、俺の方へとまっすぐ漂ってきた。隣にいるキラには、視線すら向けようとしない。 「、すまん」 「は?」 一言謝って、俺は彼女のみぞおちに当て身を入れた。予想していなかったことに無防備になっていたらしく、はあっさりと気絶してしまう。 「キラ、お前が連れて帰るんだろ?」 ぐったりした彼女を渡されて、キラは目を白黒させていた。 「僕はうれしいけど……こんなことして、アスラン。後でに恨まれるよ?」 「お前の恨みのこもった視線を受けているほうが怖い気がするからな」 「……何だよ、それ……」 プッと頬を膨らませたキラだったが、の体を大切な壊れ物を扱うようにそっと横抱きにする。 「じゃあ、アスラン先に出て。AAで会おうね」 「私、アスランさんに気絶させられたんだっけ……」 背中に当たる柔らかい感触、そして見慣れた天井。起き上がると、掛けられていたシーツがずり落ちた。 「おはよう、っていう時間じゃないかな? もう夕方だから」 大好きな声。でも、今は聞きたくなかった声。 「昼前にAA戻ってきて、ずっとは寝てたんだよ。よほど疲れてたみたいだね」 ゆっくりと歩み寄ってきた彼は、私の頬に掛かっている髪を伸ばした指先で払おうとしてきた。 「触らないでくださいッ!」 その手から逃げるように、私はシーツを頭から被って、ベッドに丸くなって先輩に背を向けた。 「さっきからどうしたの? そんなに僕に触られるのがイヤ?」 戸惑いと悲しみを含んだキラ先輩の言葉に、口を開けない私は頷くしかできなかった。口を開いてしまえば泣き声しか洩れないだろうから。 「嘘吐き」 ぐっと肩を引かれて上を向かされて、被っていたシーツは乱暴に取り払われてしまった。 「それじゃ、どうして泣いているのさ」 上に乗ってきた先輩が、私の頬に伝う流れに唇を寄せようとする。 が、私は首を出来る限りに反らせてそれから逃げた。もちろん口は開かないし、絶対に視線を合わせようとしない。 「がいきなり僕を拒む理由、ちゃんと聞かせて」 「……言いたくありません」 こらえてこらえて、必死で紡いだ9文字。 「そんな答えで納得するわけないでしょ。言わないと、このまま喉が痛くなるまでナカスよ?」 「それでキラ先輩の気が済むんでしたらどうぞ。……でも、私は絶対に言いませんから」 少し考えていたようなキラ先輩は、ため息をついて私の上から離れた。 「は僕が嫌いになった?」 「……それができれば苦労しません」 私は再びシーツにくるまって、壁と向かい合った。 「だったら、どうして逃げるの?」 「それは言えません……。でも、私はもう……キラ先輩に気に掛けてもらえることが苦痛になったんです。 先輩に好きだと言ってもらってばかりなのに、私にはそれが……」 「そういうことはちゃんとこっちを見て言ってくれる? でなきゃ信じてあげないよ」 言葉とともに、私の体はベッドサイドに座っていたキラ先輩に抱きしめられていた。 「離してください」 「さっきの言葉をもう1度、この状態で言えたら信じてあげるし、すぐ離してあげるよ。 ねぇ、どうしては僕から逃げるのさ」 「それは……もうキラ先輩に掛けて……ひっ、く……苦痛にっ……っくぅ……なっ、なった……っ……」 言わなきゃいけないのに、それなのにうまく言葉は出てこない。出てくるのは涙と嗚咽だけ。 「ゴメンゴメン。いじめすぎたね」 うつむいてしゃくり上げながら必死で言葉を紡ぎ出そうとする私の頬に、キラ先輩の手が添えられた。上向かされて、目尻や頬、伝う場所すべてに寄せられた唇が涙を啜ってくれる。 「嫌いになった訳じゃないのに、嘘ついてでも離れようとするなんてね。 何があったか知らないけれど、離れてなんかあげないよ。僕はのことが大好きなんだから」 触れるだけのキスは、回数を重ねて徐々に深く長くなっていく。 私はもう拒めなかった。本当は私はキラ先輩に抱かれる権利なんてありはしないのに……。 あの事実を知った時、彼はどういう態度をとるのか知りたいようで、知るのが怖い―――――。 ![]() 黒マント製作機から アスラン、キラににらまれたくないので、あっさりヒロインを差し出しました。< To NEXT 連載TOP |